須田和博×Saqoosha 緊急対談「広告から遠い領域にこそ、広告の未来がある」|WD ONLINE

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須田和博×Saqoosha 緊急対談「広告から遠い領域にこそ、広告の未来がある」

一緒に仕事をしたくなるような人と、賞で出会えたら素晴らしい

1961年にスタートし、長年CM業界の権威あるアワードとして親しまれてきたACC CM FESTIVALへのエントリーがいよいよ始まった。このアワードに、2014年からWebクリエイターやWebデザイナーにもチャンスの多い「インタラクティブ部門」が設立されているのはご存じだろうか? 実は、本誌『Web Designing』でも取り上げた話題の案件を数々手がけてきた天才プログラマー、Saqooshaさんも2015年度ACC CM FESTIVALのインタラクティブ部門でテクニカルディレクター賞を受賞した1人。そこで今回は、今年度のインタラクティブ部門の審査委員長を務める須田和博さんと、新たに審査委員として加わるSaqooshaさんが緊急対談した。CM FESTIVALにもかかわらず、須田さん自らが「仕事のフィールドが広告と遠い人こそ応募してほしい」と語る理由、そして、国内外問わず多くの賞を受賞してきたSaqooshaさんが、「WebクリエイターはACC CM FESTIVALに応募するべき」と語る理由とは?

 

Web広告の原理はシンプル



須田
:僕は紙のデザイナー、テレビCMのプランナーを経て、YouTubeが生まれた2005年から、Webインタラクティブ広告のプランナーを始めたんですが、Web領域に来て驚いたことが2つあるんです。ひとつは、Webは「見に来てもらわないとダメ」だということ。テレビCMは基本的には、たまたま番組を見ていて目にするものだけど、Web広告は違います。もうひとつは、視聴者の反応が作り手にダイレクトに届くこと。テレビCMでは視聴者が「このCMつまんない」と思っても、作り手にその声が届くことはほとんどない。でもWeb領域では褒められるのも、ディスられるのも、すぐ可視化される。そこに驚くと同時に、新鮮さがあって、面白い世界に来たなと思ったんです。

Saqoosha:そうなんですよね。Web広告は見に来てもらうこと、つまり話題になることがすごく重要です。だからWeb広告を始めた頃から今に至るまで、見に来たくなるようなものにするためにどうすればいいかはずっと意識していますね。

須田:そう考えるとWeb広告の原理はシンプルですね。つまり見に来てもらわないといけないから、見に来たくなるようなものを作る。でも、ただ面白いだけで一切ブランドに接触してなかったら「何のために予算かけたんだ」って話になるから、その試聴や体験がブランドのためになる企画にする。この2つの両立はすごく難しいんだけど、必須です。

インタラクティブ部門 審査委員長
博報堂 インタラクティブデザイン局 クリエイティブ開発部部長
須田和博
1990年、博報堂入社。アートディレクター、CMプランナーを経て、2005年よりインタラクティブ領域へ。受賞歴:1985年ぴあフィルムフェスティバル、1999年ACC賞、2000年TCC新人賞、2007年モバイル広告大賞、2009年東京インタラクティブ・アド・アワード・グランプリ、2014年アジア太平洋広告祭メディア部門グランプリ、同年カンヌライオンズ・PR部門・アウトドア部門・ゴールド、2015年ACC賞インタラクティブ部門・ゴールドなど

 

インタラクティブ部門のサブカテゴリーは
「未知のモノ」をもっと応援するためのもの



須田
:以前はWebの広告はブラウザというスクリーンの中で見るのが当たり前でした。でも今はその枠を越えて、スマホやIoTみたいに、リアルの世界ににじみ出てきているでしょう? だから、Saqooshaさんが作るものも変わってきたんじゃないですか?

Saqoosha:僕は最初、Flashをメインにコンテンツを使ってきました。でもそれがいつしかブラウザの外、例えばサイネージなどでも技術を応用できるようになりました。自分が作れるもの、アウトプットされる場所がどんどん広がっているなと感じます

須田:ACC CM FESTIVALは歴史あるアワードですが、マーケティング・エフェクティブネス部門とか、インタラクティブ部門とか、時代に合わせて新しい部門を増やしてきました。さらに、今年、僕が審査委員長を務めることになったインタラクティブ部門では「サブカテゴリ」を打ち立てて、それぞれに特徴的な事例を顕彰しようとしています。「アウトドア・メディア+デジタル・サイネージ」「リアルイベント×インタラクティブ」「ブランデッド・コンテンツ」「ニューテクノロジー」などです。 Saqooshaさんは広告を作るときに、その広告を誰がどんな場所で見るのか、当然、意識されてると思うんですが、こうした新しいカテゴリーの広告を作るときに、どういったことに気をつければいいんでしょうか?

Saqoosha:例えばデジタル・サイネージって、タッチパネルなので、ついインタラクティブな要素を入れがちなんです。でも僕は触って情報がでてくるような要素は入れないほうがよいと思っています。というのも、駅や街にあるサイネージを実際に触る人なんて、ほとんどいないですから。反対に、以前、電車の風で髪がなびくっていう海外のヘアケア用品の広告が話題になりましたが、それはよくできてるなあと思いましたね。

須田:以前、CMを流用してトレインチャンネル版つくるときに激しくダメ出しをしたことがありました。理由は字が小さくて、向かいの席に座る位置から全然、読めないから。その配慮や思考が作り手にまったくないと感じたからです。たとえ素材流用だとしても表示される場所によって、お客さんの接触体験は変わる。だから、それを想像してデザインしなくてはいけない。Saqooshaさんの作る広告は、まさに新しい体験をデザインしているものが多いですよね。

Saqoosha:うちに来る仕事って「これまでに見たことのないものを作ってださい」という依頼なんです。だから、何をどう体験させるかということから、全部設計しています。例えばYahoo! Japanのトレンドコースターは「検索数の変動グラフ」がジェットコースターのコースにみえるなーというところから企画がスタートしていますが、それをどうやって効果的かつYahoo! Japanをアピールできるものにするかというところで、ヘッドマウントディスプレイを着けてドライブシミュレータに乗って疑似体験するという当時、まだ誰もやっていない形のコンテンツに仕立てました。

須田:そういう誰も見たことのないものを作るときのアイデアはどこから?

Saqoosha僕らが作っているものって、実は世の中にすでにあるものを組み合わせたり、ちょっとしたアイデアをプラスしたものなんです。広告はそもそも時間がないことがほとんどなので、0からまったく新しいアイデアや技術を開発するのは難しい。だから企画に参加する人の引き出しにあるものを出しあって、それを組み合わせたり、新しいテクノロジーを使ったりして作ることが多いですね。

インタラクティブ部門 審査委員
dot by dot inc. Programmer / CTO
Saqoosha
Flash、JavaScript、openFrameworks、Unityなどのフロントエンドのプログラミング技術を中心に、さまざまなソフトウェア・ハードウェア技術を巧みに用いて、クライアントやクリエイティブディレクターたちの無理難題を解決する仕事に携わっている。第14回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門 大賞、2013年カンヌライオンズ モバイル部門 ゴールド、2015年ACC インタラクティブ部門でクラフト賞やテクニカルディレクター賞など、多数受賞
 

「ソレって広告なの?」と言われそうなもので、
「コレも広告だね!」と納得できるものを見つけたい



須田
:今年は、昨年のインタラクティブ部門の受賞者であるSaqooshaさんに新しく審査員として参加していただくのですが、ACC CM FESTIVALに限らず、賞をもらうと仕事の依頼って増えるんでしょうか?

Saqoosha:正直なところ、僕は仕事を相談される窓口になっていないので実感しづらいんですが、やっぱり増えていると思います。賞を獲っている人と獲ってない人だったら、やっぱり獲っている人に依頼しようとなるでしょうから。でも、実はACC CM FESTIVALって、「CM」ってついていることもあって、僕が関係あるの?って思っていたんですよね。 Webクリエイターや、Webデザイナーにも、僕と同じように応募していいのかなと思っている人がたくさんいそうですが、もちろん、応募してもいいんですよね?

須田もちろん! 大歓迎です。過去の受賞作品を見ると、大規模案件じゃないとダメなのかと思われそうですが、全然そんなことはなくて、むしろ今年は広告賞では見かけないような「未知の名作」を見つけたいという思いが強くあるんです。だからこそなるべく広告から遠い人にも応募してほしい。Saqooshaさんは僕には見つけられないものを見つけてくれると思うので、期待しています。

Saqoosha:新しいテクノロジーを使った広告はすごく厳しい目で見ると思います。ただ、応募するのってすごく大変なんですよね。

須田:そうなんですよね。でも、少しでも「誰かに評価してもらいたい」という思いがあるなら、睡眠時間を少し削ってでも応募して欲しいんですよ。というのも、僕が人生で最初にもらった大きな賞は1985年の「ぴあフィルムフェスティバル」入賞だったんですが、ちょうど美大受験に失敗したときだったんです。自信をなくしているときにこの賞をもらえたことで、「自分は価値ある存在なんだ」と信じることができた。だから、いま、仕事が辛くてたまらないという人にこそ、がんばって応募して欲しいです。そして、もし賞を獲ることができたら、望む方向に状況が変わる可能性がある。

Saqoosha:僕自身は、賞にだんだん興味がなくなってきているんですが(笑)、最初にもらったときは、やっぱり泣きましたね。なんていうか、賞ってFacebookの「いいね!」のデッカいやつなんです。「いいね!」してくれると、やっぱり嬉しい。だから辛かった仕事ほど、頑張って応募したほうがいい。

須田:Facebookに投稿しない限り「いいね!」はもらえないワケですから、やっぱり、まずは応募しないと!それに審査する側の立場から言えば、予想外の作品と出会えることは、すごく楽しみです。

Saqoosha審査委員って作品との出会いももちろん楽しみですけど、それを作った面白い人に出会えることが一番嬉しい。入賞した人とは、須田さんも巻き込んで、一緒に何か新しいことやってみたいですね。

須田「ソレって広告なの?」と言われそうなもので、「コレも広告だね!」と納得できるようなものを作ってくれた人に「最高です!」って心から伝えたいし、もし、それをきっかけに一緒に仕事ができるようなことがあれば、本当に素晴らしいですよね。

Saqoosha:見終わったあとに、「なんだ広告かあ」ってユーザーの気持ちが冷めるようなものではなくて、お客さんに「広告だったんだ? でも面白かった」って思ってもらえるものが広告の理想ですよね。結局、それが一番、効果があると思いますし、そういうものと出会えることを審査委員として期待しています。


Photo by 黒田 彰



企画協力:一般社団法人全日本シーエム放送連盟