基礎が活きているからこそ、特化することができる―中村 享介|WD ONLINE

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Era Web Architects プロジェクト

基礎が活きているからこそ、特化することができる―中村 享介

Era Web Architectsの今回のゲストは、株式会社ピクセルグリッドを経営している、中村享介氏。Jamstack (高速なWebサイトの構築手法)に特化し、問題に対する効率化を図るのを得意としています。現在の会社を設立するまでの経緯などを語っていただきました。
(聞き手:坂本 貴史、郷 康宏 以下、敬称略)

中村 享介 プロフィール

高校生からインターネットにいそしみ、専門学校でデザインとWebを学ぶ。就職氷河期を乗り越えWebデザイナー・ディレクターになりながら、Webと全般的に関わっていくことになる。仕事を辞めたあと、しばらくフリーランスとして活動。経験を経て株式会社ピクセルグリッドを設立し、主にJavaScriptを中心としたサービスを運営している。


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本を借りてホームページを作っちゃいました

坂本:Webを作るタイミングはいつごろか覚えていますか。

中村:コンビニでバイトをしていたとき、深夜に働いていた方から「ホームページを作ろうと思って本を買ったんだけど、よくわからん」と言われて、その本を見てみるとただのテキストファイルでした。書いてあるのを読んでみたら「難しくないぞ」となって、その本を借りて家で少しやったら、いろいろ作れることがわかりました。

彼のお店のホームページでしたが、本を借りたお礼に作っちゃいました。当時 Photoshop はいじれましたので、画像などの加工もできました。ただデザインは複雑ではなく、色の指定なんかもHTMLに直接コーディングしていましたので、「テキストでやってるから早く表示されるのか」などの発見にもつながりました。

高校3年生のころには夏休み中にメモリ増設のバイトなどもしていましたが、その後、親がデザイナーだったこともあり、コンピューターとデザインができる専門学校に行くことになりました。結果として、そこでWebを学ぶことになりますが、独学で学んでいたおかげでコンピュータ史などの授業では先生より僕のほうが詳しかったです。PageMill(アドビのホームページ作成ソフト)を使う授業がありましたが、テキストエディアを使っていた学生でしたし、Macでの授業も場合によってはWindowsを使っていました。卒業制作も勝手にFlash使ったり。

坂本:Webを作ることが仕事になったタイミングはあったんですか。

中村:専門学校にいたときも広告代理店のデザイン系のお仕事をバイトでしていたりしました。就職氷河期でしたので、すぐ就職はしていなくて派遣の仕事をして生意気すぎて3日でクビになったりしました。その後、親に頼んで、知り合いのデザイン会社に面接の機会だけもらい「Webデザイナー」として入社した経緯があります。
 

ロクナナでWebに特化していく

坂本:Web系に特化していくようになったキッカケやタイミングはありましたか。

中村:Web系に特化しようと思ってロクナナに転職した時です。ロクナナでは、Webの全体設計をやりたかったので、「ディレクターにしてほしい」と頼み、仕事をやり始めました。人数が少なかったのでFlashやHTMLコーディングなども全部やっていたのですが、ディレクションだけだと、自分で実装したくなってしまうので、あまり向いていないなと思いました。その後、Flashとディレクションをやっていた中でCSSが楽しくなってきて、Web標準などをやっていました。

坂本:Web系の本で、はじめて自身で書かれた本は覚えていますか。

中村:当時、アップルストア銀座でやっていたCSS Nite(セミナーイベント)で、Photoshopなどの効率化テクニックについて話をしたときがあるのですが、そのときに会った出版社の方に「JavaScriptの本を出してください」と話したら、逆に「書いてくれ」と言われ、「分かりました。書いてみましょう」という話になりJavaScriptの本を書くことになりました。

「何とかなるだろう」と思い、JavaScriptを勉強しながら執筆していましたが、JavaScriptが海外で流行りすぎて、次から次へとライブラリが登場し、執筆中にどんどんバージョンが変わる事態になりました。
 

JavaScriptに特化した会社を設立

坂本:ロクナナから次に行くことになった、キッカケは何かありましたか。

中村:一通りできるようになってきたので、Webサービスの会社に入って、もう少しきちんと開発を学びたいなと考えたことですかね。「どこにしようかな」と悩みました。先に辞めてからスノーボートでもしながら次の会社を考えようと思いしばらく遊んでいると、暇なことを嗅ぎつけた人から仕事を受けるようになりました。しばらく個人で仕事していましたが、すべて自分でやるのは辛いなと思ったので会社を設立しました。

Flash全盛のときでしたが、JavaScriptに特化した会社が当時なかったので、「ないなら作ろう」と思って、当時ダーツで知り合った高津戸氏といっしょにピクセルグリッドを設立しました。最初からJavaScriptの会社を名乗って設立していて、2011年頃からJavaScriptの需要が増えてきたので、そこが大きなターニングポイントではありました。

坂本:ピクセルグリッドでは、メルマガでサブスクの「CodeGrid」をされていますね。

中村:出版社の方のご縁で、編集できる方が入社されたタイミングで、自社に執筆経験者が多くいたこともあり、サブスクリプション型のメルマガがいけるのではないかと考えて始めました。現在も8年くらい継続して配信しています。購読者数は1100人ほどです。その方が入っていなければサービスは立ち上げていなかったと思うので、その人ありきだと今は感じています。

坂本:Jamstack(高速なWebサイトの構築手法)は、いつごろからどういうキッカケがあったのですか。

中村:常に新しいWeb技術を探しているのですが、Jamstackというのが出てきたときに「(これを使えば)今の問題をいろいろ解決できそうだな」と考えました。ピクセルグリッドでは、フロントエンドしかやっていないので、他社が作っているバックエンドやインフラに問題があるとWebサイト全体が遅くなってしまうことがありました。Jamstackであればバックエンドが多少遅くてもサイトは高速にできますし、ほぼ自動で設定するだけでアクセスに強いインフラまでできます。問題をほどよく解決できそうなものとして、Jamstackを選びました。
 

オープンなWebに惹かれているので同じようにやっている

 郷:もし、中村さんがいま20代で、今の知識をもたずに現代にいたら、何をされていると思いますか。

中村:20代まで戻ったとしても、多分Webをやっているだろうなとは思います。Flashが今ないのでiOSアプリなどを作っているかも知れません。オープンなWebに惹かれているところがあるので、今と同じようにやっている気はします。

Flashをずっとやっていたとき、いつもバージョンアップに振り回されていました。開発会社が方針を変えれば従うしかない。しかしオープンな規格(HTML等)の場合には、選択肢もあるし使うか使わないか自由で、そこが良いかなと思います。

割とずっとWebが好きだからWebをよくしたいなと思ってはいます。たとえば「良いWebって何だろう」と考えたときに、アニメーションがいろいろと動いて情報が少ないサイトよりは、情報が早く取得できるようなもの(テキストで全部書いてある等)が良いとおもっています。
 

基礎を勉強することが何より大事

坂本:これからの世代やインターネット業界に対して、何かメッセージをお願いします。

中村:「基礎をちゃんと勉強しよう」ということです。若いころは派手なFlashなどに惹かれたけど、ベースとしての技術が今にも活きているので、ベースは大事だなと思います。僕にとってベースというと、最初に触ったHTMLやテキストです。文字コードの知識も役に立っています。 若い人ほど「それを使っているのに、こちらは知らない」というのがあります。ピクセルグリッドでは「CodeGrid」等の情報メディアでの情報提供はしますが、ベースとなる内容は本気で調べていますし、間違いがないように「読みやすく・分かりやすく」と、非常に力を入れています。

坂本:ベースとなる知識があったうえで、どこかに特化する形なら良いけれど、トレンドに流されて1つの分野だけ学んだとしても、ベースがないと他に対応しづらくなるということですね。よくわかりました。
 

この記事は、オンラインインタビューを抜粋して書き起こしています。インタビュー全編をご覧になりたい方、ぜひYouTubeチャンネル「Era Web Architects」をご覧ください。
Era Web Architects オンライン #7(ゲスト: 中村享介)
https://www.youtube.com/watch?v=wIq7_GbecLE

Era Web Architects プロジェクトとは

『Era Web Architects』プロジェクトは、発起人の坂本 貴史を中心に、インターネット黎明期からWebに携わり活躍した「ウェブアーキテクツ」たちにフォーカスし、次世代に残すアーカイブとしてポートレート写真展を企画しています。
公式YouTubeチャンネルでは、毎週ひとりずつ「ウェブアーキテクツ」へのインタビューをライブ配信しています。本記事はそれをまとめたものです。


・公式ウェブサイト (https://erawebarchitects.com/)
・公式Youtubeチャンネル (https://www.youtube.com/channel/UClJ4OvlhOzkWwFhK-7NJ0CA)
・Facebookページ (https://www.facebook.com/Era-Web-Architects-100739284870438)

インタビュアー プロフィール
坂本 貴史(『Era Web Architects 』プロジェクト 発起人)
グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。著書に『IAシンキング』『IA/UXプラクティス』『UX x Biz Book』などがある。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaas事業を推進。

郷 康宏(『Era Web Architects』プロジェクト オンライン配信担当)
2010年以降、ビジネス・アーキテクツ(現BA)を経て本格的にWebの世界へ。2015年までネットイヤーグループ株式会社において、コンテンツの作成からリアルイベント実施、SNSやWebサイトの運用まで幅広く手掛ける。2016年よりKaizen Platformにてクライアント企業の事業成長を支援。肩書は総じてディレクター。