2022.05.18
データのミカタ Web Designing 2022年6月号
「No.1調査」は魅力的だからこそ慎重さが必要 データアナリスト萩原雅之氏による統計コラム
2022年1月、市場調査会社の業界団体である日本マーケティングリサーチ協会が、不適切な「No.1調査」への抗議文を出し話題を集めた。調査そのものを否定しているのではなく、“No.1”という結果ありきの本末転倒な調査プロセスを問題としている。
具体的には、その商品が優位な項目やジャンルで調査したり、もともとその商品への評価が高いグループを調査対象者に選ぶなどの手法があり、1位になることをあらかじめ「保証」する調査請負会社もあるという。
この問題の背景には、No.1の標榜が実際に消費者の購買に結びつく現実がある。どんな商品、サービスでも競争があり、売上やシェアでトップを目指すことは当然で、それを調査や統計で示せば広告、販促で効果を発揮できるのだ。この春、楽天モバイルが他の大手3キャリアを抑えて満足度トップという調査結果がTVCMや新聞雑誌広告で使われていた。これは毎年継続的に実施されるオリコンによる第三者調査の結果なので、堂々とアピールしてもよいだろう。
ただ複数項目について満足度を測り、その合計や平均を総合満足度にする場合、項目の選び方次第で順位も変わる。楽天モバイルが「1年間無料」キャンペーン実施中で「料金プラン」や「コストパフォーマンス」のスコアが高い(他キャリアが低い)ことが、総合スコアに影響したことは否めない。楽天モバイルユーザーは、料金やコストパフォーマンス最優先という人が多く、当然とも言える。逆に「つながりやすさ」は4位だが、広告には出てこない。重視項目はユーザーで異なり、総合得点だけでは判断できない。
本来、商品・サービス利用前のレビューやアンケート満足度は、信頼されてこそ価値がある。「No.1」を広告やPRに使う場合には、どうか安易な「誘惑」に負けないでほしい。
- Text:萩原雅之
- トランスコスモス・アナリティクス取締役副社長、マクロミル総合研究所所長。1999年よりネットレイティングス(現ニールセン)代表取締役を約10年務める。著書に『次世代マーケティングリサーチ』(SBクリエイティブ刊)。http://www.trans-cosmos.co.jp/