2021.10.25
「文章」はあくまで「編集」の一部! 書く前の準備で、90%は書き終えている。
「書ける」からペンを執る―その前にやるべきことがある
「書ける」。日本人の多くは義務教育を通過し、識字率は99%超え。ほぼ全員が日本語を読め、書ける。当たり前ですよね。これが英語だとどうでしょう。英語を母語としない100カ国・地域のうち、日本人の英語力は53位(国際語学教育機関「EFエデュケーション・ファースト」の2019年調査より)。オランダやドイツに負けているのはもちろん、インド、マレーシアにも完敗中。英語はできない。だから「英会話教室で習おう」となるわけです。
でも、日本語は、最低限「書ける」。だから、ビジネスメールも、報告書も、noteの記事も、SNSの文章も、Web上のテキストも、なんでもかんでも「地力でいける」と思ってしまう。実際、文章を学ぶことなく、自己流で企業の情報を文章化している人はとても多いです。そんな方から「松井さん、校正してください!」とお願いされたテキストは、まるで東京2020オリンピックの開会式のように、コンセプトが見えず、散漫で、何かのマネのようで、とにかく理解しにくい。主述の関係、修飾の位置関係、読点の打ち方など、すべてがオリジナル(「独創的」ではなく「ルール無視」)で、ざっと目を通すと、ほぼ「ヨーシ、ゼロから行ってみよう!」となります。親身になって「この文章で、何を、なぜ、誰に、どのように伝えたいの?」と聞くと、ほとんどの人がスマホでYouTubeを見ながら、「その考えはなかった。最初から書くのは面倒だから、松井さん書いといて」と言うわけです。そう、「書けちゃう」という問題は、なかなか根深いのです。
自己流文章にある問題の多くが、「文章作成を文章作成単体として成立させようとしている」こと。文章は、ある日突然頭の上で光る電球のように、降ってわくものではありません。「文章を書く」のは、あくまで最後のアウトプット。いい文章を書くには、それ相応の手順を踏む必要があるのです。それが、先述の「何を、なぜ、誰に、どのように伝えたいの?」を明確にするための「❶情報収集 ❷情報分析 ❸企画 ❹制作(文章作成)」というフレームワーク。自己流でルール無視の文章を書く方は、いきなり「❹」ができると思っていることがほとんどですが、そこが違うのです。「文章」は、❶❷❸のフィルターでろ過された、タイトでソリッドなものであるべきなのです。
何の情報を、なぜ、どのように、書くのか
例えばあなたが広報部門の所属であり、「あるサービスを紹介するプレスリリース」を書くとしたら、どう進めるのが適切でしょう。内容は「そのサービスの紹介」に違いないのですが、まずは「そのサービスの価値・役割・特徴」を、関係各部門などへヒアリングして集めるはずです。次は分析。その価値や特徴は、いったいどのようなユーザーに、またはどのような状況で使ってもらったら喜ばれるのか。市場調査データなどを通して、サービスの訴求ポイントを分析しないといけません。
それからようやく「企画」です。リリースに「市場調査データ」自体を盛り込む、企業のトップのコメントを入れる、その業界の有識者の推薦コメントを取ってくるなど、分析結果をもとに、どんな企画が読み手に響くかを考えるわけです。こう順を追って考えることで、どのように文章をつくるかのアウトラインが固まります。ここから、ようやく「文章作成」が始められるのです。誤解を恐れずに言えば、❶~❸の作業を経て文章作成に当たれば、❸が終わった段階で、文章はもう90%完成しているとさえ言えます(最後のアウトプット❹を、「きれい」に「わかりやすく」するための書き方は、次回以降説明します)。
「何の情報を、なぜ、どのように、書く」。この4つの視点が文章作成には欠かせません。一般的に、ビジネスで書かなければいけない文章は、小説や詩じゃないわけですから、「何をテーマに書くか」はもう決まっていることでしょう。そのなかでどの点にフォーカスするか、それをどう世の中にアジャストさせるか、そしてその結果、どのような企画でアウトプットすべきか。この3段階が極めて重要なわけです。
ここを飛ばしていきなりキーボードを叩き始めるのは、基礎訓練を積まぬまま、トライアスロンの大会に参加するようなもの。「書けるから書く」は禁止です。「走れるし、泳げるし、自転車も乗れるから、俺イケるわ」と言いながら、もし岡編集長がトライアスロンの大会に向かったら、きっと、Web Designing誌は今号で休刊でしょう。
大事なのは、「書く前の準備」です。ぜひ右のフレームワーク図解で、各ステージですべきことをイメージしてほしいと思います。