2017.09.08
Bay Area Startup News Web Designing 2017年10月号
走っただけ支払う自動車保険サービス「Metromile」 IoTで保険業界も変革の波
海外で起こっている、あるいは起こりつつある新しいビジネスの潮流、近い将来に日本にやってくるであろうビジネストレンドなどを紹介・考察します。米国サンフランシスコ在住の筆者が、サンフランシスコおよびシリコンバレーの「ベイエリア」を中心に、イケてるスタートアップを中心とした会社、サービスを毎月1つ取り上げながら、その背景や目的、今後日本で起こりうるトレンドについて追究します。
自動車保険は支払いすぎ!?
テクノロジーの進化で、現在最も大きな変革が生まれてきているのが自動車業界です。アメリカ西海岸を中心に自動運転やEV(電気自動車)、カーシェアリングなど、ここ最近で自動車を取り巻く環境が大きく変化してきています。そのような状況で注目すべき関連業種の一つとして、自動車保険が挙げられます。
当たり前ですが、自動車とは乗車して移動する、手段として欠かせないものです。ところが実際、自動車は平均95%の時間“動いていない”状態にあります。要するに自動車は、普段の生活の5%の時間しか稼働していないということになるのです。
例えば都会に住んでいると、便利な交通手段がいろいろと用意されているので、わざわざ自動車を使わなくても用が済んでしまうことが多々あります。それなのに、自動車の維持やメンテナンスにかかる費用を考えると、かなりの無駄が生じていると考えるのは当然の流れでしょう。それは自動車保険も例外ではなく、さほど自動車に乗っている時間や走行距離が長いわけではないドライバーでも、定額の保険料を払わなければいけないのは負担になります。
その一方で、UberやLyftなどのシェアリングサービスの運転手として働いている人たちの車両の稼働時間は、格段と上がっています。しかし、アメリカでは自動車の保険は走行距離に関係なく料金が決められるのが一般的で、登録時の年間走行距離もあくまで目安に過ぎません。要するに、今の保険は格一的であり、多種多様になってきたユーザーのライフスタイルに対応しきれていないということです。
この前世紀的サービスとも言える自動車保険に革命を起こそうとしているのが「Metromile」です。サンフランシスコ市内、筆者の会社btraxから3ブロック隣に本社を構えるMetromile社は、走行したぶんだけ保険料を払う「Pay-per-Mile」(従量制)というコンセプトの自動車保険を提供しています。
日本の自動車保険の中には「走る分だけ」を標榜しているものもありますが、これは走行距離に応じて定めたプランが用意されており、被保険者が最初にそのいずれかを選ぶという形式になっています。それも1つのアイデアですが、Metromileが提供する保険は真の「従量制」で、まさにその月に走った距離にあわせて料金が変動するというものです。
走行データでリアルタイムに加算
このサービスを可能にするのは、同社が開発した携帯回線とGPS搭載のデバイスです。まずはオンラインで申し込みを済ませると、自動車のダッシュボード下に差し込んで走行距離を測定する専用デバイス「Metromile Pulse」が数週間以内に送られてくるので、車両に取り付けます。
このデバイスを起動すると車両や位置情報を取得し、クラウドに送信します。クラウドに蓄積されたデータはその車両の走行距離だけではなく、車両の現在地、走った日時、ルート、そして移動した際のスピードなどの走行履歴までが細かく記録されており、それらのデータはWebサイトやアプリを通じてユーザーに届けられます。
そして、そのデータをもとに月々の定額の月額基本料金プラス走行距離に応じた従量制保険料がユーザーにチャージされる仕組みです。同社によると、走行距離が1万マイル(約1万6,000キロ)以下であれば、従来型の保険料より平均年間500ドル(約5万円)ほど節約できるとのことです。
今まさにどれだけ走って保険料はいくらになったのか。ユーザーは自動車保険がまるでスマホの利用料金のような感覚を覚えることでしょう。状況はいつでもWebサイトにログインする事で確認できるので、かなりの明瞭会計。毎月の保険料もアプリでチェックでき、どれだけ節約できているか随時把握できるというわけです。加えてエラーコードを読み解く事でその車両の状態も示してくれます。
また、Metromileが提供するユーザーエクスペリエンスはかなり画期的です。その一つが走行履歴。Webサイトでは自分の移動した道のりや距離が地図上に再現されます。さらにそれぞれの箇所でのスピードも表示されるので、ユーザーは自分がどの場所でどんな運転をしたか、どんな特徴があるかも一目でわかるのです。
IoTで新たな時代
Metromileは現在までに2億ドル強の投資を受けており、日本の三井物産もシリーズD投資ラウンド(ベンチャー企業に対し、ベンチャーキャピタルなどが出資する段階)で出資をしています。さまざまなサービスが体験型になる中で、これからは保険も新たな時代を迎える段階に来ているのではないでしょうか。