2021.03.12
一億総編集者計画 Web Designing 2021年4月号
ビジネスマンの創造力 先行き不透明な今こそ新しさをつくる
【今回のお悩み】「サステナブル事業部という新しい部署で、新規サービスを企画しないといけないが思いつかない…」
Illustration: 浦野周平・児玉潤一
生み出す行為は発見する行為の積み重ね
計画(1)因果関係を重視する姿勢
今回のお悩みは、新規サービスを生み出す困難さがテーマです。特にコロナ禍においては、新サービスを開発するといった大きな内容でなくても、業務のちょっとしたスキーム変更など、新しい形態を求められる場面が多くなってきたのではないでしょうか。
編集作業には、雑誌にしろ書籍にしろ、企画を考えるという仕事があります。そこでは、世間の動きや読者が何を求めているかを考慮するために、時代を読む視点を持つことが大事なのです。まずは、やりたいことよりも、目の前で起きている現実をしっかりと把握する作業が重要となってきます。 今回のお悩みであれば、「サステナブル」という横文字に関して、言葉の意味を理解するのではなく、「どんな背景から新しい部署ができたのか」といった社内外の動向を知ることから始めます。断片的に情報を収集するのではなく、常に因果関係を見ようとすることです。これは仮説でも構いません。深い仮説であればあるほど良く、その仮説を顕在化させることによって新しい企画が生まれるのです。
計画(2)視点の多さより組み合わせる努力
ひらめきや思いつきに頼らず、世の中の出来事を理解するために情報を集める行為は、マーケティングリサーチとは少し違います。それは、結果という概念を持たず、常に情報を集め続けないといけないからです。
コロナ禍で実証された通り、この不確実性が高くなった昨今では、成功するかどうかの正解は誰にもわかりません。最低限の勝算や貢献度は予測できるとはいえ、正解を求めず、新しい企画(サービスや商品)で、どんな影響が与えられるかを考えられる力が重要になってきます。答えよりも、課題や疑問を常に考え出せることが大事なのです。
優秀なクリエイターたちが「ひらめき」ではなく「発見」を重視していると書かれている書籍『アタマのやわらかさの原理』※1では、その「発見」のためにクリエイターたちは頭の中で「編集」していると説明されています。
すなわち、視点をたくさん持つというより、モノの価値を何らかの違う解釈に変換しているとも言えるのです。これは編集作業のコアである「意味付け」であり、意味を見い出すためには、視点を掛け合わせる必要があるとも言えます。
例えば、本連載は、編集力とビジネス能力を掛け合わせることによって、新形態の仕事術を見つけています。視点の掛け合わせを行い、どのような影響力を与えられるかを問い続けた結果、新しいものが生まれるのです。
ただ、前段で述べた「なぜ、こうなった」という因果関係を見つけ出すことを意識しないと、なかなか新しい価値観は生まれてきません。単に断片的な要素を掛け合わせても、あまり意味がないということです。まずは、答えが明確でないものに対して仮説を立て、影響力を考慮します。掛け合わせの結合によって新しく生まれる価値を見出す努力が最初のステップなのです。
※1「アタマのやわらかさの原理」松永光弘(インプレス)
実現に近づけるための「思考力」と「熱量」
計画(3)ロジカルだけでは成果が出ない理由
物事の中から沢山の視野を掛け合わせ、新しい価値を「発見」することが、今回のお悩みを解決する第一歩だということはご理解いただいたと思います。ここからは、それらの内容を実際にプロジェクトとして実現する力について考えます。
前述した、断片的ではなく常に繋がりを意識する「拡散思考」は、ロジカルシンキングとは異なり、この思考だけでは、裏付けのある論理の組み立てが貧弱になりがちです。そうなると、仮に時代に合った新しいサービスを提示できても、なかなかGOサインをもらえない可能性があります。
事業となれば、人もお金も投入するので、数的根拠の提示や市場調査の結果など、より定量的なデータとともに論理的な見解が求められます。結論として、編集力を取り入れたクリエイティブ思考(創造的)と裏付けのある事実をもとにしたロジカル思考(論理的)の両方を持ち合わせることが重要となってきます。双方の優劣は問題ではなく、広げる思考と絞り込む思考の特性を意識し、場面によって使い分ける必要性があるということです。
衝撃的なタイトルの書籍『論理的なのに、できない人の法則』※2では、クリエイティブ思考とロジカル思考がメソッドとして紹介されています。例えば、明確な課題があったとしても、ロジカルな企画だけでは、「解決しやすい内容だから、その企画が生まれた」という逆説的な考え方もできるので、企画としては面白くなかったり、新しい価値の創造というところまで至らないことが多いのかもしれません。
上の図のように、アメリカの心理学者ジョイ・ギルフォードが提唱した概念、クリエイティブな拡散的思考とロジカルな収斂的思考をまずは意識することが大事なのです。
計画(4)やりたいという原点にこだわる
最後にもう一つエッセンスとして持っておきたい視点があります。それは、「これがやりたい!」というあなた自身の熱量です。「最後の拠り所が感情面?」と思う方もいるかもしれませんが、とても重要なことです。
例えば、企業には、「ビジョン」と言われる企業独自のメッセージがあります。一見、無機質で理解しにくいものですが、その旗印があることで企業の事業はドライブしていくのです。むしろ、その羅針盤となるメッセージがないと動機を見失ってしまい、いくら素敵な企画やアイデアがあっても事業として成り立たないことが起こりうるのです。
弊社でも「圧倒的なエゴという『自信』を伴ったクリエイティビィティを発揮しよう!」というメッセージがあります。これは、つくり手の感情の乏しさ、またそれを表現する技術の欠如があってはならないという社員一人ひとりの熱量にフォーカスしたものです。
今回のお悩みでは、まず、自分がやらされているという所からの心持ちを開放することが大事でそれが解決策になるかもしれません。「直感と論理をつなぐ思考法」※3という本には、経済学者ヨーゼフ・シュンペーターの言葉から「全く新しい何かを創出するのではなく、すでにある要素を『組み替える』ことによってブレークスルーが起こる」と経済成長の発展について解説されている一文があります。ここからもわかるように、あなたの動機と、あらゆる組み合わせによって見出された新しい価値、そして、それらを論理的に整理できる根拠を融合させることで新しい企画やサービスは生まれるのです。
先行きが見えにくい昨今では、マーケティング的な発想だけでなく、個人の体験や欲求に紐づいた新しい価値を見出す編集力を身につけることが大事なのです。