【第2回】■アミーゴ | マイナビブックス

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こそこそと店に入ってくるイワミ。

 

イワミ  「…あのう」

マスター 「いらっしゃい」

イワミ  「あのう、ここ、アミーゴですか?」

マスター 「そうだけど…」

イワミ  「マスターはあなたですか?」

マスター 「見れば、わかるでしょ」

イワミ  「ええ」

マスター 「で、何にします?」

イワミ  「何って…」

マスター 「注文ですよ。注文」

イワミ  「…あ、ジュースをお願いします」

マスター 「ジュースね。で?」

イワミ  「?」

マスター 「なんのジュース?」

イワミ  「あ、マンゴー…あります?」

マスター 「マンゴー? …?」

イワミ  「ないですか?」

マスター 「……。あるけど」

イワミ  「よかった。それでお願いします」

ナンゴウ 「ジュースねぇ。…ボーヤだな」

ノゾミ  「どう見たって、ボーヤだってわかるじゃないのよ」

イワミ  「それから…」

マスター 「なに? 追加の注文?」

ウネビ  「君、学生?」

ノゾミ  「学生は来ちゃダメよ。ちなみに私、未成年だけど」

ナンゴウ 「それはプロフィールの上だけだろうが!」

ウネビ  「私もそう思います。永遠の18歳なんて、ちょっと無理がありますよ、実際」

ノゾミ  「そういうこと言うとね、うちのマネージャーに殺されるわよ」

ノゾミ  「ねえ、無理だと思う?」

トウジョウ「いいえ。無理ではありません」

ノゾミ  「でしょう!」

ウネビ  「大変ですね」

ナンゴウ 「まったく」

トウジョウ「大変じゃないです。決して大変じゃありません」

イワミ  「あのう、相談にのってほしいことがあるんですが」

マスター 「相談?」

ナンゴウ 「ウネビ先生、この子、進路相談だって」

ウネビ  「ここは学校ではありませんので、お断りします」

イワミ  「進路相談なんかじゃありません! 追われているんです、僕」

ナンゴウ 「ケッ。どうせ受験に追われてるんだろ? 逃げるんじゃねえぞ」

ウネビ  「夏は入試の天王山」

イワミ  「そっちの受験はとっくに終わっています」

トウジョウ「ならサマソニの季節です」

ノゾミ  「サマソニ出たーい。出たい、出たい、出た―――い」

トウジョウ「出られません」

トウジョウ「だってプロデューサー殴ちゃったんだもん」

ノゾミ  「アイツが悪いのよ」

トウジョウ「だからって殴ることないじゃないですか!」

ノゾミ  「そお? アイツ、衣装合わせの時、なにかにつけて、覗くのよ」

ノゾミ  「おぉっと、部屋を間違えたあ。おぉっと、時間を間違えた」

ノゾミ  「おぉっと、自分の彼女と間違えたぁ、とかなんとか言ってさ」

ノゾミ  「ほんで持って、バシーンとゲンコで殴ってやったわよ」

ノゾミ  「ふっ…。おかげで、私も指の骨折って、一ヶ月、マイクを握ることはできなかったわ」

トウジョウ「アイドルなんですから、マイクを握る手だけは気をつけてくださいね」

イワミ  「アイドルって手が命だったんですね」

ノゾミ  「そうよ」

ナンゴウ 「そうかあ?」

ウネビ  「彼女だけが特別だと思いますよ」

イワミ  「そうですか…」

マスター 「つまんない大人の話はいいから。相談って、…何に追われてきたの、君?」

イワミ  「…憲兵に追われているんです」

マスター 「憲兵!」

ノゾミ  「憲兵!」

トウジョウ「憲兵ですか…」

 

煎餅を出すナンゴウ。

 

ナンゴウ 「憲兵!」

ウネビ  「それは煎餅でしょう」

ナンゴウ 「おいっ、おいっ…マスター、追い出せよ、こいつ」

ノゾミ  「賛成――――!」

トウジョウ「これはまずいんじゃないんですか…」

ウネビ  「同感です」

イワミ  「ちょっと…皆さん、どうして…」

ノゾミ  「私、この国で仕事続けたいもん」

ナンゴウ 「憲兵だぞ、憲兵」

ナンゴウ 「おい、ボクちゃん」

イワミ  「ボクちゃんて言わないでください。僕はイワミ・シンイチといいます」

ウネビ  「それではイワミ君、いったい何をしたんだい、君は?」

イワミ  「憲兵が一般市民を逮捕するのに、理由なんか、ありますか?」

ウネビ  「うぅん…、確かに言われてみれば」

 

御真影を示し、

 

マスター 「イワミ君さあ、あれ、見える?」

イワミ  「あっ!」

マスター 「そう御真影」

イワミ  「憲兵に味方するんですか、この店は?」

マスター 「一応、この国の国民だから。…それって結局、憲兵の味方になるのかなぁ」

イワミ  「追われている人間を突き出しますか?」

マスター 「それは…」

イワミ  「だったら匿ってください」

マスター 「どうして?」

イワミ  「どうしてって…」

イワミ  「…このお店は、そういうお店じゃないんですか? …その筋では有名ですよ」

ウネビ  「その筋?」

ナンゴウ 「マスター、どういうことだよ?」

ノゾミ  「マスターこの店、安心、明朗会計、あっち系とは関係なかったんじゃないの?」

トウジョウ「マスター。うちのアイドル、スキャンダルに巻き込まないでくれますか!」

マスター 「君、ちょっと来て」

イワミ  「えっ?」

 

イワミを奥へ連れて行くマスター。

 

マスター 「君さぁ、時と場所と空気読んでくれる?」

イワミ  「はぁ…」

マスター 「それで、店のこと、どれくらい知ってるの?」

イワミ  「その…マスターがレジスタンスを匿ってくれるってこと」

マスター 「それ、誰から聞いた?」

イワミ  「大学の保健の先生です」

マスター 「保健の先生? どこの大学…っていうか。保健の先生が何してんだよ、まったく…。君とどんな関係なんだよ」

イワミ  「ちょっと、先生が、僕の悩みを聞いてくれて」

マスター 「保健の先生が教えることじゃないだろうが。そもそも大学に保健室ってあったのか?」

イワミ  「ありますよ」

マスター 「なら悩みってなんだよ。悩みなら、恋とか勉強とかじゃないのか? 若者をこんなことに巻き込むんじゃないよ!」

マスター 「それでだ、君、レジスタンスなのか?」

イワミ  「いいえ、違います」

マスター 「なら出て行ってくれよ」

イワミ  「助けてくださいよ~。あいつら、無実の罪でも逮捕するじゃないですか~」

マスター 「嫌だ。厄介ごとには関りあいたくない」

イワミ  「匿ってくれなかったら、あの人たちに、バラしますよ」

マスター 「…」

 

聞き耳を立てているナンゴウ達。

 

ナンゴウ 「なんか秘密あるの、マスター?」

ウネビ  「マスターが隠しごとなんて。とても興味ありますね」

ノゾミ  「ねえ、スキャンダルは身を滅ぼすわよ~」

トウジョウ「でも人の秘密って蜜の味がしますよね~」

マスター 「ちょっと皆さ―――ん、耳が象さんになっていますよ――。何でもありませんからね――!」

イワミ  「バラされたら、困りませんか?」

マスター 「…」

イワミ  「マスターの秘密、知らないんでしょう?」

マスター 「…このぉ!」

マスター 「とにかく出て行ってもらう」

イワミ  「だったら、バラしてやる!」

イワミ  「皆さ――――ん。ここはレジスタンスに…」

マスター 「ちょっと待て!」

 

突然、店の外からキキィ―――、ドカ―――ンという音が聞こえてくる。

 

イワミ  「?」

マスター 「?」

ウネビ  「今の音、何でしょう?」

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