【第0回】はじめに | マイナビブックス

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<金八先生>になってはいけない

【第0回】はじめに

2015.06.19 | 林 敏也

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 タイトルを読んで誤解される方がいるといけないので、最初に断っておきますが、この本は、金八先生が登場するテレビ番組を批判するものではありません。また、金八先生を演じた俳優や周辺の関係者を批判するものでもありません。

 ここでいう〈金八先生〉とは、話をわかりやすくための、一種の“イメージ”として取り上げていることをご了解ください。

 皆さんは、金八先生と聞いて、どんな教師像(キャラクター)を思い浮かべますか。このテレビ番組をあまり見たことのない人でも、ある種のイメージを持っていると思います。

 私自身は、生徒のことを考え、授業のみならず生活指導も含め?24時間奔走する熱血教師、教育に悩み、問題にぶつかりながらも最終的にはそれを乗り越えるスーパー教師、そして子どもたちの熱狂的な支持を受けるカリスマ教師、といったようなイメージを抱いています。

テレビの金八先生だけでなく、古くは『飛び出せ青春』などに代表される青春ドラマの先生、映画では『ブリキの勲章』の能重真作先生、山田洋次監督の『学校』の黒井先生。皆さん、熱血であり、スーパーマンであり、ヒーローでもあります。また、ひと時大活躍された、ヤンキー先生こと義家弘介先生、夜回り先生こと水谷修先生にも同じようなイメージをいだかれるかと思います。どの先生も、いずれ劣らぬすばらしい先生であり個性豊かな先生です。

本書では、少々乱暴ですが、こういうキャラクターイメージを持つ先生を〈金八先生〉と〈 〉を使ってひとくくりで呼ぶことにして話を進めていきます。

 能重先生、義家先生、水谷先生は実在の先生ですし、フィクションの先生も実在モデルがいます。もっとも、テレビや映画で取り上げられると、いろいろと脚色もされていると思いますが、こういう先生が自分のまわりにもいてくれたらなあ、と思う方も多いかもしれません。

会社員の間では、あまり教育の話題は出ないのですが、話が出ると、たいてい「教育関係の事件が頻繁に起こっている。結局今の先生は熱意がないんじゃないか。」が始まりで、「テレビの金八先生のような熱心な先生が少ないんじゃないか。」というような、お決まりの文句で終わるのを何回も聞いています。

学校教育に関する情報が少なく、実態がわかりづらい一般の方にとっては、教育事件→先生の怠慢、熱心な先生→金八先生、のような図式的なとらえ方が普通なのかもしれません。教師経験者の私としては少々複雑な思いをいだいたものです。

また、7、8年前のことですが、大学で教育学を研究している先生と、学校を扱ったテレビや映画の話をしていたら、その先生が「金八先生のような人がいないから教育はよくならない。」とかなり強い口調で話されたことを思い出します。そうか、〈金八先生〉を待望している人はこんなところにもいるのだなあ、と驚きを感じたものです。もっとも、大学の研究者には金八先生ファンが多いのだと聞いたこともありますが・・・。

 しかし、〈金八先生〉がいれば今の教育問題は解決するのだろうか。また家庭を持ち、子育てや介護もしなければならない、普通の会社員や親と変わらない事情をかかえる多くの先生方が〈金八先生〉になれるのだろうか。

 そんな疑問から本書を書き起こしてみました。可能ならば、これからの教育を担う若い先生方、またその方たちを指導する立場の先生方、また〈金八先生〉を待望している保護者やマスコミの方々にも読んでいただければ幸いです。