2022.04.18
特別企画 [PR] Web Designing 2022年6月号
企業内コミュニケーションのキーワードは「情報資産」と「メタデータ」 情報過多時代の企業におけるコミュニケーション の理想と現実
情報過多な現代において、企業がユーザーと適切な距離でコミュニケーションを取り、成果を生み出すには、「どのような情報をつくるか」よりも「どのように情報を伝えるか」の方が重要です。さらに、企業内において齟齬のないコミュニケーションが確立していないと外部と最適なコミュニケーションを取るのは難しくなります。では、ユーザーとの、そして企業内におけるコミュニケーションの質を高めるにはどんなことをすればよいでしょうか。ポイントは「企業内における情報資産のストックの見直し」です。
企業内外コミュニケーションの実態
現在の企業はコーポレートサイト、オウンドメディア、SNS、そして「インターネット以前」から用いているマスメディアなど、さまざまな方法、さまざまな媒体で情報発信しながらビジネスを行っています。
方法と媒体の増加は企業に多くのメリットを与えましたが、その反面、本当に求める情報を探し出す労力をユーザーに強いることになり、企業側も情報素材の検索・選別や管理、媒体ごとに異なる情報の成形など、従来以上の手間を抱え込むようになりました。企業とユーザー、企業内部において、情報過多時代が到来しているのです。
(株)情報システムエンジニアリングの代表を務める黒田聡氏は言います。
「例えば、昔はひと夏に公開される映画の本数は限られていて、多くの人が同じ映画に興味を抱いていました。今はその本数は膨大になっていて、一つひとつの映画に対する興味はかつてより薄くなっています。つまり受け取る情報が増えれば増えるほど、一つの情報に対する関心は薄れてしまうのです。情報過多になると、文章をつくっても読まれないし、動画をつくっても見てもらえません。関心を引くためには、発信情報を究極まで絞り込み、適切なタイミングで提供することに特化していかなくてはなりません」
情報過多時代において競争に勝ち抜くには、万人向けの汎用化された情報をつくり続けるのではなく、個々のユーザーに最適化した情報に仕立ててこれを届ける必要があります。相反する要請に対処するために、発信する情報を既存の情報資産から取り出したり、切り取って成形したりしやすくするための仕組みが、企業には必要になっています。
情報過多による関心の低下
情報資産をストックするベネフィット
企業の情報発信は、自社が保有する情報素材の中から的確なものを検索・選別し、テーマにあわせて成形することで果たされます。ただし、将来的に発信する前提で記録していないと素材として残すことはできません。その点に関し、クロスメディア・コミュニケーションズ(株)の代表を務める美奈子・ブレッドスミス氏は提案します。
「例えば社会貢献活動に関する情報を発信する際、『私たちは昔からこの活動をやっています』という言葉だけでは説得力がありませんから、エビデンスを出さなければなりません。しかし、あらかじめ現場と合意を取って記録を残しておかなくてはエビデンスになるものを出せないんです。だから、企業価値を訴求するには、出し方はさておき、事業活動に関する情報は、粛々と、淡々とストックしていった方がよいと考えます。その集大成は、やがて企業の情報資産になっていくでしょう」
事業活動に関わる情報は、使用可否や使用目的は敢えて設定せずにストックし、広報担当者が常にそのストックにアクセス可能な状態にできる仕組みを社内に構築できれば、広報担当者が社内の情報を把握しきれないという事態をなくし、急な担当変更が生じても引き継ぎがしやすくなります。また、過去の活動を現在の事象に当てはめて広報したりすることも容易になります。
「過去にお会いした企業広報の担当者で、創業から現在に至るまでの会社の歴史を臨場感たっぷりに語った方がいらっしゃいました。幹部クラスなど重鎮であればそれほど珍しくないかもしれませんが、広報担当になって2年目の社員の方です。なぜ社歴の浅い社員がそこまで語れるかというと、経営者の発言をすべて記録し、年1回社内向けに書籍として出しているからなのだそうです。この事例はまさに情報資産を活かしている好例でしょう」(ブレッドスミス氏)
情報はメタデータ“だけ”で管理する
情報資産のストックを社内外コミュニケーションの向上に役立てる鍵は、多種多様な情報を検索しやすい状態に保つことです。かといって事前に情報の型(構造)を決める旧来の管理方法では、型に合わない情報の取り扱いが属人的になったり、目的に合わせて情報自体を何度もつくり直す負担が増えます。情報の型(構造)のルールを事前に定めると情報が画一化され万人向けに変質します。情報過多に埋没してしまい、顧みられなくなります。型(構造)は画一的にしない方がよいと黒田氏は言います。
「すべてのルールを事前に決めてその通りに情報をつくるだけでは、社会規範や需要の変化に対して脆弱になり、使う側視点での最適化から遠ざかります。情報資産をストックしてもデータベース化しても使われない原因は、情報資産の管理の仕方の硬直性です。フレキシブル性を追求していく方がよいでしょう」
そこで黒田氏が提案するのは、「データを表す属性や関連情報であるメタデータをすべての情報に付与すること」です。
「ストックする情報がつくられたとき、その情報をつくった人がメタデータを付与することを決めておく。これをきっちりと管理しておけば、一つひとつの情報をデータベースに登録する必要もありませんし、プログラムで引っ張り出してくることも簡単にできます」
メタデータの例としてわかりやすいのが、SNSで用いられるハッシュタグ。投稿にまつわるキーワードをタグとして付けると、関連情報や他者の投稿を検索しやすくなり、ユーザー同士をつなげたり、情報の拡散がされやすくなります。SNSのハッシュタグと同じ要領で企業の情報にもメタデータを付与していくと、複雑な管理フローを踏まずとも情報同士をつなげ、検索しやすい状態を保つことができます。これをルールとすることが、これからの情報管理のあり方となっていくでしょう。
いかにしてメタデータを付与していくか
では、各情報に付与するメタデータはどのように付けていけばいいのでしょうか。黒田氏はメタデータに関してもルールは厳格には設定しない方がよいと説きます。
「必要があれば複数のメタデータを付与すればいいし、必要なければ最小限で構いません。例えば図書館に収蔵されている資料は、古いものはアバウトなメタデータしか付与されていませんが、最近は細かく付けられています。企業も同じような運用で問題ないでしょう。企業が管理すべきは情報のつくられ方や型(構造)ではなく、メタデータです」
メタデータの種類として代表的なものは「作成者」「作成日・更新日」「データサイズ」などありますが、SNSのハッシュタグのようにメタデータとして記録できる情報は多岐に渡るため、一概にどのように付けるべきとは言い難いです。事業活動に関する情報の場合、テキストデータであれば「関連製品・サービス名」「関連組織・人物名」「関連キーワード名」といったものが挙げられます。また、画像データであれば「撮影場所(住所)」「撮影されている人物・場所名」といったものが考えられます。
メタデータを付与していくと、情報発信の精度とスピードが向上するだけではなく、炎上対策にも効果を発揮すると黒田氏は言います。
「企業にとってのネガティブな情報には、ネガティブワードをメタデータとして付与しておけば、そのメタデータが含まれた情報は発信しないようにもできます」
企業の価値は、社内の意思統一を図るインナーコミュニケーションと顧客など企業関係者外へ発信するアウターコミュニケーション、それぞれがしっかりと成立してこそ高まるもの。企業内外に向けた情報発信のためには、情報資産をストックしながら各情報に最適なメタデータを付与していくための設計図を描けるかどうかが鍵です。
企画協力:株式会社情報システムエンジニアリング