【第3回】宇宙のがんもどき | マイナビブックス

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神さまの人生

【第3回】宇宙のがんもどき

2014.12.15 | 大島健夫

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宇宙のがんもどき

 

眺めていたんだ、君が箒で掃いた領収書の切れ端に足が生えて
白い砂浜の上を歩いてゆくのを
聴いていたんだ、僕が使い切ったボールペンの束が
机の端で、夕焼けっていいねっていう話をしているのを
ふと目を閉じるとすぐに眠りに落ちてしまい
君と出会ったあのサマーキャンプの夢を見た
僕たちはそこで、恵まれない子供たちにハイジャックの方法を教えるボランティアをしていて
毎日、ホワイトボードに身代金要求の定型文を書いていた
料理当番の子供がいつもがんもどきばかり作るので
おんなじものばかり作るなよ、と注意すると
子供はにっこり笑って答えた、違うよ、おんなじものじゃないよ
お昼のは愛のがんもどき
今作っているのは宇宙のがんもどきだよ。
 
目が覚めると、僕は買ったばかりのスマホを奥歯で噛みしめていた
液晶は割れ、SDカードは砕け、データはすべてなくなっていた
でも掌の中の残骸に息を吹きかけると、それは加山雄三に変った
僕に手を振ってヨットに乗り込み、沈む夕陽に向かって遠ざかっていった
最後の輝きが藍色の水平線に消えると、丸い月が昇った
あまりにもおいしそうに見えて、思わず手を伸ばして掴みとった
端っこを少しかじってみると、答えのわからない質問に似た味がした
もう一口食べると、占うことのできない未来に似た味がした
振り返るとすぐ後ろで、回る洗濯機が刻むレゲエビートに合わせて
君がラジオ体操第二を踊っていた
これは僕が今日初めて書いた詩だよ、と僕は言った
これはあなたが生まれて初めて書いた詩でしょう、と君は踊りながら言った。