どこか一本軸を見つけられるといいと思います―奥 いずみ|WD ONLINE

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Era Web Architects プロジェクト

どこか一本軸を見つけられるといいと思います―奥 いずみ

Era Web Architectsの今回のゲストは、外資やデザイン会社でIAやUXリサーチを経験し、独立後も大手メーカーや事業会社を支援されている奥いずみさん。英語漬けの学生生活から、ソニーの研究所での出会いや外資企業など、今につながるキャリアの変遷と、海外で目の当たりにした仕事について語っていただきました。
(聞き手:坂本 貴史、郷 康宏 以下、敬称略)

奥 いずみ プロフィール

英語が得意で、ビジネス英語の専門学校で学ぶ。英語で仕事ができるところを探し、ソニーの研究所に入り同僚エンジニアらとHTMLなどを学ぶ。知人経由でレイザーフィッシュに転職し、カルチャーの面白さに触れ、その流れでビジネス・アーキテクツ(bA)に入社。UCDなどユーザーリサーチを推進しつつ大規模案件を担当。その後、アメリカに渡ってフリーランスとなり、クライアントの仕事の流れでユーザーリサーチを主とする仕事に。メーカー企業など多くのクライアントの事業やサービスを支援し今に至る。


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英語だけよければいい

坂本:学生のときどんな感じだったんですか。

 奥:高校生のとき、父親が使っていたNECパソコン(PC-98)が家にあったので、タイプしたり絵を描いたりはしていました。ゲームもひととおりやってましたね。勉強は、英語だけよければいいという感じでした。英語ばっかり勉強していましたね。小学校の時、たまたま父親がマドンナのビデオを見たときにMCで何を言っているのかわからなくて、悔しくて勉強をしはじめたのがキッカケです。

父親が外資企業に勤めているというのもあるかも知れませんが、英語はとりあえずできるようになっておきたかったし、親からも言われていた感じですね。高校のときに交換留学生で短期間に海外に行ったことはあります。とにかく(英語は)音が綺麗だなと思ってたんです。リズムというかイントネーションとか、そういうのがおもしろいなと思って、ほぼ独学でラジオとかTV番組とか見ていましたね。英語の専門学校に行くんですが、英英辞書を持ち歩いて、めちゃくちゃ勉強していましたね。
 

デザインをやりたくてiMacを買いました

坂本:就職はどういうところに行こうとか考えていたんですか。パソコンは当時はありましたか。

 奥:デザインが意外と好きだったので、本当はインテリアとかファッションとかに行こうかなと思っていたんですが、行かず、就職活動もあまりせず、バイト屋の花屋(フローリスト)になりました。

知り合いの人がiMacを持ってたので、ボンダイブルーのiMacとか持ってましたね。ふつうにダイヤルアップとかでつないでいたのは覚えています。デザインをやってみたくて、動画を触ったりPhotoshopとか友達でやっている人がいたので憧れがありましたね。
 

ソニーの研究所からレーザーフィッシュへ

坂本:ソニーに行かれるんですね。

 奥:そのあといくつかあって、英語が使える仕事に戻り、派遣でソニーの仕事をし始めました。ソニーの研究所では、企画管理室みたいなところで、予算とか契約とか会議のサポートをしていましたね。ふつうに事務ワークです。そこに来ていた人たちが、すごいエンジニアの人たちばっかりで、HTMLを書いてイントラネットにあげてとか、課題図書を決めて輪講でHTMLを勉強していました。紳士的でやさしい人達が多かったです。

坂本:そこからレーザーフィッシュに行かれるのはキッカケがあったんですか。

 奥:もともとデザインとか、ものを作ることには興味があったので、当時のレーザーフィッシュをニュースで知ったときに、めちゃくちゃデザインとかが素敵で「いいなあ」と思いました。当時レーザーフィッシュは、ソニーの広告代理店とのジョイントベンチャーではじめていたのですが、たまたま前の先輩がその広告代理店にいたので、「入りたいんだけど」って希望を伝えて入ることになりましたね。
 

レーザーフィッシュでの経験

坂本:レーザーフィッシュはどんな会社でしたか。

 奥:当時、日本のオフィスができたばかりで日本のメンバーは10人もいなかったと思います。すごい面白い会社だと思っていて、会社のカルチャーに色があり、みんな(それが)好きで、プライドに思っているところがありました。あれだけ大きな会社なのに、カルチャーが一本筋が通っているというのが面白い経験でしたね。みんな遊びながら仕事をしていましたし、よくパーティとかをしていた感じです。

坂本:どんな仕事をされていたんですか。

 奥:プロデューサーについて回ったりサポートをしたり、OJTで勉強してましたね。レーザーフィッシュがよかったのは、ワークフローがきちんとあったので、どのプロジェクトでも同じようにできていたところです。誰に何を提供するのかなど徹底してやっていましたね。2年弱いました。
 

ビジネス・アーキテクツでUCDプロセス

坂本:次が、ビジネス・アーキテクツ(bA)に行かれるんですか。

:元同僚が先に行ってたので、呼んでもらったカタチです。幸い、いろんな会社からお声がけはもらってはいたのですが、デザインのクオリティが高かったというのがbAに行った理由です。PM兼プロデューサーみたいな感じで入ったのですが、入った瞬間から炎上案件に入れられましたね。

当時はまだ、UCDでユーザーテストをするとかより、デザイン主導で動いていましたので、そういう客観的な視点を持つためのプロセスはありませんでした。なので、そうした活動をやり始めました。プロセスに調査を入れていったり、予算がない場合には会議室を貸し切ったり、ユーザー調査のようなことをしていましたね。今までしていなかったこともあり、より精度をあげてやっていくことは面白かったですね。IAという概念もまだ新しかったし、IAサミットやUX Intensiveに行かせてもらうなど、社内に持ち帰り勉強会などもしていました。
 

アメリカに行く

坂本:bAから次に行くキッカケはなにかあったんですか。

 奥:アメリカに行こうと思っていた時期でしたので、bAを辞めて、憧れの会社(frogやadaptivepath、Razorfish)に就職も考えたんですが、リーマンショックがあり採用がフリーズしてしまい、しばらくは日本の仕事をしていました。結果1年くらいで帰ってきましたね。

実は日本にいたときに、frogの仕事を短期に手伝った時期があり、デザインリサーチとか間近で経験したことがあります。そういうのを見ていたので、もうちょっとちゃんとできるようになりたいし、本当のデザインリサーチをやりたいなぁと思っていた時期でした。
 

フリーランスを経て独立

坂本:帰国後はフリーランスになるんですか。

 奥:元bAの福井信蔵さんの事務所を手伝っていた時期もあります。写真撮影などもう少しブランディング寄りのお仕事をされていたので、PM/IAと翻訳のディレクションなどをしていましたね。

そうこうしているうちに、クライアントが海外にお店を開くのに現地視察や調査をするときがあって、現地の人を集めたユーザーテストをしたいと相談もらったタイミングで、自分の会社を立ち上げることにしました。やっと自分が少しずつやりたいことに近づいてきたかなという感じです。

デザイン・リサーチが楽しくてやりたいという感じです。その少し後くらいに、デザインスプリントとかファシリテーションする機会も増えたので、それらと調査を組み合わせてお客さまと一緒にやっていくことがしていきたいです。
 

海外で勉強、そしてワークライフバランス

 郷:もし今2021年に20歳だとしたら、何をされるでしょうか。

 奥:やっぱり海外で勉強したかったなあと思います。以前は(行くなら)アメリカだったんですが、今はヨーロッパですね。ヨーロッパのほうがデザインとか根強く歴史もあるので。

あとは、この業界に2000年くらいからやっている方は皆そうだと思いますが、ワーク・ライフ・バランスが無茶苦茶じゃないですか。とにかくガムシャラに目の前のことだけやっていたので。なので、今20代だったら少し落ち着いてもう少し自分の人生を考える時間を持っておけばよかったかなとは思います。
 

どこか一本軸を見つけられるといいと思います

坂本:Webやインターネット業界に対してメッセージをいただけますか。

 奥:この業界にいると、めちゃくちゃスピード速いじゃないですか。自分のスキルでもそうですが、廃れないものをどこか一本見つけるというのが大事だと思っています。なのでそういう自分の得意なことや好きなものとか、それを軸にすると流行り廃りがあってもやることってあんまり変わらないんですよ。そういうのを見つけられるといいなと思います。

じゃないと疲れるじゃないですか。この速いスピードなので。端から全部捨てないといけないことも出てくるので。

そこに廃れないものって、どんどん上流とかコンテンツ作れるとか、そういうことが重要になってくると思うので。
 

この記事は、オンラインインタビューを抜粋して書き起こしています。インタビュー全編をご覧になりたい方、ぜひYouTubeチャンネル「Era Web Architects」をご覧ください。
Era Web Architects オンライン #32(ゲスト:奥いずみ)
https://www.youtube.com/watch?v=dDTYKqmP2iQ&t=205s

Era Web Architects プロジェクトとは

『Era Web Architects』プロジェクトは、発起人の坂本 貴史を中心に、インターネット黎明期からWebに携わり活躍した「ウェブアーキテクツ」たちにフォーカスし、次世代に残すアーカイブとしてポートレート写真展を企画しています。
公式YouTubeチャンネルでは、毎週ひとりずつ「ウェブアーキテクツ」へのインタビューをライブ配信しています。本記事はそれをまとめたものです。


・公式ウェブサイト (https://erawebarchitects.com/)
・公式Youtubeチャンネル (https://www.youtube.com/channel/UClJ4OvlhOzkWwFhK-7NJ0CA)
・Facebookページ (https://www.facebook.com/Era-Web-Architects-100739284870438)

インタビュアー プロフィール
坂本 貴史(『Era Web Architects 』プロジェクト 発起人)
グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。著書に『IAシンキング』『IA/UXプラクティス』『UX x Biz Book』などがある。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaas事業を推進。

郷 康宏(『Era Web Architects』プロジェクト オンライン配信担当)
2010年以降、ビジネス・アーキテクツ(現BA)を経て本格的にWebの世界へ。2015年までネットイヤーグループ株式会社において、コンテンツの作成からリアルイベント実施、SNSやWebサイトの運用まで幅広く手掛ける。2016年よりKaizen Platformにてクライアント企業の事業成長を支援。肩書は総じてディレクター。