【第6回】千登世橋
2016.11.21 |
6 千登世橋
花梨は自宅の応接間だった部屋を改造して〈雑司ケ谷スイーツ〉という店をやっている。扱っているお菓子の品目はまだ少なく、蕎麦粉を混ぜて薄く焼いたどら焼きの生地で筒状の羊羹を巻いた〈どらクレープ〉がメイン商品である。目下のところは、そのバリエーションの開発に勤(いそ)しんでいた。
小判形に焼いた生地を半分に切り、円弧の部分を切り口の方に向けて折る。そして、そのあいだに薄く切った抹茶の羊羹を挟む。
そうすると生地の焼け目の部分が橋の「欄干(らんかん)」になり、半円に隠された抹茶色の残りの部分が「橋脚」になって、見る人が見れば、目白通りと明治通りが立体交差になった〈千登世(ちとせ)橋〉のように見える──はずなのだが、今のところ、地元の人間でもそのデザインに気づいてくれた人がいない。