【第1回】■アミーゴ | マイナビブックス

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■アミーゴ

不気味なサイレンが鳴り響く。

場所は地下の酒場「アミーゴ」。

店の壁には総統の御真影。

カウンターの中にはマスターのタチバナ。

カウンターには客として、ライダーのナンゴウ。

 

マスター 「ナンゴウさん、ナンゴウさん?」

ナンゴウ 「?」

マスター 「将棋やるかい?」

ナンゴウ 「やらない」

マスター 「チェスは?」

ナンゴウ 「いいよ」

マスター 「ナンゴウさん?」

ナンゴウ 「ん?」

マスター 「聞いていいかな?」

ナンゴウ 「なに?」

マスター 「そのヘルメット、外さないの?」

ナンゴウ 「気になるか?」

マスター 「まあ、普通ね」

ナンゴウ 「外さないよ。ポリシーだから、俺の」

マスター 「ポリシーなんだ」

ナンゴウ 「ああ」

ナンゴウ 「そっちこそ、外せよ、マスター」

マスター 「何を?」

ナンゴウ 「あの御真影だよ。めざわりなんだよ」

マスター 「ナンゴウさん、それ、どういうことか、わかってる?」

ナンゴウ 「フンッ。聞くなよ。反体制の人間なの、俺は」

マスター 「ごめん。外せないよ」

ナンゴウ 「ケッ、ひよりやがってさ」

 

トイレから出てくるウネビ。

 

マスター 「トイレのドア、閉めて、閉めて」

ウネビ  「ごめん、ごめん、忘れてました」

ウネビ  「あれ、ナンゴウさん、来てたんだ?」

ナンゴウ 「いたんだ、ウネビ先生」

ナンゴウ 「飲もうよ、今夜は。な、な、な」

ウネビ  「運転、大丈夫なんですか?」

ナンゴウ 「乗ってきてないから、大丈夫、大丈夫」

ウネビ  「乗らない時も、ヘルメット、かぶってるんですか?」

ナンゴウ 「ポリシーだからさ、これ」

ウネビ  「はぁ…」

ナンゴウ 「だからさ、先生もパ――っと行こうよ」

ウネビ  「静かに飲むのが、私の飲み方なんですよ」

ナンゴウ 「ケッ。これだから、学校の先生はつまんないんだよね」

ウネビ  「先生かどうかは関係ありませんよ」

ウネビ  「私はマスターからプレゼントを貰ったら、帰りますよ」

ナンゴウ 「えっ? プレゼント?」

ウネビ  「そう。マスターから、今日、私にプレゼントがあるって」

マスター 「プレゼントねえ?」

ウネビ  「そうですよ、マスター? メールで送ってくれましたよね」

マスター 「はぁ…」

ウネビ  「もしかして、忘れてたんですか?」

マスター 「…ああ、…きっと、あれかな…」

マスター 「忘れるわけないよ。後で渡しますよ」

ナンゴウ 「マスター、ちょっと待ってよ。そっちが先? いつか俺に特別カクテル、作ってくれるっていう、あの約束はどうなってるわけ?」

マスター 「あぁ、あの約束ね。あれさぁ、ナンゴウさんがさ、ツケ全部払ってくれたら、約束守るよ」

ナンゴウ 「あっ、そ!」

ナンゴウ 「いつもマスターが言ってる、象でも恋に落ちるという、カクテル、飲んでみたいよな」

マスター 「いつか、ね」

 

入り口からノゾミとトウジョウが入ってくる。

 

ノゾミ  「!」

トウジョウ「!」

マスター 「いらっしゃい」

ナンゴウ 「うわっ。来たよ」

ウネビ  「来ちゃいましたね」

ナンゴウ 「今日、来ることになってたの、彼女?」

マスター 「いや、聞いてなかったけど?」

ノゾミ  「なによ、あれくらい、大丈夫。もっと歌いたかったわよね」

トウジョウ「あれ以上、声を出すと、たぶん死人が出てるかと…」

ノゾミ  「ここだと存分に、朝まで歌えるわ」

トウジョウ「お客様が少なければという条件ですが…」

ノゾミ  「トウジョウ!」

トウジョウ「はい」

ノゾミ  「まずはカクテルを一杯」

トウジョウ「ただちに」

マスター 「カウンターに入らないでくださいよ。トウジョウさん」

トウジョウ「すいません」

トウジョウ「どうぞ、ノゾミさん」

ノゾミ  「ありがとう」

ノゾミ  「ウゲッ、まずい」

ノゾミ  「トウジョウ!」

トウジョウ「はいっ!すぐに作り直します」

ウネビ  「歌手のマネージャーも大変ですね」

ノゾミ  「トウジョウ! 大変なの? 正直に答えなさい」

トウジョウ「いいえ。大変じゃないです。決して大変じゃありません」

ナンゴウ 「こりゃ大変だあ」

ノゾミ  「マスター、今日は歌わしてくれるのよね」

マスター 「歌うの?」

ノゾミ  「そう聞いてるわよ」

ノゾミ  「トウジョウ!」

トウジョウ「携帯の留守電に入っていましたよ」

マスター 「は? 入れてませんよ」

トウジョウ「入ってました」

マスター 「そんなこと言われてもねえ」

トウジョウ「入れたと言ってください。言ってくれないと、マネージャーの私の命は」

ウネビ  「どうなるんですか?」

トウジョウ「……。それ以上、聞かないでください」

マスター 「…。わかりましたよ。入れたということにしておいて」

ノゾミ  「よっしゃ。今夜は私の新曲、聞かしちゃるわい」

ナンゴウ 「えっ! やっぱり歌うの?」

ノゾミ  「歌っちゃ悪い?」

 

耳を塞ぐナンゴウ、ウネビ、マスター。

 

ナンゴウ 「…」

ウネビ  「…」

マスター 「…」

ノゾミ  「耳を塞ぐな、おまえら!」

ノゾミ  「今まで一度も新曲、聞いたこともないくせに、耳を塞ぐんじゃない!」

 

耳を塞いでいるトウジョウ。

 

トウジョウ「…」

ノゾミ  「トウジョウ、マネージャーだろ、おまえは!」

トウジョウ「すいません! 死にたくありません」

ノゾミ  「タレントのために死ねないヤツはマネージャー失格!」

トウジョウ「すいません。本当にすいません」

マスター 「まあまあまあ。二人とも、落ち着いて、落ち着いて」

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