2021.01.13
一億総編集者計画 Web Designing 2021年2月号
ビジネスマンの選択力 前例に頼らず掛け合わせで価値を創出
【今回のお悩み】「「withコロナに合わせた新しいマネジメントルールをつくらないといけないのですが、前例がないのでつくるのが難しいです」」
Illustration: 浦野周平・児玉潤一
流用するだけではなく置換する発想が大事な訳
計画(1)既成概念を疑う姿勢を持ってみる
「ニューノーマル」という言葉も浸透してきましたが、「じゃあ実際、その新しい基準って何ですか?」という課題が、ビジネスの世界では顕著になってきたかと思われます。前例がないので、何を基準に考えたり、調べたりして良いかがわからずモヤモヤしてしまうという状態ではないでしょうか。
すなわち、目的が明確な場合は、「考える」というアクションで乗り越えることができますが、ゴールや制約が曖昧な場合は「悩む」という状況に陥ってしまうのです。あらゆる課題内容にセグメントされた70にも及ぶフレームが掲載された『ビジネスフレームワーク図鑑』※1では、この「悩む」という状態の打開策としてフレームワークを駆使することが進められています。
ただ、注意したいのが、既存のフレームワークは、例えば、大量生産、大量消費の社会が前提であったりと、現在の社会情勢とのギャップがあるものが多いです。また、働き方や細かなマネジメントで考えるとテレワークや副業、ビデオ会議などオンラインとリアルのバランスも影響してきます。
※1『ビジネスフレームワーク図鑑』小野義直 宮田匠(翔泳社)
計画(2)取捨選択には鮮度が関係している
フレームワークやさまざまなツールを使用するときには、まず既成概念を考え直す作業が大事だということが大前提となります。そして、ビジネスフレームワークをそのまま活用するのではなく編集力を用いて課題を解決してみるというのが、今回のテーマです。
まずポイントとなるのが、掛け合わせる力です。編集力にはトレンドを読み取る作業があります。雑誌の企画でいえば、絶妙なタイミングでトレンドを打ち出した特集などを組むことです。早すぎて読者を置いてけぼりにしてもいけませんし、遅すぎて周知の事実のような内容でもいけません。すなわち時間軸だけで編集するのではなく、タイミングを見計らいながらも何か違った要素も掛け合わせてみるのです。
例えば、一時期マスクの重要が増えましたが、もしそのタイミングで「マスク特集」を組んだとすれば、製造元の業種に目を向けてみると、新しい掛け合わせができます。スポーツメーカーや下着メーカー、生活雑貨などの量販店からファストファッションブランドまで、たくさんの企業が参入をしているので、トレンドと製造元を組み合わせることによって、マスク市場の盛り上がりがエンタメへと昇華されるのです。
今回のお悩みであれば、前例を探すだけではなく、何か関係あるものを組み合わせてみるという発想が大事です。『本業転換』※2という本の中には「遠そうで近いもの」を事業転換させることの重要性が書かれています。ご存知、富士フイルムが化粧品や医療品へ事業を転換して飛躍したことは記憶に残る出来事だと思います。そこには、もちろんタイミングという鮮度も関わってきます。お悩みである新しいルールをつくるのは大変ではありますが、新しい基準がないこのタイミングで実行することが必然的となるのです。
※2『本業転換』手嶋友希 山田英夫(KADOKAWA)
人が動く原動力を生み出すには意味付けが鍵
計画(3)基本を応用する作業は目的の変換
ここまでは、既成概念に囚われない、そのためには掛け合わせる力を用いて、最大限に時期(タイミング)を意識し実行することの重要性を伝えてきました。加えて編集力のスキルセットであるトレンドを読み取り多角的な特集を構築する作業も役立つということも話しました。続いては、もう少し具体的にお悩みの解決策を考えやすい方法をまとめていきたいと思います。
ここまでフレームワークを使おうと述べてきましたが、その際、複数の目的を考えてみる必要があります。使い方を変えずに、適応させる課題やターゲットなどを変えられないかを検討してみるのです。これは、対象となる目的をすり替える発想です。課題とフレームワークに共通性を見出し、本来とは違う使い方を考えるため、この作業は文脈をつくる編集作業と同じ思考回路なのです。
例えば、ペルソナ設計を顧客にではなく、チームメンバーやプロジェクト内のクリエイターに置き換え対応するといった感じです。本来は、商品やサービスの受け手となる顧客を明文化する作業です。どういった属性で、何を感じて考えているかといった情報を収集し整理します。目的は、受け手となるターゲットに正確にアプローチすることです。これを、今回のようなインナー向けの企画などにも使えないかという発想や思考が編集力なのです。
これは流用ではなく置換です。あなたが生み出そうとしているものを届けるという行為において、インナー向けや消費者向けといった考えは関係ありません。届ける相手がいるということだけが本質となります。すなわち、届けたい相手を明確にできれば、その後はフレームワーク通りにその対象者がどういったペルソナなのかを言語化していけばいいだけなのです。物事の意味を考え直す作業でもあります。
計画(4)同じ工程でも違う意味が生まれてくる
共通性を見出して文脈をつくり、新しい価値を生み出すことが編集力でもあると前段で述べましたが、これは「比較」という思考でありフレームワークです。とても原始的ですが、物事の立ち位置を見極める際にとても役立ちます。例えば、オンラインとオフラインを比較すると時間的な制約やコミュニケーションコストなどのメリットやデメリットは明白になります。
そこからデメリットのケア方法を踏まえ、どう運用すれば新しい価値が生まれるかという発想や、新しいツールを手に入れたから自由度が上がったという見解など、今までの常識では考えられなかった新しい意味を生み出すことができるのです。
比較から新しい意味を生み出すポイントは、 編集作業によって文脈を見つけ出せるかどうかということです。例えば、そこに「働き方の自由」という文脈を見出すことができたのであれば、テレワークで仕事をすることは通勤時間の短縮といったメリットではなく、個人が仕事先を選べるという働く人の主体性を表現する行為となるのです。これを当事者や上長や部下、取引先、さらには会社が理解してくれれば、今回のお悩みも解決するのはずです。
結局のところ、前例といった拠り所を見つけるのではなく、関係者が抱く事のできる共通認識となる軸を見つけられるかが重要になります。まとめると、まずは前提を疑い、タイミングを見計らい、従来のフレームワークをそのまま使わずに、編集作業によって新しい目的(価値)を再設定するということです。前例に囚われることなく動機づけを実行することによって、自分の考えを明快に伝えることができると考えます。メディア力を伴った「自身の発信」は、変化が著しい現代を生き抜く上でとても重要な能力となるでしょう。

- 教えてくれたのは…酒井新悟
- RIDE MEDIA&DESIGN株式会社 代表取締役社長 https://www.rmd.co.jp/ Facebook ID Shingo Sakai 大学卒業後、祥伝社へ入社。編集者としてファッション誌「Boon」に携わった後、BoonのWeb版「boon.web」でWebディレクターとして活躍。2006年にWeb、メディア、デザインを総合的に制作及びディレクションをするRIDE MEDIA&DESIGN株式会社を設立。現在は、従来の職域にとらわれない新しい時代の「編集力」を活かして、様々なソリューションビジネスに携わっている。