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テイクアウト注文システムの開発と利用促進施策 プロトタイプでコミュニケーションロスを防ぐ

小規模事業者にもIT導入が進む中、特に開発案件では、クライアントとのコミュニケーションは課題となりやすい。今回は飲食店向けのシステム開発事例を参考に、円滑な開発とマーケティング支援のポイントについて考える。

九州堂のお持ち帰り
https://kyusyudo.net/web/menu/

日向野 卓也
(株)GeNEE 代表取締役 https://genee.jp/

 

高い手数料で利益が残らないテイクアウト進出の落とし穴

クライアントである「九州堂」は、東京都・千駄木に飲食店を構える会社。地域に根づく人気店ではあるものの、コロナ禍の影響は避けられず、売上減少の打開策としてテイクアウトを始めた。当初はUber Eatsなどの他社プラットフォームを活用していたが、手数料負担が大きい点が課題だった。そこでさらなる打ち手を模索する中で出会ったのが、株式会社GeNEEだ。

同社は、システム・アプリケーション開発事業と法人向けの飲食関連事業の、2つの柱を持つ企業である。そのノウハウから、独自のテイクアウト注文システムの開発を提案した。

「九州堂はすでに地域での知名度を獲得していたため、大手プラットフォームの集客力による恩恵は大きくありませんでした。そのため、自社システムを開発・保有することで、単純なコストとなっていた手数料負担を削減し、利益率の向上や、テイクアウト料金の値下げといった顧客満足へと還元できると考えました」(日向野さん)

開発案件では補助金を利用できる場合も多く、GeNEEも申請からサポートすることもあるという。一方で、受注者としては特有の課題もある。

「補助金を活用する場合、納期が非常にタイトになりやすいです。そのため、いかにミスなく円滑に進行するかが、大きな課題となります」

 

プロトタイプを活用し細かな要望まで引き出す

クライアントの担当者がエンジニアではない場合、開発者サイドの要件定義書や設計図だけでは、ヒアリングや有効な合意形成は難しい。この点をGeNEEではどう解決したのだろうか。

「最初は過去事例や競合他社のシステムを参考に、必要な機能一覧をリスト化し提示するところから動きました。しかし、やはりエンジニア仕様の資料と説明だけでは完成形をイメージしてもらいにくい。そのため、画面イメージと画面遷移が確認できるよう、専用ソフトを使用してプロトタイプを作成。開発初期の段階から実物に近い形でイメージを擦り合わせしました。こうすることで、例えば『受注した場合はアラートが鳴り、スタッフがすぐに反応できる』といった細やかな部分にも対応ができ、現場での使い勝手のよさも考えながら、開発を進めることができました」

 最終的には、ユーザーサイドと管理サイドで下図のような機能を実装している。注目すべきは、こうした注文システムでは実装することが多い、オンライン決済の機能がないことである。

「オンライン決済については、クライアントとの相談の中で機能要件からあえて省きました。というのも、テイクアウトという販売方法の性質上、お客様がリアル店舗に来店するため、支払いは店頭で行うことが可能です。オンライン決済を導入すると、決済手数料等の諸コストが継続的に発生し『手数料の削減』という当初の目的に反することになります。こうした理由から、お客様のご意見を受けて、あえて実装対象から外しました。ただし、クライアントによっては、支払いまで注文時にネットで済ませてもらい、店頭では商品の受渡しだけにしたいという要望もあると思います。システムの要件を画一的に決めるのではなく、現場のオペレーションや解決すべき課題に即して考えることが大切だと考えています」

 

思い違いを防ぐため情報と議論はオープンに

ゼロから開発する場合、使用言語やパッケージに指定がない場合も多い。非エンジニアにはわかりにくい反面、開発の根幹でもあるが、その点はどのように合意形成しているのだろう。

「使用する言語については、各言語の特徴をクライアントにも一覧リストで説明し、先方の要望や案件の性質によって選択しています。ただ、一般の事業者ですと『おまかせ』になりがちで、開発会社の判断になることが多いと思います。例えば機械学習ならPythonなど、基本的には、案件の性質に最適な言語を選んでいます。複数の言語が候補に挙がる場合は、状況に応じて、可能であればより新しい言語を選びます。今回は確実性や社内の熟練度、短納期の状況を勘案してPerl/PHPを用いましたが、案件としてはRuby on Railsもありえたかと思います。新しい言語のほうが、ライブラリのサポートが充実しているため利点が多いです」

 制作・開発フェーズに入ってからは、3名体制で進行(下図参照)。システム開発、特に本件のように「完成イメージを見せながら、クライアントの要望に応えていく」アジャイル進行は、開発チームの負担も大きく、衝突が起こりやすい。伝達ミスなどを防ぐため、GeNEEは社内コミュニケーションも工夫している。

「全員が率直な意見を出し合う、ということを大切にしています。特徴的な点は、2つのホワイトボードを活用していることです。一方には主に営業やディレクターから『お客様目線の意見』を、もう一方には制作チームから『制作側からの意見』を書き出していき、何度も擦り合わせをします。意識すべきことは、事実ベースで話し合うということ。文字として書き出すというワンクッションを置くことで、情報が精査され、それが冷静な議論につながっていると感じます」

 

安易なセオリーに流されず業態の特徴を捉えた広告施策を

「おいしい大麦研究所」の立ち上げにより、社内に点在していた大麦の情報をまとめ、発信することが可能に。また、CMSを導入したことで、今は自社内だけで問題なくコンテンツを更新できているという。

「現在、コアのメンバーは4人で回していますが、コンテンツの内容に関しては、研究開発部などにも協力を仰いでいます。でも、皆が大麦の魅力を伝えたいという意識を持ち、仕事を自分事化して捉えているため、積極的に参加してくれています。CMSの使い方含め、わからないことがあればフォローし合える環境です」(波多さん)

サイトへのアクセス数は順調に伸びており、「大麦といえば、はくばく」の想起率、そしてブランド力を向上させたいという当初の課題は解決できたと輿石さん。波多さんは、予期せぬ収穫もあったと話してくれた。

「社内では当たり前のことが、生活者にとっては有益な情報の可能性があるということを知れたのは大きな収穫でした。一番顕著だったのは、大麦のおいしい炊き方に関するコンテンツです。社内では誰もが知っている情報ですが、アクセスが非常に多く、生活者の方はここに一番悩んでいたのかと驚きました。生活者目線で考えることの大切さを改めて実感しました」(波多さん)

最後に今後の展望について、輿石さんは次のように語った。

「今は大麦の魅力を伝えているだけにとどまっており、まだメーカー目線のサイトだと思っています。将来的には、もっとお客様に大麦を食べていただき、その魅力をユーザー自らが伝えたくなるようなところまで持っていきたいです。違う切り口を入れるのか、大きな方向転換をするのか。まだ検討中ですが、より良いサイトを目指してリニューアルしていきたいですね」(輿石さん)