2021.07.28
Bay Area Startup News Web Designing 2021年8月号
新コミュニケーションを提供する「Poparazzi」 自撮り写真はNG! 友達とパパラッチしあう
海外で起こっている、あるいは起こりつつある新しいビジネスの潮流、近い将来に日本にやってくるであろうビジネストレンドなどを紹介・考察します。米国サンフランシスコ在住の筆者が、サンフランシスコおよびシリコンバレーの「ベイエリア」を中心に、イケてるスタートアップを中心とした会社、サービスを毎月1つ取り上げながら、その背景や目的、今後日本で起こりうるトレンドについて追究します。
「自分がいない」インスタグラムの課題を払拭
Instagramが10年ほど前にサービスインされてから、ソーシャルメディア上における写真の数が飛躍的に増えています。その一方で、ユーザー自身やグループ写真の多くが自撮りだったり、綺麗な景色は撮れるけど、ユーザー自身は写っていないケースが多かったりします。
これは言い換えると、個々のユーザーが写真をアップすることは多くても、ソーシャルメディア上でユーザー同士による写真を通じた真のコミュニケーションの生成には至っていない状態と言えます。そこで登場したのが、2021年5月にリリースされた途端、アップルのApp Storeで一位を獲得した大人気アプリの「Poparazzi」です。
Z世代の若者の価値観にフィット自身の宣伝より仲間との時間の共有
Poparazziは自撮りを防ぐために、スマホのインカメラを使う機能がありません。自撮り写真を投稿できないのが特徴の一つなのです。自分のプロフィールを自分で作成することはできず、友達が撮ってタグ付けされた自分の写真が投稿されて初めて完成します。つまり友達が自分のパパラッチになり、あなたの写真をとり、アップしてくれるようにデザインされています。逆に自分は友達の写真を撮ってその友達のプロフィールに投稿していく、という仕組みです。
アプリを起動すると友人が投稿した“自分のパパラッチ写真”が並び、「撮られていたことに気づかなかった!」とか、自撮りでは意識して撮れない「素の自分」の表情などに驚き、撮ってくれた相手にパパラッチ写真でリアクションする、といった今までにない体験とコミュニケーションの形を提供していると言えます。
そして、最も自分の写真を撮影したユーザー(友達)は「トップパパラッチ」として表彰されます。
Poparazziはいろいろな意味で「次世代」のアプリといえます。まず、アプリをインストールしてスタートするとチュートリアルとしての動画が流れます。その動画がかなり遊び心に溢れています。動画にあわせ、写真を撮影したときに得られる触覚的なフィードバックを模しパシャリパシャリと音が鳴り、それにあわせてスマホがバイブします。
そして、Poparazziの使い方が次々と紹介されると、マシンガンのような振動が、まるで自分がカメラマンになってセレブの写真を撮っているかのような気分にさせてくれます。「このアプリでたくさん写真を撮ってください」というさりげないメッセージが込められています。
また、Poparazziにはソーシャルアプリにもかかわらず、ハッシュタグやコメント、フォロワー表示がありません。これは、それまでのSNSの常識にもなっていた「数を稼ぐ」概念からの脱却を目指していることがわかります。
さらに、より「臨場感」を出すために、撮った写真にPoparazziでは、写真を編集したり、装飾を加えたり、気の利いたキャプションを付けたりすることができないようになっています。これは、サクッと撮り、サクッとアップにして、実生活に戻るという、Instagramとは真逆の設計思想が垣間見られます。
この仕様は、競争を避け、友達との輪を大切にする価値観を持つミレニアルズやZ世代といった若者にとって、これまでの「自慢型」ソーシャルアプリよりもPoparazziに魅力を感じる要因にもなっています。実際、同アプリのリリース元であるTTYL社は「共感を広め、可能な限り本物の方法(リアルな状態)で人々を結びつけること。SNSを自分自身の宣伝ではなく、愛する人たちとの瞬間を共有するためのものにする」というミッションを定めています。
ヒットの背景にアフターコロナの生活変容
このアプリが大きな人気を集めているもう一つの背景に、アメリカ国内におけるパンデミックの収束があります。ロックダウン中には物理的に人に会えなくなったため、「Clubhouse」のような離れていても友達と繋がれるサービスに人気が集まりましたが、アフターコロナに移動するにつれ、友人と再開する人たちが徐々に増え始め、Poparazziが大人気になっていると考えられます。
新しいコミュニケーションに期待大
Poparazziは、オースティン・マーとアレックス・マーの若い中国系アメリカ人兄弟によって生み出されました。ベータ版では1万人がテストし、正式ローンチしてからたった数日で10万枚以上の投稿を獲得しました。そして、投資家からの評価額は1億3,500万ドル(約148億円)になっています。また、シリコンバレーの著名な投資会社からの投資も獲得し、サービスの拡大を進めています。