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ゴルフプラネット 第8巻

【第3回】ゴルフをする約束

2014.12.15 | 篠原嗣典

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ゴルフをする約束

 

 私の母は奥深いところでゴルフ嫌いである。私を生む前は、それなりのゴルファーであったと自慢気にいうが、真偽は定かではない。そのようになるまでには、様々なエピソードがあるわけだが、特に強調して語ることがある。

 

 時は遡ること約30年前。若き母と幼き私は共に酷い風邪をひき、寝込んでいたある日曜日の早朝のことである。ゴルフの準備をして出掛けるこれまた若き父に、母は行かないで家にいて欲しいと頼んだのであるが…… 父はゴルフにおけるプレーの約束は子供の命よりも重いと、振り向きもせずにゴルフに行ったそうだ。その背中姿を見ながら、母は思ったそうだ。

 

『ゴルフが憎い』

 

 ことあるごとに、母はこのエピソードを私の耳元でささやいた。ゴルフをするために大学を選んだと知ったとき、ゴルフのために旅行をキャンセルしたとき、ゴルフにおける絶対的な自信で大学を中退してしまったとき……。

 

 愛する夫だけでなく、息子までゴルフに奪われてしまった母には、心より同情するしかない。しかし、ゴルフをプレーする約束は、子供の命より重要であると断言した父には驚かされる。私には子供がいないので、自分と比較して単純には考えられないが、果たして同じ状況のときに、私はどうするのであろうか? その問いに答えるのが怖くて子供を作らないのだとしたら、結局は父と同じ選択をすることを認めているようなものであるが。

 

 ゴルフをプレーする約束は重要なものである。それは間違いない。では、どの程度の優先順位なのか?

 

 個々で答えは違うであろう。そして、どの程度という意味での正解はないのかもしれない。

 

 例えば、私の先輩の多くは「仕事」だからという理由で、キャンセルする人に非常に厳しい。誘われた時点で、仕事の場合は何の問題もなく断ることができるが、一度約束したのにキャンセルする場合は大変である。彼らのルールは簡単である。急な仕事をコントロールできない人はゴルフをする資格に欠けるというものである。

 

 実は、私も一昨年の春に彼らからきつく説教された。

 

「仕事を変えるか、ゴルフを止めるか」

 

 私の仕事は比較的、急な仕切りが多く、予定が立てにくい。しかし、そんなことは言い訳にならない。責任ということを慎重に考えれば、そんな仕事をしていることは分かっているのだから、約束など初めからしないことも責任であると、先輩たちは異口同音に私にいった。悔しかった。自分がそんな当たり前のことをいわれること、そんな環境を許してもらおうと甘えた心を持っていたこと。

 

 プレーする約束の重さは、個々違っても良い。しかし、自分の中では一切の甘えがない重さを持つものにしようと考えることにした。それが、仲間を作り維持する上で非常に重要な要素になると気が付いた。

 

 結局、それ以降、多くの先輩とゴルフをする機会を失ってしまっている。それでも、自らの判断は間違っていないと思っている。疎遠にはなっても、先輩たちとの絆は深まっていると実感できるからである。

 

 私が、昔のようにゴルフを中心に考えて転職までするかは、神様だけが知っている。まずは、自分にとってゴルフの約束をする責任の重さをしっかりと意識していこうと思う。個々で違うのも有りであり、環境などで変化するのも有りである。その時々で、最高の責任を果たしていきたい。

 

(2001年1月26日)