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Era Web Architects プロジェクト

速く深く潜る、がいい―村越 悟

Era Web Architectsの今回のゲストは、ヘルステックのスタートアップ、Ubie株式会社でプロダクトデザイナーをされている村越 悟氏。Web制作会社から広告代理店、ゲーム事業会社からデザイン会社へなど数多くの会社を移りプレイヤーからマネジメントまでを経験。今回は、ご自身のキャリアの変遷と、そこで得てきた経験について真面目に語っていただきました。
(聞き手:坂本 貴史、郷 康宏 以下、敬称略)

村越 悟 プロフィール

高校時代にパソコンを手に入れるも、インターネットとは無縁の学生時代を過ごす。就職活動で入社エントリーなどの必要に迫られて初めてパソコンに触れ、キー入力のブラインドタッチもままならない状態でプログラマーとしてキャリアをスタート。 インターネットの開かれた世界に惹かれ、デジハリに学び、老舗Web制作会社のキノトロープではフロントエンドエンジニア・ディレクターを経験、博報堂アイ・スタジオでは大規模コーポレートサイトなどの案件を経験、グリー株式会社ではUXデザインチームのマネージャーとして、プロダクト横断のデザイン組織づくりに従事したのち、グッドパッチで事業責任者として、デザイン組織・事業の成長に貢献。アクセンチュアでは金融機関向けのDX案件にてシニア・マネジャー、UXデザイナーを努めたのち、コロナを機に現在はヘルステックのスタートアップに至る。


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勉強のしすぎで倒れることも

坂本:学生のころは何されていましたか。

村越:好きな学科は日本史一択ですね。『信長の野望』にハマったのが最初です。なので学生のときは戦国時代に関する知識がいっぱいありました。通っていた高校が進学校というのもあったので、 高校までは真面目でしたね。中学2年生のときに勉強が好きになりだして、高校の時には中間テストや期末テストに命かけてやっていて勉強しすぎで倒れることもありました。

坂本:家にパソコンはあったんですか。

村越:パソコンは、高校のときに「Macintosh PowerBook」をおばあちゃんに買ってもらいました。当時、何の知識もなかったので、そもそもPCでゲームやりたいとか、そのくらいの軽い気持ちだったんです。パソコンをガッツリ使うようになったのは就職してからなんです。2002年新卒なんですが、就活するときにインターネットで応募するためにやり始めたのがキッカケです。就職も、今の若い人みたいに色々キャリアについて考えていたわけじゃなくて、適当に色々受けて案の定落ちまくってて。で、当時は2000年問題の残タスクみたいな対応があった中でシステムインテグレータだけは求人が結構あって、SIerに新卒で就職することになりました。パソコンもわかんないしブラインドタッチもできない状態でしたね。
 

プログラムを学びながら、インターネットに触れる

坂本:その会社では何をされていたんですか。

村越:最初に入った会社は変わった会社で、新卒研修に6カ月かけてやってました。ありとあらゆるプログラムの基本的なところを学んでいき、SIerの国家資格を取らないと配属されないようなところでした。学生の合宿のような感じでしたので、労働時間は長かったと思いますが、そんなに苦ではなかったですね。

仕事の現場は、セキュリティレベルが高かったので、インターネット閲覧もできないところでやってたんですが、家に帰ってパソコンつけるとインターネットができる感じでしたので、開かれてる社会とのギャップを感じていました。もうちょっと開かれたいと思っていたときに、Webサイトを専門に構築する会社がどうやら世の中にはあるらしいというのをキャッチして、どうせ入るのであれば、事前に最低限の知識やスキルは持っていた方がいいと思い、デジハリに行き始めます。
 

デジハリに行き、キノトロープに入る

坂本:デジハリでは何を学んでいたんですか。

村越:デジハリではWebデザインコースでした。DreamweaverとかIllustratorとかの使い方を一通り学びつつ、HTMLをDreamweaverで直すくらいはやってましたね。
当時のデジハリって 、クリエイターズオーディションみたいなのがあって、選ばれた人が企業の前でプレゼンできる機会があるんです。あわよくばそこで企業が選べると思っていて、結果的に運よく機会を得ることができて、プレゼンをすることができたのですが、その場にいなかった会社のキノトロープに入りました。

最初は、フロントエンドエンジニアとしてHTMLのコーディングをしたり、簡単なFlashのアニメーションの制作をやったりしてましたが、ある時、人手が足りなかったか何かで提案書を作るのを手伝ったときに、社長から「お前、コーディングよりこっちの方が向いてるからディレクターやった方がいいんじゃないか」と言われて、そこがWebディレクターとしてのキャリアのスタートになりました。キノトロープには2年くらいいて、キノトロープで一緒に働いていた先輩が独立して立ち上げた会社に一時期いました。
 

インフォメーション・アーキテクトという肩書

坂本:それからアイスタに行かれるんですか。

村越:キノトロープでは当時Webブランディングと言っていて、Webサイトを企業のブランディングエンジンにしよう、という提言をしていました。企業のインターネット活用が進むほど、Webサイト単体がメディアとして果たせる役割というよりも、メディアを広く俯瞰してみた方がいいだろうと思うようになりました。アイスタ(博報堂アイ・スタジオ)に行くことにしました。当時、アイスタにはディレクターという職種がなかったのですが、同僚の方がつけていた「インフォメーション・アーキテクト」をとりあえず入れようと思って、肩書に入れてました。入れたからにはそれなりのことが言えないといけないなとか、そういう人たちともつながりを作らないといけないと思い、IAカクテルアワー(勉強会)とかにも行っていた頃です。

坂本:グリーでは事業横断のポジションでしたっけ。

村越:最初はコーポレートサイトとか採用サイトとかコーポレートブランディングを担当していました。会社の組織変更を機に、ゲーム開発の部署に移籍することになり、ここでマネジメントのキャリアもスタートしました。 UXデザインチームのマネージャーを担当していましたが、当時は組織的にもそれほど知名度も実績もない。でもチームのプレゼンスをどうやったら組織に広げられるか、ということでまずはユーザテストやリサーチを型化して、多くのプロダクトに関わり品質の底上げに貢献する活動からはじめて、最終的にはプロダクトにデザイナーをがっつりコミットできる体制を作って、というところを色々試行錯誤していた時期です。書籍『IA/UXプラクティス』にもその話を書いていますね。
 

グッドパッチで組織マネジメントを経験

坂本:グッドパッチでははじめからマネジメントで入ったんですか。

村越:僕がジョインした頃のグッドパッチは組織が拡大していくフェーズで、その中で事業・組織をマネージする人材として、最初のマネージャーとしてジョインしました 。僕自身、チームのマネジメント経験はあるけど、事業のマネジメントなど未経験なことも多く、急拡大していく組織の中で起こってくる色々な課題に対処していくというところで、マネジメントに割く時間の比重が圧倒的に大きかったですね。

坂本:苦労した点はありますか。

村越:組織の急成長における人や組織的な歪が起きてはいたんですが、今考えてみると、自分の(現場への)入っていき方があんまりよくなかったのかなと、今思うと反省点としてあります。具体的には、「最初からトップマネジメント的な立場で入ってしまった」ということですね。

振り返ると、グッドパッチに在籍しているような専門性やスキルの高い集団の、心をつかんでチームとして一つにしていくには、自分自身も優秀なプレイヤーであることが重要です。自分の仕事ぶりを通じてメンバーから信頼されてマネジメントとして認められていくという流れの方が、組織をまとめる求心力が生めると思いますし、僕自身が取れるリーダーシップのスタイルはこっちの方が合ってそうだったな、と今は思います。 当時の自分は、それを一切見せないまま、最初から「マネジメントです」と入ってしまったのと、僕自身が組織に対して、各プロジェクトの状況を確認したり、メンバーの状況をこまめに確認したり、といった立体的な動きができなかったこともあって 、事業は伸びたけど、組織の状態はあんまりよくならなかった。事業成長させる方向に自分の時間の使い方をフォーカスしてました。これが完全に間違っていたなと今でも思い返して反省しています。
 

アクセンチュアからスタートアップへ

坂本:そこからアクセンチュアに行くことになりますね 。

村越:グッドパッチでは、「専門性の高いチームを束ねられるのは専門性の高いリーダー」であるということと「事業自体の解像度を高めるにはデザイン以外の産業を知るべき」という学びがありました。その経験を得るために、「トップマネジメントでもプレイヤーであることが求められる」、かつ「デザイン知識に産業カットの知見を組み合わせることで自分の強みの幅を広げる」ということができそうな環境を選び、 コンサルティングファームのアクセンチュアに行くことになります。分野は金融、かつ僕は保険業(生命保険、損害保険)に特化したチームに属していました。保険業におけるデジタルトランスフォーメーションプロジェクトに、UXデザイナーとして関わっていました。アクセンチュアでは、マネジャーで入って最終的にはシニア・マネジャーという肩書きだったのですが、人材育成、人的マネジメント、人事評価もやりながら自分自身もプレイヤーとして現場の第一線に立っていました。プロジェクトも大規模なものが多く、かつ企業変革への影響力も大きなものがほとんどだったので、責任も大きいですが、やりがいも感じていました。

坂本:したいことができたのに、スタートアップに移られたキッカケは何ですか。

村越:体を壊したことが大きいですね。リモートワークだからかも知れないですが、これまでは出社してなにがしかリフレッシュはできていたと思うんですが、詰め詰めのスケジュールを続けていたのもあって。突然バンっと具合悪くなってしまったんですよね。まだ頑張ろうと思えば少しはやれていたかもしれないですが、ほんとにしんどくなって取り返しがつかなくなる前に、思い切って長めの休みを取ることにしました。 やっぱり無理しないというのが大きいし、家族との時間を長くとるというのも重要な要素だなと思って。自分をいい状態においておける条件みたいなものが(コロナを機に)言語化できるようになったので、それを今は心がけています。また、休みを取る中で自分自身の働き方に対する考え方も変わってきました。無理をせず、家族との時間も大切にしながら働ける環境がいい、というのが最優先事項になりました。また、働くのであれば、「自分の知見が生きる」「デジタル化が進んでいない産業である」「自社でプロダクトを持っている企業である」「そのプロダクトを語るときに、自分の体験を重ねて自分の言葉で語れるかどうか」という要素を重点に、次のステップを考えて、ちょうど知り合いもジョインしていたUbieが頭に浮かんできて、今に至ります。
 

迷わずスタートアップに飛び込んでいる

 郷:もし今2021年に20代だとしたら、何をするでしょうか。

村越:今20代だったら、迷わずにスタートアップ企業に飛び込んでいることは間違いないですね。今の会社が100人くらいなんですが、20代だったらもっと小さい規模の会社に行っているかも知れないです。 今一緒に働いている同僚は最年少が19歳(配信当時)なんですが、普通に他のメンバーと働いてますし、非常に高いスキルを持っていて重要な機能の開発にも関わってくるくらい要となっている存在です。年齢問わずにそういう人と働ける環境はなかなかないんじゃないかと思います 。スタートアップって、キャリアとかスキルの多様性が出やすい環境でもあると思うし、ビジネス的・デザイン的・エンジニア的な素養を自分で消化して成長していかないといけない環境だと思うので、若いときにそういうことに挑戦するのは絶対にその後のキャリアにプラスになるんじゃないかという気がする。ので、今20代で大学行っているくらいのときなら、そういう選択肢を探すかも知れないですね。
 

まずはできるようになるところから、速く深く潜る

坂本:Webやインターネット業界に対してメッセージをいただけますか。

村越:「速く、深く潜る」─新しく何かを始めるときの僕のキーワードだったりします。たとえばコードを書くのでも、速く深く潜ってとりあえず一通りのことができるまでは全生活の8割の時間はそれに割くとか、それくらいバンと深く潜ってから視界を広げていろんなことを見ていくみたいなことをやったりします。多分インターネットとかWebの産業とかも、いったん作ることに深く潜ると、バァっと上がったときに、そのビジネスがどう動いているのか、産業とかビジネスの仕組みに興味が出てくるはずなんですよね。そうなってくると、さらに興味の対象が広くなって、キャリアの多様性も増してくると思うので、物事の解像度を上げるには「速く、深く潜る」がオススメです。
 

この記事は、オンラインインタビューを抜粋して書き起こしています。インタビュー全編をご覧になりたい方、ぜひYouTubeチャンネル「Era Web Architects」をご覧ください。
Era Web Architects オンライン #26(ゲスト: 村越 悟)
https://www.youtube.com/watch?v=7_6rdbWCwdc&t=7s

Era Web Architects プロジェクトとは

『Era Web Architects』プロジェクトは、発起人の坂本 貴史を中心に、インターネット黎明期からWebに携わり活躍した「ウェブアーキテクツ」たちにフォーカスし、次世代に残すアーカイブとしてポートレート写真展を企画しています。
公式YouTubeチャンネルでは、毎週ひとりずつ「ウェブアーキテクツ」へのインタビューをライブ配信しています。本記事はそれをまとめたものです。


・公式ウェブサイト (https://erawebarchitects.com/)
・公式Youtubeチャンネル (https://www.youtube.com/channel/UClJ4OvlhOzkWwFhK-7NJ0CA)
・Facebookページ (https://www.facebook.com/Era-Web-Architects-100739284870438)

インタビュアー プロフィール
坂本 貴史(『Era Web Architects 』プロジェクト 発起人)
グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。著書に『IAシンキング』『IA/UXプラクティス』『UX x Biz Book』などがある。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaas事業を推進。

郷 康宏(『Era Web Architects』プロジェクト オンライン配信担当)
2010年以降、ビジネス・アーキテクツ(現BA)を経て本格的にWebの世界へ。2015年までネットイヤーグループ株式会社において、コンテンツの作成からリアルイベント実施、SNSやWebサイトの運用まで幅広く手掛ける。2016年よりKaizen Platformにてクライアント企業の事業成長を支援。肩書は総じてディレクター。

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