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時代を彩った名機たち ~1980年代・国産パソコン戦国時代を振り返る

【第1回】6809の良さを素直に味わえた名機FM-7

2014.12.08 | みやびはじめ

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6809の良さを素直に味わえた名機FM-7

 

サーバーからパソコン…スパコンも含めた「すべてのコンピューターが揃うメーカー」富士通。その強烈な自負と自信を支えた黎明期の名機といえば…パソコンではFM-7を外すわけにはいきません。往年の名機「FM-7」についてのお話です。

世の中はすでにWindowsやMac OS X、あるいはLinuxといった「高級OS」が主軸になっています。けれどその黎明期…MS-DOSやOS/9。あるいはCP/Mといった8ビット機向けOS全盛の時代がありました。そして、重なるように存在した「BASIC標準搭載」の時代。
今のように便利ではなかったけれど「パソコンを操作するためにはプログラムの知識が不可欠だった時代」。
そんな時代を彩ったかつての名機たちを主観だらけで紹介する記事となります。

FM-7について説明するには、まずFM-8の存在を抜きには語れません。FM-8は当時のパソコンとしてはとびぬけて性能がよかった(そしてプログラマーからしたらとても面白い)優等生でした。その大きな理由は3つ。(1)大型機並みのDRAM採用による640*200のカラー発色可能な表現能力と、(2)究極8ビットCPUと言われた6809の搭載。そして何より(3)搭載されたF-BASICのできがよかったこと。これに尽きるでしょう。

FMシリーズの名前はそもそもこのFujitsu Micro-8…通称FM-8から続く名称です。
当時のライバル機はシャープのMZ-80BやNECのPC-8801ですから、FM-8の性能がいかに衝撃的だったか。漢字ROMまで用意されていたのは驚きです。
市場に好評をもって迎えられたFM-8に富士通は後継機種を生み出すことになります。それがビジネス機として開発されたFM-11。そして廉価機として開発されたFM-7でした。
FM-11もビジネス機としては傑作でしたが(特にOS/9ファンからの思い入れもあるかもしれませんね)、ちとお高い。「パソコン」と呼ぶにはまだ高すぎる機種でした。もっとも、そのFM-11の遺伝子は後にFM-7と再融合して、FM-77を生み出すのですが、それはまた別の記事で紹介します。

ともかくFM-7はFM-8の弟分として開発されたのですが、結果的には兄貴分のFM-8を上回る性能を持たされます。機能としてはやや削られた感もあったのですがCPUクロックも上げられ、むしろ強化された印象が強かったです。
そして意欲的な価格設定(当時の13万程度で買える価格は、まさに破格でした。まぁ、高いっちゃ高いんですが)と性能。人気機種FM-8との互換性もあって市場を席巻します。
直接のライバルとなったのは…やはりNECの初代PC-8801。まだSR等の型番も付かず、ビジネス用8ビット機として価値が認められていた頃です。性能はともかくPC-8801は価格も高く、ホビー機と呼ぶにはちょっと無理がありました。FM-7との差は約10万円。テープレコーダーとモニターが別売りだったわけで、この差は大きかった。
3重和音のPSGとはいえ音源を積んでいたのも嬉しかったですね。音割れすごかったですが(苦笑)。

FM-7は価格の安さと高性能、なにより搭載CPUの6809の強力な処理能力が印象的です。私はどちらかといえばZ80派なんですが、6809をアセンブラでぶん回す(というかがりがりと書いたコードを片っ端から実行していた)と、その処理能力と特異さに驚いたものです。
6809の系譜はやがて68000というCPUに行きつくのですが、時代はいまだ8ビットのCPUが全盛でした。インテルの32ビットCPUでいうと、i80286がそろそろ発表されたかな…という頃だったかと思います。

富士通の販売網の強さもあって、FM-7はかなりの顧客を掴みます。価格的なライバルは…私も愛用していたNECの「パピコン」ことNEC PC-6001が、ある意味でライバルだったかもしれません。パピコンは10万円を切る価格と、家庭用テレビに接続できるのが売りのでしたが、その1クラス上の価格帯でこの性能はやはりうらやましかったものです。

FM-7は豪勢に6809を2つも搭載していたのが面白かったのですが(片方は画像処理用)、オプションでZ80を搭載できなくもなかったので…やろうと思えば当時の8ビット機でできることは、何でもできたかもしれません(だからCP/Mとかも扱えた。OS/9とCP/Mをひとつの機種で勉強できるのを自慢された覚えもあります)。
友人の兄貴がこのFM-7に惚れ込んでプログラムテクニックを駆使しまくっていたのを覚えています。テキスト画面をもたないがゆえの遅さをカバーするプログラムを作ったりして雑誌に投稿していました。たぶん「Oh! FM」か「マイコンBASICマガジン」でしょうね…時代的に。

6809は当時の8ビットCPUとしてみると非常に強力なCPUでした。私はZ80をメインにやってましたが、触れてみると「こいつはすごい」と感じられる面白いCPUでした。

ただ慣れが必要というか非常に癖が強いCPUかもしれません。命令といいアドレスの扱いといい…高度なことができる反面、このCPUに特化して作りこんでしまうと移植が難しかった(^^;
Z80から移植する時も、結構苦労して落とし込んでいた記憶があります。それでも面白いCPUでしたし、CPUの良さを素直に味わえた名機だと思います。ここでの下地があると68000を触るときに地味に役立ったりしましたが…まぁそれは余談ということで。レジスタ回りも含めて思いで深いCPU…そして本体です。

F-BASICがかなりよくできていたので、無理にアセンブラで組まなければスピードはともかく他機種からBASICの移植は特に苦労しなかった(あくまでも私の場合ですが)のがありがたかったです。F-BASICはその後も進歩を続けていく味わい深い存在だったり。

その後ライバルの低価格化と性能向上に伴い、さらに廉価になったFM-NEW 7が発表になります。10万円を切る衝撃は大きかった(99800円。ただし性能は同一)。

当時のPCを購入する層といえば、ゲームを楽しみたいかプログラムを楽しみたいか…という感じの人たちでしたが、明確に分かれていたわけでもなく…ゲームを遊ぶにもプログラムの知識が必要だった時代だったかと。

その中でもFM-7で育ったプログラマーはとても「濃い」人たちが揃っていました。のちのシャープX68000や富士通FM-TOWNSで返り咲いたこの人たちの手腕は…何というか「もっと濃くなってました」というか。すごい人たちを育てたんだな…と思ってしまったり。

メーカーも違いますし中身もまるで違うのですが、シャープX68000がこのFM-7の系譜を継いでいる気がしないでもないです。CPUが6809と68000の違いはあれど…OS/9の存在とかまぁいろいろと(テキスト画面と言いつつVRAMに描画してるあたりもちょっとばかり気になるところ。X68000はテキストVRAMを別に持っていましたが…)。

そうFM-7の魅力は多彩なOSが扱えるところでもありました。CPUの増設カードによりCP/MやOS/9がひとつの機種で動きました。
F-BASICはなかなかに強力。勉強しようと思えばこれほど楽しい教材はなかったでしょう。

ライバル機種の強化にともないFM-7もパワーアップします。NEW 7と同時発表となったFM-77。FM-11の遺伝子が再び合流した豪華なFM-7の後継機。
その名前が再び輝くのはFM-77AVの発売の時でしょうか。この機種についてはまた別の紹介記事を用意しています。

時代が移り変わり…16ビット機が主軸となっていき、ホビーパソコンの座も16ビット機へと移り…ライバルNEC PC-8801もまたNEC PC-9801へその座を譲っていく中…FM-7も、ひっそりとその姿を消していきました。

往年の名機であり数々のプログラマーを育てたFM-7。
私の記憶の中では6809の勉強をするのに最高のパソコンだったイメージです。
音割れが酷かったり、熱かったりといろいろと面白いハードでした。私はついに所有することはなかったのですが、先に書いた友人の兄貴が熱心に勧めてくれたため、遊びに行ってはプログラムを打ち込んでテープにセーブしていた記憶があります。
おかげで自宅に帰ってN88-BASICに触ると混乱するという笑えない逸話もあったのですが…まぁいい思いでです。
この時FM-7とF-BASICに触っていた経験が、のちにFM-TWONSを購入した時に生きてくるのですが…それもまた別の記事を用意します。

当時の御三家(後の8ビット御三家)はNEC PC-8801シリーズと富士通FM-7/8シリーズ。そしてシャープX1。家庭用の「パソコン」として…「ホビーパソコン」という、今はないカテゴリーにおいて少年たちに夢を与えた存在です。

富士通のパソコン事業の大きな原動力となったFM-8からの系譜。その中でもホビー用途で名を知られたFM-7。
今となっては思いでの彼方の名機たち。

あまりマニアックなところには触れずに当時を思い出していただけるような内容にしています。懐かしいあの頃の空気を思い出していただけたらと思います。