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ご存じですか? ~将棋用語のおもしろ辞典~

【第3回】「筋」/「味」

2016.01.13 | 雨宮知典

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第5回 「筋」

 

今週のお題は「筋」です。読み方は問題ありませんよね。そう、「すじ」です。将棋の用語で「きん」と読むケースはありません。

棋士を含めた業界人は、将棋に直接関係がない話でも、この言葉をやたらと使います。次号でお題にする予定の「味」とともに、業界二大用語と言えるでしょう。この2つを使いこなせるかどうかで、将棋にどれだけはまっているかが分かります。

それはさておき、本題に入りましょう。将棋で「筋」という言葉は、大きく分けて二通りの意味で使われます。

 

セオリーとして

 

将棋にそれほど縁がない人でも「筋がいい」という言い方は聞いたことがあると思います。「素質がある」、「センスがいい」というニュアンスのほめ言葉で、逆の場合は「筋が悪い」という言い方になりますね。

ただしこの場合の「筋」は将棋特有の用語というわけではなく、一般的な用法と言えるでしょう。

独特の使い方とは、例えば「こういう場面では、こう指すのが筋だ」というようなものです。ここでの筋は「理論的」、「セオリー」というニュアンスで使われています。

しばしば「本筋(ほんすじ)」という言葉が出てきますが、「筋」を強調する使い方で意味は同じです。「あの局面では、飛車を使うのが本筋だった」というように使わ

れます。一局の将棋を大局的に考えるときの「正しい戦略」というような意味です。

一方、部分的な戦術は「手筋(てすじ)」と言います。具体例は膨大なので省略しますが、狭い範囲のテクニックなので、大局的に成功するとは限りません。「手筋の一着ではあったが、結果的に疑問だった」というような場合もあるわけです。

 

手の流れとして

 

もうひとつの使い方は、前記のものより具体的です。もともと「筋」には、長く連なったもの、という意味があります。芝居の筋とか道筋などがそうですね。

ここから転じて、一連の指し手の流れを「筋」と言います。「この筋は見落としていた」、「その筋なら自信があった」というような使われ方をします。

指し手の流れが一本道で変化の余地がないことを「筋に入った」と言います。「この展開は筋に入ってる」、「筋に入って勝ちを確信した」など、事実上の勝負がついたときに使われますね。

ほかにも「読み筋」、「無理筋」、「切れ筋」、「詰み筋」など、筋に関わる用語はたくさんありますが、これらはみな、指し手の流れとしての「筋」と考えてください。それぞれの言葉については、追って説明する機会があるでしょう。

次回のお題は、冒頭でも触れた「味」です。

 

 

第6回 「味」

 

前回のお題「筋」についてな基本的なことの説明を忘れていましたので、補足します。

将棋の盤面(図面)で縦の列を「筋」と言い、右から1筋、2筋…9筋となります。「2筋の歩を突く」とか「8筋に飛車を転回する」などと使います。ちなみに横の列は「段」です。筋を洋数字、段を漢数字で表記し、右上のスミが「1一、左下のスミが「9九」です。

昔は漢数字だけで表記されていました。現在も洋数字だけを使うことがありますが、筋・段の順は変わりません。それでは今週のお題「昧」の説明に入ります。読み方は「あじ」。いわゆる味覚と区別する意味で「アジ」と表記する場合もあります。

 

感触としてのアジ

 

将棋では「味がいい(良い)」、「味が悪い」という表現がひんぱんに出てきます。「この手の味が良く、有利になった」、「ここでは歩を打つしかないが、どうにも味が悪い」というように使われます。

これは「感触がいい(悪い)」というニュアンスの言葉で、異体的な読みに基づくものではなく、経験からくる感覚的なものです。例えば、ある指し手によって「陣形が引き締まった」とか「攻めに勢いが出てきた」などの場合に「味がいい」、「駒のつながりが悪くなった」や「カバーしにくい弱点ができてしまった」などは「味が悪い」となります。

抽象的な感覚ですから、個人差はあります。それでも、プロは味の良し悪しの評価がほとんど一致するようです。正しいセオリーの積み重ねを一瞬で理解する、というようなことなのでしょうか。

 

広がりとしてのアジ

 

将棋には単独で「味」ということがあります。具体的には「ここで王手をしては味を消してしまう」、「この形には端攻めの味がある」というように便われます。

この場合の「味」は「後々の指し手の可能性、広がり、狙い」というニュアンスです。つまり「味消し」とは「指し手の広がりをなくしてしまう」こと、「○○の味がある」は「将来的に○○の狙いがある」という意味です。

プロやアマチュアの高段者は、狙いがひとつしかない単調な指し手や形を嫌います。確かに、常に複数の選択肢があり、状況に応じて最善の選択ができるほうが良さそうな気はしますよね。もちろん、それなりのレベルに達していないと、選択肢が多いとかえって間違えそうですが。

以下はオマケの豆知識。将棋界で「あじあじ」といえぱ癒し系の女流棋士として人気の安食総子(あじきふさこ)女流初段のことです。略して「あじ」といわれることもあるようですが、これは今回のお題とは関係ありません。

次回は「重い・軽い」がお題となります。

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