2022.07.22
【コラム】データ活用とエシカルデザイン 今号のお題 [クラウド]
さまざまな方々に、それぞれの立場から綴ってもらうこのコラム。ひとつの「お題」をもとに書き下ろされた文章からは、日々の仕事だけでなく、その人柄までもが垣間見えてきます。
私の家庭では長年、家族のプライベート写真をどこに保管するかという問題を抱えています。特に最近、子どもが生まれてからというもの、自分たちも見きれないほどの写真、動画を撮るようになり、ファイル量とサイズ容量に対して途方に暮れています。とりあえず自宅PCのハードディスクを大量に増設し保管してはいますが、万が一のためにクラウドにバックアップしておきたいですし、何よりも家族間での共有方法の確立は、長年妻から切られているチケットでもあります。
GoogleフォトやAmazon Photos、Dropboxを有料契約してみたり、親戚との共有という意味では「みてね」なども活用してはいます。今回のような要件を満たす専門サービスなども出てきてはいますが、あまり小さい会社だとサービス終了やデータ漏洩などが怖いと感じてしまいます。
その点、GoogleやAmazonなどのテックジャイアントであれば、データ漏洩の可能性は他よりは低く、データ消失など最悪の事態もデータセンターの一帯が焦土と化さない限りは無いと言えるでしょう。それならば、これらのサービスでいいのではないかという結論になります。
ですが、ここでいつも二の足を踏んでしまうのです。本当にこれら巨大企業に自分の大切なデータを預けていいのだろうかと。普段から公私ともども全力で頼っている企業なので、活動家のように彼らを糾弾したいわけではないのですが、クラウドとそれをビジネスにしている構造上、少し考えてしまう部分があります。
特にGoogleやApple、Amazonなどは生活に密着したサービスを提供しており、PC、スマートフォンのみならず、スマートスピーカーやテレビ、ウェアラブルなど、多数のデバイス間で利用しているわけですが、最近、サービスの連携が“便利”を通り越して少し“怖い”と感じることが多くなってきています。
生活に密着したサービスを提供する企業が、ユーザーの1アカウントからさまざまな情報を集約し、相互に役立てたいのは理解できます。ですがユーザー側としてはすべての連携を把握しているわけではないので「なんでそんな事知ってるの?」という体験になることもしばしばあります。特にスマートスピーカーなど、リアルにより近いデバイスから突然そのデバイス上ではやっていないことに言及されたりすると、より自分のデータがたらい回しにされている感を抱いてしまいます。
「あなたのクレジットカードはこちらから頂いています」「過去にこういう行動してるからこれがいいですよね」「あなたの持っている写真にはこの人がたくさん写ってます」というようなことを言われているような気持ちで、個人的には立ち入り過ぎなんじゃないかと思うこともしばしば。
そして当然企業側はこれらのデータを煮るなり焼くなりできてしまうわけで、そう思うといい気分はしないのが本音です。自分もサービスデザインに携わっていたので想像できるのですが、きっとつくっている側はよりよいUXを追求して、良心でやっていることも多いのでしょう。だからこそ怖い。どの程度ユーザーからデータをもらい活用するのか、というのはいま世界的に騒がれている問題です。必要以上のデータを得ることないようにデザインするというのが、よりエシカルなデザインにつながります。
そう考えていると、自分の大切な妻や子どもの写真をコントロールの効かないクラウドサービスにアップするのも考えてしまいます。そのうちどこかのサービスが「あなたの子どもも大きくなってきましたね。そろそろこんな製品どうでしょうか?」などといい出さないか、とても怖い今日この頃です。


- ナビゲーター:三瓶亮
- 株式会社フライング・ペンギンズにて新規事業開発とブランド/コンテンツ戦略を担当。
また、北欧のデザインカンファレンス「Design Matters Tokyo」も主宰。前職の株式会社メンバーズでは
「UX MILK」を立ち上げ、国内最大のUXデザインコミュニティへと育てる。ゲームとパンクロックが好き。
個人サイト: https://brainmosh.com Twitter @3mp