【第2回】青森県 突然の大津波で壊滅しなかった幻の国際都市 | マイナビブックス

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日本全国小さな歴史発見の旅 東日本編

【第2回】青森県 突然の大津波で壊滅しなかった幻の国際都市

2016.01.28 | ナリタマサヒロ

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 紀元79年のヴェスヴィオ火山の大噴火により、1万人の市民もろとも消滅した都市ポンペイの逸話をはじめ、アトランティス大陸の沈没など、世の人々というものは、「一夜にして、滅び去った……」と、いうフレーズに弱いものらしい。

 

 日本においても、同じく浅間山の噴火で埋没した村の話や、慶長の大地震で別府湾に沈んだと言われる瓜生島伝説なども伝わっている。

 

 そうした「壮大な都が、一夜にして消滅する伝説」というのは、カタストロフという言葉に象徴されるように、どこか、ロマンと郷愁を感じるテーマなのだろう。

 

 青森県の津軽半島の北西部に、十三湖(じゅうさんこ)という湖がある。周囲は30キロだが、水深は最大でも1.5メートルと浅く、岩木川が流入する汽水湖だ。

 

 この地に、かつて、十三湊(とさみなと)と呼ばれた、幻の国際交易都市が存在した。

 

 鎌倉時代には、安東氏という豪族の本拠地として、北海道のアイヌや、遠く、渤海や朝鮮半島、中国とまで交易をしていたことは、発掘調査などからも知られている。

 

 しかし、そうした国際貿易により繁栄を誇った十三湊だが、興国二年(1341年)に突然の大津波によって、一夜にして壊滅し、それゆえ、「幻の北の王国」として、歴史マニアのロマンを掻き立てた。

 

 この大津波を語り伝える資料とは、『東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)』という名の古文書である。

 

 実は、この古文書を巡っては、東北の古代史を揺るがす大事件として、世間の注目を集めた。

 

 何しろ、数百冊にも及ぶ膨大な文書量であり、内容も邪馬台国以前の古代王朝から、安東氏が事実上の日本の王として君臨し、最盛期には、中国人・インド人・アラビア人・欧州人などの異人館が営まれ、カトリック教会まであったとするダイナミックなものであった。

 

 しかし、その記述には、「冥王星」など20世紀に入ってからの天文学用語が登場するなどの多くの矛盾が見られ、十三湊遺跡の発掘調査の結果からも、大津波の後は確認されておらず、さまざまな検証の結果、日本史上、最大の『偽書』という評価が下された。

 

 けれども、この地には「福島城」という一辺が約1キロの三角形をした、総面積62万5千平方メートルの壮大な規模の城郭跡が存在しており、安東氏が勢力を誇ったことは間違いない。

 

 また、この十三湊からは、かの源義経が海外脱出した話が室町時代に成立した『御曹子島渡り』という『御伽草紙』にも描かれており、ロマンは尽きないのだ。

 

 

所在地 「十三湊遺跡」:青森県五所川原市十三

交 通 JR「五所川原」駅から弘南バス十三湖経由小泊行きで1時間10分。「中の島公園入口」下車、徒歩すぐ