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神さまの人生

【第1回】大蛇をください

2014.12.15 | 大島健夫

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大蛇をください

 

大蛇をください
十メートルの大蛇をください
背中に乗って、学校へ行きたいんです
大蛇の背中には、黄色い縞模様をつけてください
クラスのみんなに自慢したいんです
私は十メートルの大蛇を持ってるの、
背中には黄色い縞模様がついてるのって

大蛇をください
赤い舌が二つに分かれた大蛇をください
私の掌を、ぺろぺろ舐めて欲しいんです
大蛇の首は、ちょうど私が抱えられるくらいの大きさにしてください
辛いことがあった夜に、しっかり抱きしめて泣きたいんです
あなただけが私の友達、
この世であなたしか私の味方はいないのって言いながら

大蛇をください
友達はみんな、犬や猫や亀や熱帯魚を持ってるの
みんな、とってもかわいいの
だから私には大蛇をください
金色のガラス玉みたいな目をした大蛇をください
背中に乗って学校へ行きたいの
お姉ちゃんのお墓参りに行きたいの
歯医者さんに行きたいの
駅前のロッテリアに行きたいの
隅田川花火大会に行きたいの
土砂降りの雨の中を、隅田川花火大会に行きたいの
大蛇の背中に乗って、体中ずぶ濡れになって隅田川花火大会に行きたいの
大雨のせいで中止になって、だあれも来てない隅田川花火大会で
一発も上がらない花火を、大蛇とふたりで一日ずっと眺めたいの

大蛇をください
やさしい大蛇を、私にください
ふたりで一緒に庭に出て
大きな鍋でおでんを煮たいの
立ちのぼる湯気と、いい匂いに包まれて
私たちは熱々のおでんを食べるの
おでんの中の卵はみんな大蛇にあげるの
だって蛇だから卵が好きでしょ
そうでしょ
でも、大蛇は大きいから、ありったけの卵を食べてもまだ足りないの
それなのに大蛇は、金色の目で私をじっと見つめて
先が二つに分かれた赤い舌で、私の掌に書いてくれるの
おいしいよ、もうおなかいっぱいだよって
本当はまだおなかが空っぽで、ぐうぐう鳴っているのに
赤い舌で私の掌に書くの、おいしいよ、もうおなかいっぱいだよって
どうしたらいいのかわからなくて、私は大蛇の首を抱きしめて泣くの
ちょうど、私が抱えるのにぴったりの大きさの、大蛇の首を
外から見ると、そんな私たちの姿はおでんの湯気の中にかすんでいて
誰にもはっきりとは見えないの
私たちのシルエットを眺めて、庭の外のみんなは想像するの
ああ、なんて幸せそうなんだろう
大蛇と一緒に暮らせるなんて
どれだけ素敵なことだろうって