【第3回】南国の夜 | マイナビブックス

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南国の夜



名前のわからない花に包囲され
その先が
ジャングル
理不尽な南国
直腸の破れめをふさぐ手術を受けた男の
汗の匂いをかぐ

夜になって
誘惑する表情と
弾力をもった娘たちに不意を打たれる
気がつくと痛点が消えて
わたしは多くのものを手に入れ
耳のうしろから血を出している

海辺の墓地に近い
人のまばらな大食堂で
老夫婦が五十年前に死んだ子供の思い出を語った
この夜のさまざまな無気力とつりあうように
溶ける景色が窓の外にあり
わたしはたなざらしの
商品のちらばる断崖に放りだされて
その子供の弟として生きた、生きのびた!

煙草をもう一本吸って
それから
ゆっくりと動く
わたしとこの青い夜
人に爆音を聞かれることもなく