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「キャリアの最期までつくる人」を増やしたい ― 原一浩

Webやアプリといったデジタルプロダクトの情報アーキテクチャやUXデザインに精通する坂本貴史。坂本を発起人とする次世代アーカイブプロジェクト『Era Web Architects』は、インターネット黎明期からウェブ構築が普及し始めた時期(1990~2010年)に、ひたむきに現場に向き合い格闘してきた「ウェブアーキテクト」たちの姿を、メッセージと合わせて次世代に残していこうとしています。
Era Web Architects 初回のゲストは、KANSOCK.INDUSTRIESの原 一浩 氏。CSS Niteで14年間続けている『Webデザイントレンド』や、Web制作への熱い想いを語りました。
(聞き手:坂本 貴史、郷 康宏 以下、敬称略)

原 一浩 プロフィール

1998年に独立、同年、ウェブデザイン専門のメールメディア「DesignWedge」の発行を開始 。Webデザインやフロントエンド、バックエンドなど雑食的にいろいろな仕事に関わるかたわら、『Webデザイントレンド』を通して業界の趨勢を見守ってきた。上場企業、自治体、グローバル企業および海外サイトなどを定点観測し続けている。
・Twitter (@kara_d)
・Facebook (https://www.facebook.com/kazuhirohara)

音楽CDにあったURLを、どきどきしながらNetscapeに入力した

坂本:『Era Web Architects』では「インターネット黎明期」という言葉も使っていて、僕らのWebサイトではwwwがスタートした1990年から2010年ぐらいまでの年表を掲載しています。原さんは、どういったところからWebもしくはインターネットに触れた感じでしたか。

 原:大学に入った1994年にさかのぼります。当時はインターネットが出始める時期でした。うちの大学ではメールアドレスを1人1個もらえて、それをUNIX端末で使ったのが最初のインターネット体験でした。インターネットというのは、ブラウザというよりはメールという認識でした。
1995年にWindows 95が発売された時、フルタワー型のパソコンを買ってWindows 95を入れました。すぐにインターネットができると思ったら、モデムも要るということがわかって、当時は岐阜に住んでいたのですが、名古屋の大須までモデムを買いに行きました。
なんとかインターネットにつなぎました。「Meja」というアーティストのCDに書いてあったURLを、どきどきしながらNetscape Navigator(インターネットブラウザ)に入力したのが、本当の最初のインターネット体験です。
 

仕事がなくて静岡に帰ったとき、Webデザイン雑誌の執筆が舞い込んだ

坂本:デザイン事務所をつくったのも1998年ですか。

 原:最初からWeb制作で生計を立てようとは思ったわけではありません。当時、夜間でビル清掃の仕事をしながら、合間の時間でWebデザインをテーマにしたメールマガジンを出していました。それが思いのほか好調だったので、これはWebデザインの制作でも食べていけそうだと感じました。
このメールマガジンは、当初は卒論を掲載していました。そこから海外サイトをピックアップするようになったという流れです。登録者数は1998年末で6,000~7,000人になりました。
2001年に一度、東京進出をするんですけど、本当に仕事がなくて結局静岡に帰ることになりました。当時の僕はふてくされた状態になっていました。2002年に「web creators」という雑誌の編集長が静岡まで会いに来てくれて、記事を書いてくれという話をもらったことが、今思えばターニングポイントになりました。
 

「Webデザイントレンド」は一生続けていく気がする

坂本:原さんは毎年末、CSS Nite(Web制作者向けのイベント)に登壇して「Webデザイントレンド」としてWeb制作の流行を発信し続けています。どんな信念があるのですか。

 原:CSS Nite Shiftで「Webデザイントレンド」を担当しています。今年で14年目になります。10年目を迎えたくらいで、一生これを続ける運命になったという気がしました。
Webデザインの海外の事例を調べる時には、自作のツールを使っています。自動でクロールしてキャプチャを取ってくれるので暇な時に見ています。
「Webデザイントレンド」セッションの構成としては、海外デザイン編、グローバル500社編、上場企業編、自治体編というのがあって、この4つの定点観測プラス何かのカテゴリという感じで調べています。
海外デザイン編は、純粋に閲覧して楽しいとか、この技術すごいとかいう観点で見ています。グローバル500社編は、よりグループ企業サイトを束ねる構築がうまくできているとか、コンテンツが整理されているとかの観点が多いです。
 

まったく知識がない状態から半年でコンテンツの公開まで走り切った

坂本:一番苦労した思い出はいつですか。

 原:2011年前後です。某大学の合弁で、文系の学生に統計学を勉強させるためのコンテンツをつくりたいという話があり、まるごと依頼されました。
僕は統計の「と」の字もわからなくて、大学の統計に詳しい先生に入門し、半年くらい統計の勉強ばかりをやって、ようやくオープンさせました。激大変でしたね。なんとかできたんですが、同じことを今やれと言われてもできないですね。
 

もし今20代ならYouTubeを毎日配信する

 郷:もし今ご自分が20代だとすると何を始めるというのはありますか。

 原:もし今僕が20代前半で、ぜんぜん知名度もなく、本も一冊も出していない状況だとしたら、毎日YouTube配信します。20年前は、それがメルマガでした。メディアは変わっても、コンテンツを作っていくということは一緒です。
次がもっと大事なポイントで、それを始めても知名度はゼロなわけだから、チャンネル登録者数はまず伸びないんですよ。
メディアの誰かを捕まえて、一番目立つところに載せてもらえるよう頼んだり、提携したり、なんでも仕掛けていく。僕のメールマガジンも半年で500人ぐらいしか購読者数が伸びず、人が来なかった。そこで、面白いメルマガをいっぱい集めたサイトというのを別途立ち上げて、そちらにまず人を呼ぶようにしました。そのおこぼれで自分の読者も増やせたという経験があります。今ならメルマガの代わりにYouTubeですが、どうやってそこに人を集めていくかというのが肝心です。人を集められるプラットフォーム的なものを探しつつ、YouTubeの配信をします。
 

「最期の最期までつくる人」を増やしたい

坂本:インターネットやWebを作っている業界の人々にメッセージはありますか。

 原:Web業界は、昔と比べてこのところ人気のない業界になりつつあります。専門学校の先生に聞いても、Webよりはスマートフォンアプリの方が人気あると言われてしまいます。僕からのメッセージは、Webがどういうふうに変化していっても、若い人たちは、少しでも好きだったらWeb制作業界に来てほしい。
たとえばラジオは長い年月をかけて愛されているメディアになりました。Webもラジオのようになれたらいい。
キャリアの面でも、僕から伝えたいことがあります。僕らの1つ上の世代の、1996年くらいに会社を興した方々、今の50代の方々には、キャリアの最期までつくるということを全うしている人が、僕の観測範囲にはあまりいないと感じています。僕は「最期までつくる人」を増やしたい。そういうキャリアもあるということを伝えたいです。
 

Era Web Architects プロジェクトとは

『Era Web Architects』プロジェクトは、発起人の坂本 貴史を中心に、インターネット黎明期からWebに携わり活躍した「ウェブアーキテクツ」たちにフォーカスし、次世代に残すアーカイブとしてポートレート写真展を企画しています。
公式YouTubeチャンネルでは、毎週ひとりずつ「ウェブアーキテクツ」へのインタビューをライブ配信しています。本記事はそれをまとめたものです。
STAFF:韓 臣恵 (ライティング)、羽山 祥樹(監修)


・公式ウェブサイト (https://erawebarchitects.com/)
・公式Youtubeチャンネル (https://www.youtube.com/channel/UClJ4OvlhOzkWwFhK-7NJ0CA)
・Facebookページ (https://www.facebook.com/Era-Web-Architects-100739284870438)
・Twitter (https://twitter.com/erawebarchitect)
・Instagram (https://www.instagram.com/erawebarchitects/)

インタビュアー プロフィール
坂本 貴史(『Era Web Architects 』プロジェクト 発起人)
グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。著書に『IAシンキング』『IA/UXプラクティス』『UX x Biz Book』などがある。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaas事業を推進。

郷 康宏(『Era Web Architects』プロジェクト オンライン配信担当)
2010年以降、ビジネス・アーキテクツ(現BA)を経て本格的にWebの世界へ。2015年までネットイヤーグループ株式会社において、コンテンツの作成からリアルイベント実施、SNSやWebサイトの運用まで幅広く手掛ける。2016年よりKaizen Platformにてクライアント企業の事業成長を支援。肩書は総じてディレクター。

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