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ゴルフプラネット 第10巻

【第2回】心で感じるもの

2014.12.15 | 篠原嗣典

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心で感じるもの

 

 コースの善し悪しの評価について、その基準となるものを書いて欲しいというリクエストが多い。メール単位で返信したりしているが、納得できないという方もいて、困ったことになる。

 

 コースの善し悪しは、心で感じるものだと私は思っている。

 

 例えるなら、それは音楽のようなものだ。耳が不自由な場合はしかたないが、そうでない場合は、音楽を聴いて心地が良いとか、耳障りだとか、誰でも評価は出来るものである。それは、正解がないものである。

 

 バイオリンの音色が好きな人もいれば、トランペットが好きな人もいる。ピアノが好きだという人もいれば、ハープシコードには敵わないという人もいる。オーケストラが好きな人も、ゴスペルが好きな人もいる。ロックが好きな人もいれば、演歌命の人もいる。人それぞれ、感じ方が違うのである。

 

 世の中には、分析することが科学だと信じている人がいて、心が感じるものを統計的に分析し、音楽を数値的な側面で分析しようと試みる。実は、それ自体は非常に興味深く、個人的には嫌いではない。しかし、分析は最終的には証明に過ぎず、予測にはならない。人間の心は、そんなに単純に出来ていない。

 

 ただ、多くの人に支持されるものは、必ず強烈な魅力を持っていることだけは間違いない。世紀を越えて私たちを感動させる音楽は、文句なく人類共通である。クラシックもそうであるし、スタンダードといわれるものもそうであろう。文字での表現と比べると、音楽は音符という非常に狭い制限を受けた中での配列なのである。言語と違い、広く人類が感じることが出来るが、その分、大変なことであると感動する。

 

 理屈なんてどうでもいいのである。その人が、その音を聞いた瞬間に心が感じたことだけが、真実である。それが正しい音楽の楽しみ方である。

 

 ゴルフコースを評価する楽しみも同様である。18ホールの流れが、上質の小説のように美しい波を持っているもの。たった1つのホールが強烈な印象を残し、他の17ホールなんて関係なくそのホールだけが忘れられないもの。全てのホールがタフで、ウォーキングやランニングでなくオリンピックのマラソンランナー並みの力を必要とするもの。自らのエピソードが評価に加わることもあるであろう。

 

 音楽でも特定の楽器やテンポなどに好みの傾向があるように、ゴルフコースの好みの傾向は存在する。バンカーの配置にこだわる人、グリーンの形状にこだわる人、ロケーションにこだわる人、18ホールの流れにこだわる人……。

 

 ベテランも、ハンディも関係ない。心を澄ませてゴルフコースを評価すれば良い。音楽や小説などがそうであるように、年齢によって同じコースでも評価が変わったり、実力によって変わったりもするものである。不変のものではないのだ。

 

 最終的には、評価を楽しむためのコツは、より多くのコースを経験することでもある。好き嫌いに関わらず、経験数が多いことは、心の感じ方を敏感にする効果がある。

 たくさんのコースを1回ずつプレーするのが、必ずしも良いとは言えない。同じコースを繰り返し回ることでも、コース眼は鍛えられる。同じコースで何回もプレーすることで、普段見過ごすようなことに気が付くようになる。それは、別のコースを初めてプレーする際に、自然にチェック項目になるのだ。

 

 難しいと敬遠することはない。分からないことは分からないで良い。クラシックの良さなんて分からないのに、無理矢理に見栄を張ってコンサートに行き、不快な時間を過ごすことは楽しんでいないだけではなく、悲しい。分かる範囲で楽しんでいる内に、電気が走るように前には分からなかったことがいきなり分かることは多々あることである。その繰り返しが、コースを評価する楽しみを充実させることになるのだ。

 

 自らの成長や変化をスコア以外で知る方法の一つが、コース評価である。

 

(2002年1月16日)