【第3回】ホールインワンを初めて見た時 | マイナビブックス

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ゴルフプラネット 第4巻

【第3回】ホールインワンを初めて見た時

2014.12.15 | 篠原嗣典

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●ホールインワンを初めて見た時

 

 私が生まれて初めてホールインワンを見たのは、10代の頃だった。

 やや打ち下ろしの120Yのパー3。私達の組は全員がグリーンに乗っていて、キャディに後続の組に打たせましょうと言われ、ボールをマークしてクラブを上げて「どーぞ」と後続組に合図をしながらグリーンを離れた。

 

 何人目かは忘れたが、その人の打ったボールはライナーでグリーンに向かってきた(いわるゆトップというボール)。

 グリーンの前で失速して、何回かバウンドしながらボールはグリーン手前のバンカーへ方向を変えていった。そして、バンカーにボールが入ったと思った瞬間、ガチャン! と大きな音がした。

 ボールはまるで名人がエクスプロージョンしたようにポーンと高く上がり、グリーンに落ちてコロコロと転がってホールカップに入った。

 一瞬の沈黙。

 「入ったー!」

 私達のキャディが大声をあげた。私達は拍手をした。特に私は興奮していて、手が痛くなるくらい強く手を叩いた。

 

 ティグランドからも歓声が聞こえてきて、遠いところにいる彼らは抱き合ったり、飛び上がったりしていて、凄いことが起きたのだと言うことを私に自覚させてくれた。

 私達の組は、ピンを抜くのは後続組の張本人にしてもらうべきだという年長者の意見に従い、後続組がグリーンに来るのを待った。

 すぐに興奮して顔を真っ赤にした張本人が現れ、何度も何度も、

 「ありがとうございます」

 を連発しながら、ピンを抜き、ホールからボールを拾った。全く知らない人とでも喜びを分かち合えるという日常では遭遇しないシーンに、私はさらに感動した。

 

 昼ご飯の時、先にランチを食べていた私達のテーブルに張本人がビールを持って来て、これ、飲んでください! と置いていった。

 未成年だった私はビールに興味はなかったが、何でビールがという疑問は聞き逃したままランチは終わり、午後のラウンドになってしまった。

 午後のラウンドが始まっても、キャディはホールインワンの話をし続けた。おかげで私は、パー3のホールで生まれて初めてホールカップを意識しながらボールを打つという経験をした。

 

 プレーが終わって、お風呂に入っていたときに、隣に張本人がいることに気が付いた。別の組の人にホールインワンの話をしていた。

 「ややトップ目だったんだけど、グリーンギリギリに乗って、後はライン通りに転がってスコンと……」

 耳を疑った。

 バンカーレーキに当たってボールの方向が変わったあの劇的な瞬間がごっそりと抜けているではないか。あれあれ?

 違うじゃないですか、と言おうかとした時、あの意味が分かったような気がした。ランチのビールは口止め料なのか!

 

 今となっては笑い話で、ビールがお祝いの習慣だということも、ゴルファーが自分のニュースを正しく伝えられない習性があることも十分すぎるほど知っている。

 

 その後、現在までに人のホールインワンを6回も目の前で見た。どれも鮮明に覚えている。しかし、自身がホールインワンをしたときはボールが入る瞬間を見ていなかったので、キャディのリアクションや前の組の方々が大騒ぎしたことしか記憶がない。

 

 その時、私はビールを前の組の人達のテーブルに持っていきながら、こう言ったのだ。

 「あのー、ボールはどういうようにカップに入りましたか?」

 きょとんとする彼らに、笑顔で教えを請う私。

 ビールは情報料となった……

 

(2000年3月3日)