2016.10.19
パティシエからデザイナーへ、遠くて近い道のり わたしたちのターニングポイント
ゲーム動画配信プラットフォームとして人気の「OPENREC.tv」。そのUIやUXを担当するデザイナーとしてCyberZで働く辻之内孝信さんは、つい数年前まで、パティシエやシェフとして働いていたという、意外な経歴をもつ人だ。辻之内さんはなぜ、まったく畑違いのWebデザインの世界へと飛び込んだのだろうか。
Photo 五味茂雄(STRO!ROBO)
突然の進路変更
その当時、辻之内孝信さんの周囲にいた人は、よほど驚いたに違いない。パティシエや料理人として7年のキャリアを持つ彼が、突然「デザイナーになる」と言い出したことに。日々漫然と過ごしていたわけではない。辻之内さんは調理技術はもちろんのこと、料理を提供する空間作りのために華道教室に通うなど、地道な努力を重ねていた。
「驚かせたでしょうね(笑)。実はそのころ、自分にとって大きな出来事がありまして。かつての同僚がフランスに渡り、一つ星店のシェフになっていたことを知ったんです。彼女はよほど努力をしたんでしょう。それと比べて自分はどうなのかな、と」
モヤっとした思いは、いつしか満たされぬ思いへと変わっていった。自分は何のために仕事をしているのだろうか、と。でも、そこでなぜ、デザインの世界へと飛び込む決断をしたのだろうか。
「僕が菓子作りに興味を持ったのは、高校時代のことです。バレンタインのお返しにと本を見ながらシュークリームを作ったら、思っていた以上に喜んでもらえたことがきっかけでした。それを思い出したときに『人に喜んでもらう』ための、別の仕事に挑戦してもいいんじゃないかと思うようになったんです。そのとき頭に浮かんだのが、デザイン。お皿に料理を盛りつけていく感覚が、デザインに近いのではないかと感じたんです」
そこからの辻之内さんの行動は、驚くほどに大胆なものだった。当時住んでいた関西のスクールに通って各種デザインツールの使い方を学ぶと、「現場で仕事を覚えたい」と東京のWeb制作会社に転職したのだ。しかしそこで、デザインという仕事の難しさに直面することになる。
学んだのは、向きあう姿勢
「色はどうする、配置はどうする…。何から何まで悩む毎日でした。そこで実感したのが、基礎の重要性です。ツールを使えるだけではダメだ、学び直そう、と」
辻之内さんは、実践的な技術のみならず、デザインの基礎やその本質的な考え方の習得にも力を入れているスクール「東京デザインプレックス研究所」に通うことを決め、あらためてデザインと向きあった。そこで身につけたことは、単に知識だけに止まらなかった。
「基礎から、クライアントワークの実践的な取り組み方まで、しっかりと教えていただいたのですが、自分にとって大きかったのは、先生方から、デザインは授業のときだけ学ぶものではないということを叩き込まれたことです。『感覚を研ぎ澄ませ、日常の中から問題解決のためのヒントを見つけ出しなさい』という言葉が、いまも強く心に残っています」
これまで何度もターニングポイントを迎えてきた辻之内さんだが、授業を通じてこの感覚を得たことこそが、「自分のこれからを決めるものだ」と感じたという。
いま、デザインの仕事にやりがいを感じているという辻之内さん。「日々の仕事のスピードについていくので精一杯」と言うが、その一方で、自分の目指す先がはっきり見えてきたとも感じている。
「デザインを本当の意味で自分のものにできたときに、これまでの経験を活かした、自分らしい仕事ができるんじゃないかと思うようになりました」
そのとき、どんな仕事をしているのだろう。
「まだわかりませんが、多くの人を喜ばせる仕事ができているんじゃないか、と」
菓子に生け花、そしてデザイン。将来の辻之内さんは、それらの経験を、どう料理するのか。楽しみに待ちたい。
企画協力:東京デザインプレックス研究所