2022.05.23
【コラム】新規事業のレポーティングは難しい 今号のお題 [分析と解析]
さまざまな方々に、それぞれの立場から綴ってもらうこのコラム。ひとつの「お題」をもとに書き下ろされた文章からは、日々の仕事だけでなく、その人柄までもが垣間見えてきます。
今まで新規事業に多く携わってきましたが、企業で仕事している以上、上長やステークホルダーに何かしらのレポーティングが発生します。私、これが非常に苦手です。特に立ち上げ期などはピボット前提で動いているので不確定要素が多すぎますし、追っているKPI自体あっているのかもわからない時だってあります。とはいえ、何も報告しないわけはいかないので、なんとなくそれらしい数字にまとめて、あとは「頑張ります!」と言い続けるのが私の日常です。
たとえば私が関わって来たものでいうと、前職で立ち上げたUXデザインをテーマにしたメディアサイト「UX MILK」などは、サービスのフェーズ、規模に応じて見る指標が変わっていった事例といえます。
UX MILKはメディアとしてローンチしたプロダクトだったので、最初の数年はご多分に漏れず、PV(ページビュー)を追っていました。プロジェクトを推進していく以上、まずは「100万PVを目指す」などのわかりやすい目標が欲しかったので、Google Analyticsで追っていました。最初の1年はPV数も振るわず、メディアのグロースを専門にしている子会社に移籍して、いろいろと勉強させてもらい、彼らとともに施策をたくさん打ちました。
ある程度専門性のあるメディアでは、もっと少ないPVでもスポンサード広告なども取り扱えるだろうということで、最初のマイルストーンとして20万PVという目標を設定し、無事達成した頃にはスポンサードで徐々に少額の売上も立つようになりました。
その後順調にPVは上がっていき、リリースから数年後、100万PVを達成するのですが、そのあたりから心のモヤモヤが徐々に大きくなっていきました。UXデザインというものを国内により広めるべくこの活動をしているわけですが、PVを追っているだけではUXデザインの人口が増えるわけではないのでは? ということを薄々感じ始めたのが理由です。もちろん、メディアをこの規模まで育てられたことは決して意味のないことではないのですが、日々追うKPIとして、PVという指標はもう適切ではないのかもしれない、そう思い始めました。
実質、もっと意味のある指標としては、サイトリリースと同時に行ってきた勉強会イベントの動員数がありました。リリース直後、サイトのPVがあまりない頃、一方でおまけのつもりで開催していた「UX JAM」という勉強会イベントの動員数が回を増すごとに増えてきて、大盛況でした。PVと比較するとゼロがいくつか足りないような桁数でしたが、UX MILKプロジェクト全体として考えると、よっぽどエンゲージメントが高く、コミュニティ醸成という観点ではとても意味のある数値でした。
当時は誰もが理解しやすい、レポーティングしやすい指標としてPVを追っていましたが、媒体を問わず、イベント集客数などの関係人口を増やす指標も持っておければ、もう少し早期に他の選択肢もあったかもしれません。実際、私が関わっていた後期ではサイトやイベントなど複数のKPIをパラレルで見ながら、それら全体を1つのプロジェクトとしてミッションを推進していきました。
ここから私が学んだことは、KGIやKPIはサービスのフェーズやコンセプトのブラッシュアップによって変わっていくものだということです。指標をコロコロ変えてしまうのは、報告先に対して不信感をあおるかもしれません。しかし、それを理由に本当にやりたいこと・やるべきことから遠ざからないようにしたいと常々思っています。


- ナビゲーター:三瓶亮
- 株式会社フライング・ペンギンズにて新規事業開発とブランド/コンテンツ戦略を担当。
また、北欧のデザインカンファレンス「Design Matters Tokyo」も主宰。前職の株式会社メンバーズでは
「UX MILK」を立ち上げ、国内最大のUXデザインコミュニティへと育てる。ゲームとパンクロックが好き。
個人サイト: https://brainmosh.com Twitter @3mp