2020.11.11
一億総編集者計画 Web Designing 2020年12月号
ビジネスマンの進化力 自身を編集して意見の説得力を高める
【今回のお悩み】「プロジェクトメンバーから意見を求められた時に、自分の考えを伝えるのが苦手で、いつも誰かの考えに同調してしまいます…」
Illustration: 浦野周平・児玉潤一
自分自身をメディアと据える大前提
計画(1)制御できない情報を把握する難しさ
昨今の情報の多さは、ある意味、私たちの思考停止を生み出している部分があります。情報が多い=明確な答えがあるという構図ではなく、むしろ答えを導き出すことが困難であるという実情です。
すなわち、たくさんの答えがあり、熟考せずに判断をすると、どれも正しい答えだと思えてしまうという過ちや迷いが生じるということです。これが思考停止のきっかけになります。今回のお悩みは、自分自身の考えや気持ちを伝えることの難しさと同時に、周りに同調してしまうという、まさしく情報過多の昨今と似た状況を示しています。
SNSやECの発展により顧客データを元にしたビッグデータ分析、ターゲット広告と個人に関する情報が溢れています。ネット社会の今後を書いた『さよなら、インターネット』※1では、「制御できないデータに分散され、細分化されている」とあります。これは、まさしく我々のデジタルアイデンティティを自身で保有することができず、個人のスペックで勝手につくられた自分が生まれ、一人歩きしているということです。
※1『さよなら、インターネット』竹邑光裕(ダイヤモンド社)
計画(2)常に問い続ける自己表現
なぜ、勝手につくられた個人が存在することは問題なのでしょうか?
それは、オンラインでのコミュニケーションが、現代において重要な役割を担っているからです。今回のお悩みの対応策としては、リアルなコミュニケーションでの改善だけでは十分ではありません。もちろん対面でのやりとりで発生するスキルも重要ですが、メールやオンライン会議といったツールを通しての関係まで視野に入れることも大事です。具体的には、自分自身をメディアとして捉えるということになります。
これからの情報社会では、個人・組織の意見を「考え」「まとめ」「見せる」力を持つ人が求められる、という核心をもとに書かれた『これからのメディアをつくる編集デザイン』※2には、「メディアとは媒体、中間を意味します。メディアは、表現者と受け手の中間に立ち、情報をスムーズに送る役割を担う」とあります。
ここで注目したいのは、自分自身をメディアとして考え、周りの意見を取りまとめ、媒体となる自身を通して、自分の思いを届けることが大事だと解釈ができることです。これは、文字どおり、あるべき自分でいるには自身を編集しなければならないということです。
インフルエンサー、ユーチューバーをはじめ、個人のメディア化は加速しています。人脈の構築もビジネス上の限られた出会いだけでなく、よりオープンとなり、プロジェクト内のコミュニケーションでも、どんな趣味があって、どんなところによく行っているなど、相手へもっと複合的に自身の情報を意図的に伝える必要があります。
これが、オンライン上で無意識な自我だけが存在していることへの危惧でもあったのです。
では、お悩みの解決には、具体的に編集力をどのように活かし、どんなアプローチをしていけるでしょうか。
※2『これからのメディアをつくる編集デザイン』(フィルムアート社)
個人の決定に正解はないが影響力が生まれる
計画(3)自身の強みや志向を理解する必要性
同調ばかりせず意見を述べるためには、自分自身をメディアに置き換えるというお話をしました。そこには、自分から情報を発信して、この発信によってどういう風に見られるだろうか? どういうことを感じてくれるだろうか? という自問自答を繰り返すという意味も含まれています。
また、そもそも自身の情報を伝える前に、何よりも自分の強みや仕事や働き方に関する志向を把握しておくことも必要です。これは編集的な思考であり、編集作業で言えば、特集となるテーマや媒体のジャンルといったメディアの存在価値を設定する作業と似ています。
編集思考で置き換えると、Aというプロジェクトに関する意見と、Bというオンライン上で展開しているSNSのプライベート的な投稿と共通項を設けることで、Cという説得力のある意見を見出すことができるのです。
例えば、普段から音楽が大好きでライブやフェスに行っているとしましょう。そして、そこでの出来事や感じたことをSNSでプロジェクトメンバーにも共有しておきます。そんな中、プロジェクトでイベントPRページをつくって集客を促す施策の話となりました。あるメンバーは過去の実績から数字に基づいた施策を、あるメンバーは、類似イベントの事例をたくさん用意し、そこから意見を述べます。2人の意見は理解できるのですが、あなた的にはしっくりきていないとしましょう。そんな時、以前にSNSで体験を語っていた音楽フェスでの気づきやユーザー目線の意見を述べてみるのです。
これがA(仕事)とB(プライベート)を掛け合わせて導いたCの意見です。他のメンバーもSNS投稿を見ていれば、あなたの趣味を知ったうえで意見が入ってくるので、すんなりと聞いてもらえることが多いと思います。正解はありませんが、納得感を持って語れるでしょう。
計画(4)ターゲットを意識して届ける
みんなの声をしっかり聞いて、物事を正しく進めるのは、とても難しいです。例えば、一つひとつの意見のコンセプトなどを正確にキャッチアップしようとすると、考えるべき情報量が膨大になり、物事を進める決断がとても遅くなって、意見がまとめにくくなります。
意見を述べる際のヒントになる言葉を最後にもう一つ紹介します。「人を動かすには共通するルールがある」と見解を述べているタイムズ誌のコラムニスト、フィリップ・コリンズ。彼が書いた本『成功する人の語る力』※3によると、「あなたは自分が何について話そうとしているのかを、まだわかっていないかもしれない。けれども、いまは少なくとも誰に話そうとしているのかわかるだろう」とあります。
編集力には届ける人を明確にして、伝える内容(ここでいう意見)を考えるという作業もあるので、そのターゲティング思考が今回の場合も役立つのです。「何を」も大切ですが、「誰に」も考慮すべき重要な要素になります。
まとめると、今回のお悩みの解決策としては、「自分自身をメディアに置き換え、意見を述べるまでの工程を編集作業に見立てる」「話す相手の立場や属性を見据えてターゲットを明文化する」「意見の説得力を高めるために、オンラインでの発言や仕事に対する心構えを普段から発信をしておく」の3つが挙がります。
また、この3つを進めるうえでは、自身の強みや志向を自分が把握することが大事だとも述べました。こうした事項を意識して実行することによって、自分の考えを明快に伝えることができると考えます。あらかじめ頭に入れておき、計画的に意見を届ける発想が大切です。メディア力を伴った「自身の発信」は、変化が著しい現代を生き抜く上でとても重要な能力となるでしょう。
※3『成功する人の語る力』フィリップ・コリンズ(東洋経済)