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dotFes 2017 TOKYOレポート デザインとテクノロジーで、街は、人はどう変わるのか?

11月19日にクリエイティブの祭典「dotFes」が東京・神田錦町のテラススクエアで開催されました。テーマは「デザインとテクノロジーで街を変えよう」ということで、さまざまな分野からゲストを招き、 時代の変化によって街にどんな問題が生まれ、デザインとテクノロジーによって街をどう変えたのか。
会場内のインスタレーション展示も含め、当日の様子をレポートします。

dotFes
http://www.dotfes.jp/2017tokyo/

2008年から始まったクリエイティブの祭典、dotFesも今回で10回目。今回はこの春、神田錦町にオープンしたテラススクエアで開催されました。会場である神田錦町も古本屋街と新しいオフィスビルが立ち並ぶエリアで、ここも今まさに変わっている街なのです。

今回のdotFesのメインテーマは「デザインとテクノロジーで街を変えよう」ということで、これまでのdotFesとは異なる業種のゲストが登壇します。また、会場内には最新テクノロジーを用いたインスタレーションが多数展示されており、各所で参加者たちの楽しむ姿が見られました。

テクノロジーとデザインの力によって、コミュニティや街にどんな変化が生まれたのか? トークセッションの様子や、会場内に設置された体験型インスタレーションをご紹介したいと思います。

 

最初のトークセッションでは、建築×不動産×テクノロジーで新たな場所を生み出す(株)ツクルバ 中村真広さん、世界各地58の都市でワークスペースを運営するWeWorkのエリザベスさんによる「国内外のコワーキングスペースを活用した、クリエイターの新しい働き方」が行われました

現在、日本各地でビルの空室や空き家問題が深刻化しています。しかし、ただオシャレで快適な場所をつくるだけでは、この問題は解決できません。ツクルバでは、働く場所とコミュニティ作りを合わせて行うことが大切だと考えているそうです。「クリエイティブワーカーはアスリートと同じ。自分の仕事をハックして新しい価値を生み出していく存在だから、その手助けとなる場を作って、プレイヤーそのものを変えたいと思っています」と、中村さんは話します。

エリザベスさんはを世界各地にあるワークスペースと共に、2018年に日本にオープンするスペースを紹介。どのワークスペースも個性的で、まるでリゾートホテルのよう。その中でWeWorkが大切にしていることとは?「テクノロジーによってネットワークを作り、世界中のWeWorkと情報共有していますが、ワークスペースの空間は温かい雰囲気に包まれる場所であることが大事だと考えています」とエリザベスさんは言います。温かい空間を実現するために、WeWorkでは空間デザインは現地のデザイナーに依頼することを大切にしているそうです。だからこそ、すべてのワークスペースが個性的でありながら、地元の文化に根ざしたデザインとして街にとけこむことができるのでしょう。また、その国の出身者であるスタッフを配置して運営することも大切にしているそうです。

 

続いて、本格的な機材でプロトタイピングを可能にする総合型モノづくり施設「DMM.make AKIBA」から誕生した注目のIoTツールの紹介です。

no new folk studio Inc.の金井隆晴さんが登壇し、両足に100以上の個別制御LED、モーションセンサー、Bluetooth通信機能を内蔵したスマートフットウェア「Orphe」について解説しました。最初、コンバースにLEDをくっつけたプロトタイプからスタートしたそうですが、今やAKBや水曜日のカンパネラなど、さまざまなアーティストがパフォーマンスに利用したり、さらに一般の購入者がダンス動画をアップするなど、「Orphe」を使った新たな表現が生まれています。

VAQSO Inc.の川口健太郎さんは、東京ゲームショウ2017でも話題を集めた世界最小の匂いVRデバイス「VAQSO VR」を解説。チョコレートバーサイズの装置をヘッドセットに設置することで、動きに合わせて匂いも感じるようになります。匂いを伴うVR体験…、一見、体験の中でそれほど匂いは重要ではないようにも思いますが、川口さんは「嗅覚は原始的であり、本能にひもづいたもの」と言います。美味しそうな食べ物でも腐敗臭がすれば食欲は失せますし、逆に匂いをきっかけに思い出が蘇ることも…。実生活の中でそんな体験をした人も多いのではないでしょうか。確かにそう考えると匂いのあるVR体験は、私達の記憶に深く残る可能性がありそうです。

「色で映画の世界が変わったように、匂いでVRを変えたい」

川口さんの言葉通り、VAQSO VRの登場によって、今後さらに豊かなVR体験が登場するのではないでしょうか。

 

会場の1階と2階では、インスタレーション作品の展示やワークショップも開催されました。今回は家族連れで来場する方も多く、夢中で遊ぶ子どもたちの姿が印象的でした。

たき工房×クスールによる「ice Bits」は、なかなか体験できないウェンタースポーツのボブスレー、スピードスケート、カーリングを体験できます。プレイヤーが頑張る姿もかわいいです
クリエィティブ企業 (株)ココノヱによるインスタレーション作品。「AIRPONG」は両手に持ったマーカー(虫めがねのような形のもの)を操作して、バーを作ってパックを打ち合う。バーのサイズや角度でパワー調整も可能
水やインク、化学物質のケミカルアクションを電子制御することで模様を描く「dyebirth」。 クリエィティブレーベルnorの作品
技術を軸に体験をデザインする会社、る株式会社と株式会社光響の「コマあにめ」は、会場で撮影した写真をレーザー刻印機を使ってコマを製作。コマを回せば、あなたが動きます
つねに長い行列ができていたピラミッドフィルムクアドラの「脳波キャッチャー」。ユーザーの脳波を読み取り、感情の変化でクレーンが移動、平常心でいられれば、賞品がもらえます

 

 

 

ステージBはHASSO CAFFEの店内です。コーヒーの香りと共に、ゆったりと落ち着いた雰囲気の中でトークを聞きます。

ここでは、「トキメキとお金を両立させるクリエイターの生き方とは? 生き方働き方もクリエイティブにしよう!」というテーマで、トークセッションが行われました。

クリエイターの働き方をサポートするメディア「BAUS」編集長の酒井博基さんが聞き役となって、みんなのためのデザインチームminnaの角田真祐子さんと長谷川哲士さんのプライベートも含めた“リアルな”お仕事事情について迫りました。

 

「本を通じて、新しいコミュニティの在り方を考える」と題したセッションでは、銀座にある森岡書店の森岡督行さんと京都でYUYBOOKSという本屋を経営しながら、フリーランスのモーションデザイナーとしても働く小野友資さんの2名によるトークが繰り広げられました。街から書店が消えていく中で、本屋だったからこそ生まれた出会いがある。そして、その出会いから仕事へつながっていくこともあるという話題から、森岡さんの”現代人は狩猟民族説”へ。「情報を集めて何かを作ることは狩猟に似ている。狙い通りに獲物を狩るためには、道具を整えて、情報を集めることが大切。現代の狩猟民族がインスピレーションを鍛え、刃を磨く場所こそ、本屋なのです」

また、森岡書店の新たな試みとして「森岡書店 總合研究所」がスタートしています。「空間のない森岡書店のようなもの」というこの場所が、これからどう成長していくのか、こちらも注目です。

 

「地域ブランディングには、クリエイターの力が必要だ。~横浜DeNAベイスターズの歩み~」では、5年で観客数を1.8倍に増やし、売上も2倍以上増やした横浜DeNAベイスターズの「コミュニティボールパーク構想」について(株)横浜DeNAベイスターズの経営・IT戦略部長 木村洋太さんが解説。そこには、NOSIGNERの太刀川瑛弼さんによるデザインの力も大きかったそうです。

野球に興味のない人も集まれる場所に、そして栄えていた横浜の街をスポーツで元気にしようと、横浜DeNAベイスターズが行ってきたさまざまな企画を木村さんが紹介。日曜の朝にスタジアムを開放して行った無料でスタジアム内でキャッチボールができる「DREAM GATE CATCHBALL」、ハマスタ駅伝、ヨガスタジオの経営など、野球に限らず横浜市民とスポーツを結びつける活動が横浜DeNAベイスターズから広がっています。

つづいて、木村さんが語る「コミュニティボールパーク構想」を、デザインの力で支えた太刀川さんのお話。「日常生活に野球をプラス」することをコンセプトにしたライフスタイルブランド「+B」では、横浜の街の歴史からさかのぼって、ふさわしいカタチを模索したという誕生秘話を聞くことができました。NOSIGNERが関わったのは、+B全体のブランディングのほかにも、スタジアムに併設されたコーヒーカウンターのサインやWebサイト、スタジアム周辺のマンホールのデザインなど多岐にわたります。

 

最後は、dotFes恒例のクリエイティブ大喜利です。今回の「企画提案は大喜利だ!クリエイティブ大喜利 in 神田錦町!」では、Blue Paddleの佐藤ねじさん、メディアアーティストの坪倉輝明さん、(株)バスキュールの桟 義雄さん、(株)バーグハンバーグバーグの山口むつおさんが参戦。多くの人がトップクリエイターによるプレゼン対決を見るために集まり、会場は立ち見が出るほどのにぎわいです。高い技術とプレゼン力で繰り広げられる珍解答の数々に、会場内は大きな笑い声に包まれました。

山口さんが考える「新しい音声アシストAIとは?」。そもそも部屋がばっちい→置けない→スマートスピーカーが俺たちを見下すな→俺たちに相応しい形への最適化の結果がこの写真です

こうして個性豊かなゲストが繰り広げるトークセッションと、不思議な体験ができるインスタレーション満載のイベントは終了。クリエイティブの考え方や実際の制作物に触れて、「何か始めよう!」と思った人も多かったのではないでしょうか。また、いつかどこかでdotFesが開催される日を楽しみです。