【第3回】病気を教えてくれた距離 | マイナビブックス

100冊以上のマイナビ電子書籍が会員登録で試し読みできる

ゴルフプラネット 第29巻

【第3回】病気を教えてくれた距離

2016.04.08 | 篠原嗣典

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

病気を教えてくれた距離

 

 ナイスショットなのに全然飛ばない……

 私が飛ばない病と名付けていた症状である。

 

 昨年の11月頃から、プレーするたびに親しくしている方々から距離は戻りましたね、と言われる。自分でもそう思う。最低限必要な飛距離は満たしている。

 

 振り返ってみれば、飛ばない病は、私のからだが病気に蝕まれていることと完全リンクする。

 

 医師の話では、検査数値ではいつ死んでもおかしくないほど悪化した状態で治療が始まったのは昨年の4月だった。既に1年以上前から発病していた可能性が高いと診断された。練習のときに書いているメモがあるのだが、それを見ても、飛ばない病と病気の進行はリンクしていた。

 

 もちろん、病気はまだ治ってはいないわけで、安心は出来ないが、異常だった数値は昨年の末から基準値で安定し始めている。

 

 ゴルフは色々なことを教えてくれるが、その飛距離で体の変調を教えてくれることもたくさんのエピソードがあり、有名な話である。それなのに、私は飛ばない病を自分に病気を教えてくれているシグナルだとは思いもしなかった。

 

 私の周囲にも、癌の早期発見のきっかけが飛距離が落ちたことだった人が2名ほどいる。両名ほど現在は元気に暮らしてゴルフもしている。

 

 私はその内の一人から飛ばない病だと悩んでいたときに、自らの体験を聞かせてくれて、精密検査を受けろと熱心に勧められた。精密検査で異常が見つからなかったときに、本当に喜んでくれて、ゴルフを1回奢ってくれると約束した。暖かくなったらという話だったのだが、その前に私の病気が発覚し、約束は現在の病気が完治したらお祝いとして果たされることになった。

 

 受け手であるゴルファーの気持ち次第で、ゴルフは本当に色々なことを教えてくれるのである。

 

 私は昨年の秋から、ゴルフの調子で自分の病気の様子が分かるようになってきている。月に何度かする血液検査の数値を直前のゴルフの感じでほぼ言い当てられるのである。一般的な症状はほとんど出ていないのに、ゴルフには出るという私の数値予想を医師は面白がっている。

 

 何でもゴルフが悪いことを病気のせいにしてしまうのは、少し問題だと思うので、科学的に解明できることは因果関係をハッキリすることでゴルフへの影響最小限に抑えようと思っている。

 

 パセドー病の症状の一つにせっかちになり、イライラするというのがあるが、ゴルフではスイングのタイミングにでるという仮説を現在検証中である。動画のコマ数で比較すると、症状が進んでいるときは、テークバックのコマ数が少なく、状態が良いときはコマ数が増える。つまり、症状が良いときの方がゆっくり振れているのである。

 

 これは凄いと思い、現場での調整に活かせそうだと意気込んだ。しかし、驚いたことに、体の中の体内時計に狂いが出ている影響は想像以上に大きいようで、ゆっくりと思って振っても動画で確認するとそうはなっていないのである。本人にとっては全く同じタイミングでも、病気の影響でリズムは狂わされるのである。

 

 動画を使って確認してみて分かるのは、症状が悪いときは、普通の2倍ぐらい遅くしたつもりで自分のリズムにやっとなるのである。

 

 そうなると深刻である。

 

 科学的に正しいと思っていても、そこまでゆっくり振るのには勇気がいるのである……

 

 また、結局、動画のコマ数を数えないと正確な情報を得られないので、ラウンド中には不安は消えないのである。

 

 ゴルフは難しい。下手に画策しても無駄だなぁ、と思い知らされた。

 

 病気が治ってしまえば、こんな話も笑い話になるのだろうし、たぶん、細かい感覚とかも忘れてしまうのだろう。

 

 しかし、ボールの飛びに代表される現実で、ゴルフは病気を教えてくれることもあるということだけは忘れないでおこうと思っている。

(2007年1月30日)

続きをご覧いただくには、会員登録の上、ログインが必要です。
すでにマイナビブックスにて会員登録がお済みの方は下記の「ログイン」ボタンからログインページへお進みください。

  • 会員登録
  • ログイン