共通の言葉。今制作現場で求めらるスキル~テクニカルクリエイター対談 #01~|WD ONLINE

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共通の言葉。今制作現場で求めらるスキル~テクニカルクリエイター対談 #01~

「テクニカルクリエイター」とは何か。今年になって、アプリ・サービス開発の分野では、この言葉が話題を呼んでいる。斬新なサービスで業界をリードするサイバーエージェントの藤田晋社長が、昨年12月に提起したコンセプトに、さまざまな分野のクリエイターから共感の声が上がっているのだ。本記事では3回にわたって、同社チーフ・クリエイティブディレクターの佐藤洋介さんと、デザインとエンジニアリングの間を行き来しながらものづくりを続けるクリエイターとの対話を通じて、その姿を探っていくことにしたい。1回目は株式会社ディー・エヌ・エーのデザイナー成澤真由美さんだ。
 

静から動へ。ネイティブアプリが変える「デザイン」の形



スマートフォン環境に向けて、デザインはもちろん使い勝手にも優れたアプリ・サービスをいかにスピーディに、かつ効率的に開発していくか。これは、広くIT業界が共有する課題だと言えるだろう。それに対し、多くのクリエイターを抱え「AbemaTV」や「AWA」「Ameba Ownd」さらにはゲームなどのさまざまなコンシューマ向けサービスを展開するサイバーエージェントは「テクニカルクリエイター」という職種を新設することで、その課題の解決を図ろうとしている。

サイバーエージェントはどんな経緯で、どういった解決を目指して、その一歩を踏み出したのだろう。「テクニカルクリエイター」のコンセプトを整理し構築した同社チーフ・クリエイティブディレクターの佐藤洋介さんはそのイメージをこう語る。

佐藤:「『テクニカルクリエイター』というのは、職種というよりも、“クリエイターの新しいあり方”と捉えてほしいと思っています。デザイナーが、そこにプラスする形でエンジニアリングの能力を身につける。あるいは、エンジニアがプラスαとしてデザインを武器にする。つまりデザイナー、エンジニアに共通する領域を持とうというわけです」

佐藤 洋介
株式会社サイバーエージェント 
チーフ・クリエイティブディレクター
「Ameba」のクリエイティブ統括室 室長として、スマートフォン向けサービスのデザイナーを統括。
クリエイティブ責任者として各サービスのUIデザインを監修

佐藤さんがその必要性を感じるようになった背景には、スマートフォンユーザーの増加とともに変化を続けるアプリ・サービスの開発分野の「ある事情」がある。

佐藤:「この数年で、アプリ・サービスの開発は従来のWebベースからネイティブベースへと大きくシフトしてきました。ご存知の通り、ネイティブアプリはWebベースのものとは比べ物にならないほどに自由度が高く、UIに関しても自由な設計ができる環境になりました。社内ではこれを『デザイナーに羽根が生えた』と表現していたんです。そうなるとデザイナーも、初期の段階から“動き”を意識することが大切になります。そのためには、例えばプロトタイピングツールを使って、動的なデザインをしていくことが必要になるわけです。その際に、エンジニアリングの知識があれば。当然、より精度の高いUIの開発ができるようになるのです」

佐藤さんが言うような「動的デザインの重要性」を強く認識し、以前からエンジニアリングの技術を取り入れて開発を行っているのがDeNAの成澤真由美さんだ。その経緯は昨秋、成澤さんが公開して、大きな反響を呼んだスライド「デザイナーがXcodeを使って開発効率をUPさせた 5つのエピソード」に詳しい。「デザイナー」である成澤さんは、なぜサイバーエージェントが考えるところの「テクニカルクリエイター」的な領域に踏み込んだのだろうか。



成澤 真由美
音大を卒業後、音楽活動と平行してFlash ゲーム制作の仕事に従事していたが様々な業務に携わるうちに、Webの世界に引き込まれた。大手ECサイトのWEBデザインや、カラオケ事業のアプリ開発経験を経て、現在籍中のDeNAに転職
主に新規サービス開発のデザイナーとして従事している

成澤:「私の場合、数年前まで『Adobe After Effects』を使ってデザインプロトを作っていたんですが、特に、モバイル対応やアプリのUIデザインを担当するようになってから、そのやり方に限界を感じるようになっていたんです。最終的に『動くUI』を静的な環境でデザインしても、プロデューサーにも、エンジニアにも上手く伝わらなくなってきたんです。口で補足説明しても、『よくわからない』とか『評価のしようがない』などと言われてしまう。それならば、自分で作ってしまえないか、と」

動的なものを静的に表現することのある種のもどかしさ。そして、エンジニアに意図を伝えることの難しさ。成澤さんは自らXcodeを扱うことで解決を図った。

成澤:「プロトタイピングツールの『Pixate』を使ってみたら、デザインモックを上手く作れるようになったんです。そのうちに、『Pixateで作ったものを、そのままXcodeに反映できたら』と考えるようになったんです。Xcode自体の習得は決して簡単ではないのですが、かつてFlashを使っていた経験があったのでなんとか」
 

ベースがあってこその他領域


成澤さんは、「(デザイナーが)Xcodeをやればそれだけでいいものができる。というのはちょっと違う」と感じているのだという。

成澤:“他の領域”へと入っていくのは、あくまでも“自分の領域”、のパフォーマンスを高め、私の場合はデザインなんですが、より良いアウトプットを得るための手段。そこを勘違いすると、結局中途半端になってしまうのではないかと思うんです」

成澤さんの感覚は、佐藤さんが訴えている部分とも重なっている。

佐藤:「僕も全くその通りだと思っています。テクニカルクリエイターにとって大事なのはベースのスキルがしっかりとしている、ということです。まず自分の領域で、誰にも負けないくらいのスキルを身につけて初めて、もう一方を学ぶ意味が出てくる。そうでなければ、デザインとエンジニアリングを知っているだけの、器用貧乏なクリエイターになってしまうからです。そう考えてみると、テクニカルクリエイターになるということは、デザイナーとエンジニアが、共通の言葉を身につけるためのプロセスということになるかも知れません」

デザイナーとエンジニアがより良いコミニュケーションを築くことができれば、それぞれの個性を活かした、より健全なチームができあがるだろう。成澤さんが自らの体験を話した。

成澤:「プロジェクトによっては、デザイナー1人に対してエンジニアが10人なんていうチームが組まれるケースもあるんです。そういったときに、デザインの意図を正しく伝えると同時にエンジニアの意見をしっかりと汲み取ることができるかがとても大事になってきます。私自身もXcodeに触れるようになって初めて、エンジニアの人たちとちゃんと話ができたと感じています」

佐藤:そうですね。僕は理想として、全デザイナーがある程度のエンジニアリングの知識を持ち、全エンジニアがデザイナーとしての表現力の素養を持つという形があると思っています。それぞれ得意な分野こそ違うけれど、共通言語としてお互いにきちんと話ができるレベルまでお互いが歩み寄ることが、これからのサービス開発においては重要になってくるとおもいます。

サイバーエージェントでは今後、教育面なども含めて、テクニカルクリエイターにステップアップするための取り組みを、さまざまな角度から進めていくことを考えているという。また、成澤さんのような、業界の中で、すでにテクニカルクリエイター的に活躍されている人たちとは、積極的に情報交換をしていきたいと考えているという。

「理想は全員が『テクニカルクリエイター』の素養を持つこと」

佐藤さんの言葉は、アプリ・サービス開発の分野のみならず、IT業界全体に問題提起を投げかけるものだ。同時に、すべてのクリエイターにとっても「自分ごと」として捉えるべき内容を含んでいる。第2回では、エンジニアリングがベースとなるクリエイターとの対談で、さらに深く「テクニカルクリエイター」の重要性、また素養について考えていきたい。



Photo by 五味 茂雄
 

 
企画協力:株式会社サイバーエージェント