2023.06.17
特別企画 [PR] Web Designing 2023年8月号
ストーリーラインの構築とユーザー理解の深化が確実な情報伝達を実現する
4コマ漫画から学ぶ伝わる情報発信のあり方

- 瀬川秀樹
- Creable 代表

- 安西敬介
- アドビ株式会社 エバンジェリスト 兼 マネージャー

- 黒田聡
- 一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会評議員 企業経営者 大学院でコミュニケーション技法の研究と教育にも取り組む
世の中で生成されるデータが年々急増し続けると同時に、情報発信の際に多方面へのアプローチやケアが求められる今、人々は膨大な情報の中から本当に必要とする情報を見つけ出すことに多大な労力を割くことを余儀なくされている。選択の幅を広げていると捉えることもできるが、希少性を感じなくなってひとつひとつの情報に対する興味を失わせている側面もある。今企業に求められるのは、必要な情報だけを、必要とする人に的確に届けることだ。そのためには提供情報を適切に絞り込む表現術が必要だ。3年目となる新生コミュニケーションデザイン策定委員会は、「4コマ漫画」にそのヒントを見出すこととなった。
必要な情報「だけ」を適材適所に届けるには
我々が誰かに情報を伝える際、口頭の他、文章、イラスト等のビジュアル、動画などの手段を用いることができる。しかし現代の、特にビジネスシーンにおいては、法令で掲載すべき内容が定められていたり、包括性やマーケティング効果を考慮して、最も伝えたいことや対象者が欲している以外の情報が次々と付加されることが少なくない。本当に必要な情報が埋もれてしまうため、届けたい人に届けたい情報が届きにくくなっている。企業は、与えられた条件の中で必須ではない情報を削ぎ落とすことが求められるようになっている。だが、必要な情報だけを伝えるのは簡単ではない。膨大な情報から本質的な情報を見出すには労力が必要となるし、システマチックに構成された情報は一部分に手を加えると全体に影響を及ぼすため、単純に要素を抜き差しすればいいというわけでもない。
新生コミュニケーションデザイン策定委員会の黒田聡氏は、「情報をスリムにする手法が必要だ。ヒントとなるのが限られた枠の中で起承転結を付ける4コマ漫画の表現術だ」と力説する。企業研修(例えばネクストリーダー育成ワークショップ。15ページ参照)、大学院の講義などで効果を体感している、と語る。
図01 必要な情報が埋もれがちな発信


情報を伝えるための鍵は「根っこと幹」と「憑依」
4コマ漫画は漫画の入門的な手法だが、情報が少なすぎると伝わらず、多すぎると読み飛ばされてしまうため、盛り込む情報量は絶妙なバランスが求められる。では、4コマ漫画のストーリーはどのように構築していくのか。新規事業のコンサルティングや若手育成などを手掛けると共に、主にビジネスシーンを題材とした4コマ漫画作家としても活躍する瀬川秀樹氏は、そのフローを次のように説明する。
「まず話の根っこである作者が言いたいことを決め、次に幹となるストーリーラインを考えていきます。途中で盛り込みたい情報は膨らんでいきますが、どこかの段階でバッサリと切り、絞っていくことが多いです。結果的に当初の想定とはまったく違った話になることもありますが、いずれにせよ大事なのは初期段階で根っこと幹を決めることです。これらが存在しないと、いくら情報を削ぎ落としても歪なものにしかなりません」
伝えたいことを見極めるコツもある。瀬川氏はそれを「憑依」という言葉で表現する。
「ターゲットを考える際にペルソナをつくるケースは多いですが、ペルソナはあくまでも外から対象者を見ているものです。本当に大切なのはユーザーに『憑依』してなりきることです。それができれば、ユーザーが本当に求めるものや、本当は嫌がっているものなどが見えてくるでしょう」
憑依をするためには、小説や映画などフィクション作品を見て感情移入に慣れたり、対象者を観察したりすることが効果的であるという。
図02 4コマ漫画の情報表現術


【実践アプローチ】4コマ漫画式情報表現術
4コマ漫画のように起承転結を構築する際には、どのようなことを意識すべきなのだろうか。瀬川氏は、実際に4コマ漫画を描く場合と、4コマ漫画の考え方を用いて情報のあり方を考える場合とを照らし合わせながら解説してくれた。


【デジタルコミュニケーションアプローチ】デジタルにおけるパーソナライズアプローチ
今まで見てきた4コマ漫画における情報表現術は、Webサイトをはじめとするデジタルの場でどのように活用すればいいのだろうか。安西氏はそのポイントとして「ユースケース」を挙げて説明してくれた。
「憑依」と「ユースケース」の活用がユーザー理解を深める
アドビの安西敬介氏は、「憑依」の考え方はソフトウェア開発の現場で用いられる技法である「ユースケース」に近いと指摘する。例えばアドビでは、ユーザーがどのタイミングでどのようにツールを使っているのかデータを集め、それを解析することで実情の把握や次のアクションのヒントにしているというのだ。憑依の方が主観的な視点を盛り込み、ユースケースの方は客観的なデータを組み合わせてユーザー理解を深めるものだが、どちらか一方ではなく、両方を使った上で起承転結がある情報を発信することが、必要な情報を適切に届けるためのポイントになるのだろう。
時代の流れの中で情報量の増大を食い止めることは難しいが、今回紹介したような方法を用いれば、本質的な情報を埋もれさせないままに対象者に届けることは可能になるはずだ。情報の扱い方に悩む企業は試してみてはいかがだろう。


※ifLinkは、東芝デジタルソリューションズ株式会社の登録商標です。worktransform、ライトフォーあんしん/Right4ANSHIN/R4Rは株式会社情報システムエンジニアリングの登録商標です。
企画協力:テクニカルコミュニケーター協会