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ECサイト業界研究

ECとAI ますます実用化されてきたECにおけるAI活用の今後

EC業界でもAIの活用がかなり進んできました。2015年9月に発表されたEY Institute資料によると、市場規模は2030年に86兆9,600億円に拡大し、目立つAIよりも目立たないAIが主流として生活に溶け込むように広がるだろうと予測されていました。今、まさに私達の周りに、AIが私達の生活に溶け込んで来ています。

熾烈なAI開発競争

調査会社EY Institute(EY総合研究所)(図01)の調査資料が発表されてからはや6年経ちましたが、AIの浸透は目を見張るものがあります。たぶん、一般ユーザーは気にしないレベルだと思うのですが、専門家からすればそこまでAIなのかと思うことが多くなっています。

AIのエンジンと言えば、アメリカの6社(Google、Microsoft、Apple、Facebook、IBM、Amazon)、中国3社(バイドゥ、アリババ、テンセント)を総称した「ビッグ・ナイン(9つの巨大企業)」が競うようにAIの開発を行っています。

2017年、2018年とシリコンバレーのFacebookの開発者向けカンファレンス「F8」でもAIについては多くの時間を使って説明を行っています(図02)。Facebookはこの時期は非常にAIに関して注力しており、私が覚えているだけでも2016年のディープ・テキスト、2019年のPyText(自然言語処理)や顔認証などに力を入れている印象がありました。

2018年には、ニュースフィードや検索、広告において、1日あたり合計200兆件以上の予測、50億件以上の翻訳を機械学習で処理していて、Facebook AI Research(FAIR)が取り組むリアルタイムの物体検知アルゴリズム「Detectron」や動画から人間の姿勢を特定し、3Dモデルの人体の表面にテクスチャをマッピングするシステム「DensePose」をオープンソースで公開したのも2018年です。

01 EY Institute資料
今から6年前、調査会社であるEY Instituteが発表したAIに関する現状と予測をまとめた資料では、市場規模が2020年に23兆円、2030年には86兆円規模になるとされ、「目立たないAI」が急速に浸透するだろうと予測していました。2021年現在、AIの普及は予測通りに進んでいると言えます
02 Facebookの開発者向けカンファレンス「F8」
この数年、FacebookはAIの開発に非常に力を入れています。2018年にはリアルタイムの物体検知アルゴリズム「Detectron」や、3Dモデルの人体の表面にテクスチャをマッピングするシステム「DensePose」をオープンソースで公開したりとAI活用と開発を促しており、2021年現在の普及に貢献しています

 

ECとAIの相性

「AI」がいよいよ本格的に話題となってきた数年前、EC上でAIがどのくらい使われるようになるかをJECCICAでも議論していたのですが、最初はとても使えないレベルの機械学習がメインで、使ったはよいがECサイトのブランド価値を下げてしまうAIが多かったと言っても過言ではありませんでした。

しかし一方で、不動産業ではAIの技術を使った「チャットボット」が急速に浸透していきました。その理由は、質問内容とその回答例がフロー(流れ)としてつくりやすいためです。例えば、顧客が賃貸マンションの問い合わせをしてきた場合、「年齢は?」「どこに住みたいですか?」「卒業ですか?」「仕事ですか?」など質問と回答のフローが定型化できるため、AIの機械学習と相性がよかったのです。

それに比べ、ECでは質問が多岐にわたり複雑になります(図03)。「在庫はありますか?」「いつ配送できますか?」などのECでよくある質問に対して正確にお答えするための情報を得るために、裏側はとても複雑な確認作業が必要になります。在庫で言えば、例えば東京に拠点を構える商店が運営しているネットショップで、サイトには在庫があると表示されていても、実は静岡県に倉庫があり、現時点でまだ静岡の倉庫に在庫が残っているかどうかを確認するには在庫管理やWMS (Warehouse Management System:倉庫管理システム)を調べる必要があり、大概は手持ちのPC端末などで手動により調べることになります。もしその時に在庫がなければ、発注状況がどうなっていて、仕掛品としてあるのか、今輸送中なのか、商品をつくっている最中なのか、もしくはまだ材料すらないのかなどを調べる必要があります。残念ながらそこまでAIで対応するほど、一元管理が出来ていない企業がほとんどです。つまり、AIを使用する目的の前段階を整理して、仕組み化する必要があります。

03 テンプレート化しずらいECの事情
顧客に対しての質問が定型化でき、その対応もある程度決められる業種なら比較的導入しやすいですが、ECとなるとさまざまな確認事項や要因が絡み合い、同じ顧客からの質問でも時と場合によってさまざまになります。これを完全に管理できている店舗は現時点ではまだまだ少ないと言っていいでしょう

 

ECでのAI浸透近未来

ECでは、デジタルマーケティングや接客ツール、レコメンド、チャットツール、行動分析など多くのソリューションでAIがすでに活躍しています。恒常的に人手不足のEC業界ではそろそろ人の代わりにAIをうまく使うという時代になってきていると言ってよいでしょう。

進んでいるところでは、イギリスのある企業がAIとRPAの組み合わせで、サイトからの注文をすべてAIで行い、出荷やサポートまでを行う仕組みをつくり、すでに稼働している例もあります(図04)。さらに、デジタルマーケティングでSNSから来訪したユーザーに、負担のない購入から受取までの流れを提供したり、毎回購入している商品を一番安くて確実に早く届くサイトで自動検索して注文まで行うAIといったものもそろそろ出てきそうです。

ECのAIはまだまだ進化していきます。自社のショップにも、いつどのような目的で導入するか? そろそろ本格的に考えてもよいですね。

04 ARGOSのEC向けAIプラットフォーム
アメリカの企業ARGOSが開発した、ECにおける注文から出荷、サポートまでをAIとRPAで自動化するプラットフォーム。問い合わせの回答から注文時の受注処理、そこから在庫確認、出荷指示、帳票出力、入金確認などをAIで確認し、自動的にこなすフローをつくり上げました

 

Text:川連一豊
JECCICA(社)ジャパンE コマースコンサルタント協会代表理事。フォースター(株)代表取締役。楽天市場での店長時代、楽天より「低反発枕の神様」と称されるほどの実績を残し、2003 年に楽天SOY受賞。2004年にSAVAWAYを設立、ECコンサルティングを開始する。現在はリテールE コマース、オムニチャネルコンサルタントとして活躍。 http://jeccica.jp/