【第2回】第2章―(1) | マイナビブックス

100冊以上のマイナビ電子書籍が会員登録で試し読みできる

天狼ノ星 天の章 上演台本

【第2回】第2章―(1)

2015.05.07 | 河瀬仁誌(著) | 丸山喜大

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 オオカミ国とタカ国の境界、オオカミ軍の宿営地である。

 篝火で大きな影が映っている。ハクトとセタが、撃ち合いをしている影である。

 オオカミの武器は爪であり、体術と組み合わせた独特の戦い方である。

 2人は、オオカミ国の兵士だ。

 

シュマリ

 精が出るな。セタ、ハクト。

 

 そこに、シュマリが現れる。シュマリは、オオカミ国の軍隊長である。

 

セタ

 これは、シュマリ隊長。

ハクト

 お疲れ様です。

シュマリ

 こんな遅くまで、やっていたとは。

セタ

 ああ、もうこんな暗いのか。

ハクト

 本当だ。

シュマリ

 まさか、ここに着いてから、ずっと、やっていたのか?

ハクト

 ええ、まぁ。

セタ

 なんか高ぶっちゃって。

シュマリ

 頼もしい反面、不安になるな。

セタ

 何故です、隊長?

シュマリ

 明日、使いものになるのか?

ハクト

 当たり前ですよ!

シュマリ

 だといいがな。

セタ

 一人で千人の働きをしてみせます!

ハクト

 俺も!

セタ

 お前は、せいぜい一人で五百人程度だろ?

ハクト

 それって、お前よりも俺が弱いってことにならないか?

セタ

 だって、そうだろ?

ハクト

 そんなことないだろ。

セタ

 そうか?

ハクト

 そうだよ、いつも互角じゃないか!

セタ

 俺が手加減してやっていることに気がついてないのか?

ハクト

 嘘だ! いつも、いっぱいいっぱいじゃないか!

セタ

 嘘かどうか確かめてみるかぁ?

ハクト

 ああ、確かめてやるよ!

シュマリ

 ああ、よせよせ、2人とも。味方同士で戦い合うこともないだろう。

ハクト

 でも、セタが!

シュマリ

 わかったわかった。明日どちらがどれだけ倒すかで決着をつけたらいいだろう?

セタ

 それでいいだろ、ハクト?

ハクト

 ちぇ、分かったよ。

シュマリ

 分かったら、二人とも早く寝ろよ。使いものにならなかったら承知しないぞ。

2人

 はい。

 

 シュマリ去る。

 

セタ

 ……よし、やるか?

ハクト

 もちろん。

 

 セタとハクト、再び撃ち合いを始める、影が躍る踊る。

 

 

 同じくオオカミの宿営地、王の陣。

 ホロケゥ王とサクがタカ国の領内を見渡している。

 

ホロケゥ

 見えるか? サク?

サク

 はい、王。

ホロケゥ

 明日、私はタカの国を滅ぼす。

サク

 はい。

ホロケゥ

 ウサギが各種族の王を決める。君が、私を選んでから幾年経つだろうか?

サク

 あまり、覚えてはいないかな。

ホロケゥ

 私もだよ、サク。長いといえば長いし、短いといえば短かったな。

サク

 そうだね。

ホロケゥ

 しかし、君は変わらないな。

サク

 ウサギは年を取らないもの。

ホロケゥ

 それは羨ましいな。

サク

 そうなの?

ホロケゥ

 いや、そうでもないか……。一介の庄屋の子どもに過ぎなかった私が、君に見出され、オオカミの王として、今ここでこうしてここに立っている。そして、間もなく、2つの種族を統べる王になろうとしている。

サク

 成長への感慨?

ホロケゥ

 そうかもしれないな。

サク

 まだ早いよ、王。

ホロケゥ

 そうだな、4つの種族を治めなくては。

サク

 それが時代の意志。私の意志。

ホロケゥ

 答えてみせよう。

サク

 期待しています、王。

 

 そこに、シュマリが現れる。

 

シュマリ

 失礼いたします、王。

ホロケゥ

 シュマリか、皆の様子はどうだ?

シュマリ

 兵の士気は、充分高まっております。高まり過ぎてどうしようもない馬鹿も若干名おりますが。

ホロケゥ

 私と同じか。

シュマリ

 とんでもありません、あいつらと王が同じなど。

ホロケゥ

 私も興奮して眠れないのだよ。この国で、異なる種族が統一される機会などなかった、それを私が為そうとしている。前人未踏を成し遂げる高揚。分かるか? まぁ、サクにはまだ早いと言われるがな。

サク

 (頷く)

シュマリ

 サクの言う通りです、王には2つばかりの種族で満足してほしくはありません。

ホロケゥ

 なんだ、2人して、手厳しいな。

シュマリ

 しかし、眠れないのは私もですよ、王。

ホロケゥ

 そうか。(微笑み)

サク

 (あくびをする)

 

 ホロケゥ、シュマリが笑う。

 

ホロケゥ

 さすがは、ウサギの一族だな。

サク

 どうしたの?

 

 そこに、エトゥが現れる。エトゥは、タカ国の出身であるが、オオカミ国の宰相である。

 

エトゥ

 ホロケゥ王。

シュマリ

 エトゥ宰相、どうされましたこんな夜更けに。

エトゥ

 あなたの方こそ。

ホロケゥ

 それで、エトゥ。どうだった?

エトゥ

 は! タカ国内の者との話が成立いたしました。タカ国は、森に陣を置きル側攻めてくるとのことです。

ホロケゥ

 なるほど、背後の崖はがら空きか。

エトゥ

 そう、なります。

ホロケゥ

 ご苦労であった。

エトゥ

 とんでもありません。ホロケゥ王のためです。――ただ、タカの王ニソロ、タカのウサギ・マタの命だけはどうぞお救いくださいませ。

ホロケゥ

 分かっている。

エトゥ

 それでは、私はこれで。失礼いたします。

 

 エトゥ去る。

 

シュマリ

 内通者ですか?

ホロケゥ

 そうだ。

シュマリ

 何故、この様な大事な策を流れ者のエトゥ等に……!

ホロケゥ

 いいか、シュマリ。我々が行うのは侵略ではない。共存への模索だ。タカ国を破ったとて、タカの民を皆殺しにするわけではない。オオカミとタカが手を取り合い、共に1つの国を創る。そのために、エトゥやタカ国内の戦を良しとしない者たちとは手を取り合う必要がある。

シュマリ

 しかし……。

ホロケゥ

 前人未踏を為すのだ。古い考えに縛られるにはいかんぞ。もちろん、私を案じてくれているのは、分かっているつもりだ。

シュマリ

 どこまでもついて参ります、王よ!

ホロケゥ

 さぁ、行こう。新しい世界を……!

 

 日が昇る。オオカミの軍が続々と現れる。

 ホロケゥの背後には、シュマリ、エトゥ、サク。

 ホロケゥを見上げる形で、セタ、ハクト、エサマン、ぺウレプ、その他オオカミが数名。

 

ホロケゥ

 聞け! オオカミの勇士よ。これより我々はタカ国の本陣に攻め入る……! これに勝てば長かったタカ国との戦いもこれで終わりだ。

オオカミ

 オオオ!!

ホロケゥ

 オオカミに喧嘩を売った愚かなタカ王と、愚かな王を選んだタカのウサギを我が眼前に連れて来い!

オオカミ

 オオオオ!!

セタ

 なぁ、やっぱりどっちが王をやれるかの勝負にしないか?

ハクト

 乗った!

シュマリ

 馬鹿者、殺すのではない、捕らえるのだぞ。(降りながら)

セタ

 分かってます、言葉の綾ですよーだ。

シュマリ

 ならばいい。お前達は、私と共に森へ進軍する。敵の本隊に突入する。気を引き締めろよ。

3人

 はっ!

セタ

 俺たちは?

シュマリ

 セタとハクトは、分隊と共に背後の崖を昇れ。

ハクト

 もしかして、アレ?

セタ

 無理でしょー。

シュマリ 折角、タカ王を捕らえる好機をくれてやろうと思ったのにな。

セタ

 だって、流石にあれは……ねぇ?

ハクト

 やります!

セタ

 ハクト?

ハクト

 セタは、ここに居たらいいぞ。俺の勝ちを心待ちにしてな。

セタ

 はぁ!?

シュマリ

 では、ハクトに任せた。

セタ

 行く、行きますよ、俺も行けばいいんでしょ?

シュマリ

 では、行くぞ!

オオカミ

 オオ!

 

 ハクト、セタ走り去る。

 進軍するオオカミ軍。

 背後からタカ軍が現れる。

  

アプト

 このオオカミ共が……!

 

 一斉に矢を放つタカ軍。オオカミの一人が矢にうたれる。

 

シュマリ

 奇襲か! やれ!

 

 オオカミとタカの戦闘。オオカミが優勢。