【第3回】第2章―(2) | マイナビブックス

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天狼ノ星 天の章 上演台本

【第3回】第2章―(2)

2015.05.07 | 河瀬仁誌 | 丸山喜大

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 タカ国の陣。タカ王・ニソロ。タカのウサギ・マタが現れる。

 

ニソロ

 来たか、オオカミ共が……。

マタ

 その様ですね。

ニソロ

 マタ。この戦い。俺は、勝てるのか?

マタ

 それは、分からないわ。

ニソロ

 使えんな、ウサギめ。

マタ

 私達は、未来を伝えるためにいるわけじゃないんだもの。

ニソロ

 ならば、なんのために俺を見出した?

マタ

 大いなる時代のために。

ニソロ

 ふん。自らで勝ち抜けということか?

マタ

 そうなるわね。

ニソロ

 偉そうに。いいだろう。売った喧嘩だ、勝ってみせよう。我らタカの本気、とくと見せてやる。

 

 ニソロ、立ち上がりマタから自らの弓を受け取る。

 

マタ

 大丈夫。あなたは、私が守るわ。

ニソロ

 何の力も持たぬくせに。

マタ

 だって、あなたは私が選んだ王なのだもの。

ニソロ

 勝手にしろ。

 

 そこに、セタとハクトが現れる。

 

ハクト

 見ぃつけた!

ニソロ

 オオカミが……。もうこんなところまで……!

ハクト

 ここは、俺に任せろ!

セタ

 はぁ?

 

 ニソロとハクトの殺陣。ハクトが押されて矢を撃たれるが、セタが止める。

 

セタ

 はは、押されてるじゃん!

ハクト

 うるせぇ!

セタ

 選手交代っ!

 

 ニソロとセタの殺陣。セタが押されたとこに、ハクトが入り込んでくる。

 

セタ

 おい、ハクト! 入ってくるな。

ハクト

 押されてたくせに。

ニソロ

 小うるさいカス共が、2匹まとめて処分してやる。

ハクト

 はん、その話し方なんだかむかつくぜ!

ニソロ

 下賤が。

 

 ニソロ、セタとハクトの殺陣。セタとハクト押され飛ばされ、気を失う。

 

ニソロ

 雑魚の分際で調子に乗りやがって。

シュマリ

 セタ! ハクト!

 

 そこに、オオカミ軍、ホロケゥ、サクが現れる。

 

ニソロ

 オオカミ共がぁ……!

シュマリ

 そこまでだ。タカの王。

ニソロ

 我がタカの精鋭達はどうしたのだ!?

シュマリ

 歯向かう者は斬り捨てた。

ホロケゥ

 そして、残る者は、降伏したよ。

ニソロ

 貴様、オオカミの王ホロケゥかぁ。

ホロケゥ

 いかにも。タカの王ニソロ。君にもう兵はない降伏したまえ。

ニソロ

 調子に乗るなよ!(矢を放つ)

シュマリ

 (ホロケゥを守りつつ)王!

ホロケゥ

 (シュマリに)大丈夫だ。(兵士に)よせ! (ニソロに)タカの王! 私は君と共に2つの種族を束ねた新しい国を創りたいと思っている。オオカミもタカも関係なく豊かに暮らすことのできる新たな国。

ニソロ

 黙れ。

ホロケゥ

 ゆくゆくは、すべての国で、オオカミもタカもシャチもオロチも関係なく共に暮らすことのできる国を創っていけたらと思っている。

ニソロ

 黙れ、黙れ、黙れ!

ホロケゥ

 ウサギに選ばれた君と私だ、きっとできる。

ニソロ

 黙れ、黙れ、黙れ!(矢を放つ)

シュマリ

 (矢を折りながら)王、説得は無理です。

ホロケゥ

 諦めては駄目だ。

ニソロ

 誰が貴様の元に降るか! 俺は、タカの国を創る、タカがこの国を統べる! オオカミも、シャチも、オロチも滅べぇ!

 

 ニソロ、矢を撃ちまくる。オオカミ軍が、矢を食い止めるがホロケゥが負傷する。

 

シュマリ

 王! やれ!

 

 オオカミ軍、ニソロの王を取り囲む。

 

ニソロ

 このオオカミ共がぁ……!!

 

 ニソロ、オオカミ軍殺陣。数で押され、切り裂かれていくニソロ。

 

ホロケゥ

 よせぇぇぇ!

  

 ホロケゥの叫びと同時に、エサマンがニソロを脳天から切り裂く。

 ニソロ、ふらつきながら周囲のオオカミ軍を払いのける。

 

ニソロ

 くそう、くそう、くそう、くそう、くそう……!!

 

 マタが、ニソロの前に立つ。

 

マタ

 ニソロ、悔しいの?

ニソロ

 俺が、俺がこんな恥辱を味わうなどあってはならん。

マタ

 未来を知っていればこんなことにはならない?

ニソロ

 当たり前だ!

マタ

 そう。

サク

 マタ。

マタ

 何? サク?

サク

 使うの?

マタ

 ええ。

サク

 そう。

ホロケゥ

 何をする気なんだ?

サク

 ウサギの大いなる「力」を使うの。

ホロケゥ

 力?

サク

 ウサギは、一生涯に一度のみ、己が信じる王のために、大いなる「力」を使うことが許されている。大いなる時代のために。

ニソロ

 やっと貴様が、俺の役に立つときが来たのか!

マタ

 欲しい? 力?

ニソロ

 使え! 早く俺に大いなる「力」を与えよ! さぁ、早く!

マタ

 分かった。

サク

 ただね、その力を発動するための条件は、――ウサギが自ら命を絶つこと。

 

 マタが、持っていた短刀で自分の首をかき斬る。

 

ニソロ

 貴様? 何をしている?

マタ

 次の世では、必ず王たる王になってね。

 

 マタ、血を噴出して倒れる。

 

ニソロ

 マタァァァ!!

 

 時空の扉が現れる、ニソロは時空の扉に取り込まれ消え去った。

 

ホロケゥ

 これは……? 一体……?

エトゥ

 マタァァァ!!

 

 叫びながらエトゥが現れる。

 

エトゥ

 マタ! マタ……! ホロケゥ王……。お願いしたではありませんか、私の働きでニソロ王とそのウサギ、マタの命を救ってくださると……!!

ホロケゥ

 エトゥ。すまない……。

シュマリ

 すまない、エトゥ宰相。我が王の危機であったため、私が指示を出した。

エトゥ

 所詮、オオカミは嘘つきだ! 我らタカと同じになることなどできないのだ!

ホロケゥ

 エトゥ。

エトゥ

 黙れ! 嘘つきのオオカミ王!

ペウレプ

 随分な物言いじゃないねぇか。

ホロケゥ

 ならば、我らはオオカミを捨てよう。

シュマリ

 王?

ホロケゥ

 エトゥ。おまえがタカを捨てオオカミに来た様に、我らもまた、オオカミを捨てよう。

エトゥ

 どういうことです?

ホロケゥ

 タカを捨てたお前と、オオカミを捨てた私で新たな国を創ろう。名はそうだな……。マシラ。どうだ、サク?

サク

 う~ん。

ホロケゥ

 そんな渋い顔をするな。今よりお前は、マシラのウサギだ。

エトゥ

 王……。

ホロケゥ

 どうだ、エトゥ。

エトゥ

 喜んで……。

 

 

 時空の狭間、ウサギの社。レタルが書物を書き綴っている。

 

レタル

 物語の始まりは―太陽暦二百四十五年、オオカミ国に攻められタカ国の王であった、ニソロは失踪した。王の失踪によりタカ国は消滅。同時に、オオカミ国宰相エトゥの嘆願により、オオカミ国も解体。オオカミとタカの連合国家として、新たにマシラ国が建国された。初代マシラ国の王として、オオカミ国の王であった、ホロケゥ王が立つことになる。

     「天狼ノ星」天の章。

 

 

 シャチの国、兵士達の宿営地。

 フムペとオルカが打ち合っている。

 

フムペ

 どうしたどうした、オルカ。そんなことでは、シャチの国の兵士として情けないぞ。

オルカ

 やぁ! やぁ!

フムペ

 そんなことでは、このシャチの国を守れんぞ。

オルカ

 分かってます!

フムペ

 良いか、今のシャチには王がおらん。非常に危険な状態だぞ。俺達兵士が死に物狂いで支えなければ、シャチは滅ぶ。

オルカ

 分かっています。

 

 そこに、パイカラが現れる。

 

フムペ

 どうした、パイカラ。

オルカ

 あ。

フムペ

 オルカは初めてだったか。こちらは、先代の王に仕えていた、

オルカ

 シャチのウサギ。

フムペ

 知っていたのか?

オルカ

 うん、何故だか、分かったんだ。彼女はシャチのウサギだって。

パイカラ

 見つけた。新たなシャチの王。

フムペ

 今、なんと言った?

パイカラ

 見つけた、新たなシャチの王。

フムペ

 そうか! オルカがシャチの王か!

パイカラ

 うん。

オルカ

 え?

フムペ

 これで、シャチの国に活気が戻るな!

オルカ

 え? 僕が?

フムペ

 そうだ、お前がシャチの王だ。オルカ。

パイカラ

 よろしくね、シャチの王、オルカ。

オルカ

 よ、よろしく。シャチのウサギ、パイカラ。