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ゴルフプラネット 第29巻

【第2回】ボギーによろしく

2016.04.04 | 篠原嗣典

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ボギーによろしく

 

「上級者の基準って何ですか?」

 

 という質問をよく受ける。

 

 上級者ならという条件付けをしょっちゅうするので、もっともな質問だと思うが、ちゃんと答えようと思うと本が書けるぐらいの説明が必要になるので困ってしまう。

 

 一般論として、と前置きした上で、ボギーおじさんと戦って常に勝てるゴルファーのことですかね、と回答する。最後の『ゴルファー』も強調する。ただ良いスコアでプレーする人でも、ゴルファーとして未熟であれば上級者とは言わないからだ。

 

「なるほど、90を切れる人のことですね」と納得されるケースが多いので、さらに付け加える。

 

「マッチプレーで勝てること」

 

 ボビー・ジョーンズは、オールドマンパーと戦うということで急激に強くなったことは常識といっても良い話だが、それはマッチプレーでの勝負のことでストロークプレーではない。

 

 元々、ジョーンズはストロークプレーにはめっぽう強かったが、マッチプレーになると実力が出し切れなかったことを解消するメンタルな技術として、目の前の対戦相手ではなく、仮想の敵である老獪なパーおじいさんと勝負することに徹したのだ。

 

 まあ、有名なゴルフ関係の見識者でも、間違ってオールドマンパーを使って話すこともあるので、誤解があってもしかたがないこととも言えるが。

 

 ボギーペースでプレーするボギーおじさんに勝つには、ボギーペースで17ホールをプレーして1ホールだけパーがあれば良いのだから、90を切れるという解釈で間違いはないじゃないか、と言う人もいる。確かに、それはそうなのだが、現実にはOBを打ったりしてダブルボギー以上を打つことでダウンするホールもあるのがゴルフである。1ダウンすれば、勝つのには2アップする必要がある。2ダウンすれば3アップ、3ダウンすれば4アップ……

 

 それも常に勝たなければならないのである。1回や2回勝ってもそれは実力とは言わない。常勝してこそ実力の差があると認められるのはゴルフだけに限らず、世の中の常である。

 

 必要なときに、必要なだけのパーが取れる力はなかなかのものである。

 

 私はこの回答にさらに意地悪な仕掛けをしている。ボギーの解釈である。

 

 元々ボギーは、パーと同じ意味だった。

 

 パーは米国で20世紀になってから使われ出した用語だが、ボギーは正確な語源がハッキリしない昔から使われている。諸説あるものの、化け物という意味のボギーが、とてつもないスコアをお化けのようなスコアだと置き換えられたという部分は共通しているので、時代の流れで凄いスコアがトッププレーヤーの各ホールの基準打数とイコールになっていった様子は想像できる。

 

 ボギーがパーより1打多い数を指す用語になったのはいくつかの勘違いが複合した事件のせいだ。

 

 米国で行われた試合で、英国の選手が長いパー4で5を打った。取材した米国人の新聞記者に選手はスコアを聞かれ、ボギーと答えた。選手は、長いホールだったのでパー5だと勘違いして、パーの意味でボギーと答えたのだが、米国人の記者はゴルフをよく知らず、そのホールを5で上がっていることを知ると、勝手にパーより1打多いことを本場の英国ではボギーというのだと勘違いして、世界に配信した。

 

 スコットランドでは天候などでホールの難易度が大きく変わるために、各ホールの基準打数という考え方が非常に曖昧だった。だから、ボギーという言葉も用語として、米国人が好んだキッチリした基準としてのパーほど用語として確立はしていなかったらしい。

 

 不幸にも、2つの誤解が生んだパーとボギーの関係は世界を駆け巡り、そのまま用語として根付いてしまったのだ。

 

 強いて言えば、ゴルフ人口の急増でストロークプレーが主流になりつつあった時代も、各ホールの基準として通じる用語を求めていたのが、誤解を解くことより、用語として歓迎することに拍車をかけたのが、最後の一押しになったのだろう。

 

 私は現在の用語としてのボギーという意味で、回答の中にボギーを交えたのだろうか、と考えてくれる相手だと、私は嬉しくなって、もっと本音の話を思わずしてしまうようになる。

 

 ボギーと仲良くできることは、ゴルフを奥深いものにする。心を澄ましてみれば分かるはずだ。ゴルフにおいて小数点が切り上げであることに。ボギーは、パーになれなかった小数点がついた数字の集まりでもあるのだ。

 

 パーが取れないときに、ボギーで切り抜けるのも仲良くしていればこそ出来る技術である。

 

 たくさんの種類のボギーを知れば、その技術は各段にアップする。知るのは簡単だ。小数点たちの声に、心を澄ませば良い。そういう時間を持てることこそ、上級者に相応しい。

 

 上級者でなくともゴルフは楽しめる。でも、上級者でなければ体験できないゴルフの楽しさも確実に存在する。だから、ゴルフはやめられないのである。

(2007年1月23日)

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