【第02回】三階 プロジェクター映像 | マイナビブックス

100冊以上のマイナビ電子書籍が会員登録で試し読みできる

諍わなければならないいくつかのこと

【第02回】三階 プロジェクター映像

2016.01.28 | 宇野正玖

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

三階 プロジェクター映像


下部舞台のパネルには三階の様子がプロジェクターによって投影されている。轟はバス会社へ連絡を入れているところだった。

轟 ええ、そんなところです。で、キャンセル料なんですが、…。え?全額、ちょっと待ってくださいよ。そちらさんは運ぶのが仕事でしょう。今回我々は一切運んでもらわないんだ。それじゃあこちとらは一体全体何に金を支払うっていうんですか?…。え?…。はい。…。えー、…。はい。あのね、決まりってねえ、気をきかせなさいよ。昔はそういうことは兼ね合いでなんとかなったもんだと思うんですけどね~、そうそう最近は、お宅さんみたいな企業に出会うと、まるで機械と話しているみたいに思うんですよ。心は?心はどこいったんです。…。あ?…。こっちの都合だ?そういういけすかない反論をする前に、激昂げつこうした顧客を宥なだめる努力をしろってんだ。社畜が。俺だって行きたかったんだよ!クマとか!ヒツジとか!!

轟は乱暴に電話を切る。儷が三階へ現れる。

儷 何?
轟 ああ、バス会社。
儷 ヒツジ?
轟 ああ、今日は全部キャンセルだ。
儷 え?
轟 中のせいだ。校長が決めた。
儷 校長お着きになったのね。でも校長、楽しみにしてたのに。クマとか。
轟 ああ、ヒツジとかね。あれだ…。仄は?
儷 寝込んでるわ。ショックだったんでしょ。
轟 そうか。まったく何考えてんだ、中のやつ。
儷 多感な時期なのよ。子供のやったことでしょう。
轟 あいつはだ。
儷 だから子供でしょう。
轟 学校とかいうものをつくるから子供っていうカテゴリーが生まれたんだ。あいつは工場働きなんだろう、早いとこかなんかで卒業させときゃよかったんだ。
儷 そんな言い方しないでよ。大事な生徒でしょ。
轟 ああそうだ。でもよりにもよって一年生にやらんでも。
儷 うん、そこが気になっていたのよね。あの二人、いい感じだったから。
轟 え?
儷 中と仄よ。私の感だけど、多分好き合ってたと思うわ。
轟 なんだそのガキみたいな推論は。
儷 わざわざ覗きなんてしないでも、ねえ。
轟 ねえってよ。それより今日はどうするんだ?バーベキュー…。
儷 厳重注意でしょう。バーベキューも中止。なら私が作らないと。
轟 そうか。大変だな。
儷 そうそう、女手ひとつだから。
轟 女生徒がいるだろう。
儷 生徒は楽しませなきゃ。こんなことがあった次の朝だし。でも、引率したりする手間は省けたわ。どうやら先生やらずに済みそう。
轟 そうだな。
儷 今日、あなたは何をするの?
轟 とりあえず男子生徒を監視する。
儷 一日中?
轟 奴らが大人しくしていれば、何もしないですむ。
儷 そう、それじゃあ、私、支度しようかな?
轟 すればいいだろう。
儷 するわよ。
轟 しろよ。
儷 するってば。
轟 なんだよ。
儷 なにが?
轟 …。
儷 …。

ふと、儷は三階を撮影しているカメラを見る。しかもじっと見る。

轟 なんだ?
儷 …。

儷は今度はじっと轟を見る。

儷 強…。
轟 あ?
儷 …ううん、なんでもない。

儷は去る。

轟 …なあ、手伝おうか?

暗転