2020.09.07
知的財産権にまつわるエトセトラ Web Designing 2020年10月号
知的財産権の放棄による利用促進 ~青山ではたらく弁護士に聞く「法律」のこと~
身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は現在も私たちの生活に大きな影響を及ぼしていますが、知的財産権の世界にも新しい動きをもたらしました。それが「COVID-19と戦う知財宣言」と呼ばれる、2020年4月に始まった、知的財産に関する新型コロナウイルス感染症対策支援宣言です。少し長いのでここでは「知財宣言」と呼ぶことにします。
知財宣言は、COVID-19のまん延防止に必要な対策を早急に進めていく上で、COVID-19対策における知的財産権(特許権、実用新案権、意匠権、著作権)を一定期間放棄するというものです。例えば、医療用の器具の構造などについて特許権が成立している場合があります。また、その形状については意匠権が成立している場合もあります。知財宣言は、これらの知的財産権がCOVID-19対策の障害となってはいけないという考えに基づき、権利を放棄するという宣言です。
7月15日現在、93社がこの宣言に参加し、対象となる特許は91万件を超えています。権利を放棄する範囲は一律ではなく、企業によっては対象範囲、期間などについて制限を設けている場合もあります。
知的財産権は、許諾を得れば適法、法律上の例外に当たらない限り、許諾を得ないと違法という白か黒かの二者択一の世界です。知財宣言のような、権利者が一定の条件を満たす行為について権利を放棄するという方法は、両者の間に中間的な領域をつくることになります。権利者としては自分の権利は留保しつつ、権利を放棄する一定の範囲で知的財産の利用を促進することで、今回の感染症対策のように、社会貢献にもつながるというメリットがあります。
知財宣言の対象には著作権も含まれていますが、特許権などと比べるとCOVID-19対策で著作権が活躍する場面はあまり多くないかもしれません。
ただ、著作権の世界では、一定の範囲で権利を放棄する仕組みでいうと、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)という、知財宣言と少し似たツールがあります。これは、著作者が作品を公表する際に、条件の内容に応じた6種類のマークのいずれかを表示することで、その条件を守りさえすれば作品を自由に使ってよいとするものです。
また、2012年には、マンガ家の佐藤秀峰さんが、自身の作品『ブラックジャックによろしく』について、一定の条件を満たせば無償で自由に二次利用して良いと宣言し、これを受けてこの作品が広告などで無償で利用されて話題になったこともありました。
知財宣言をきっかけとして、知的財産権の権利者が、権利は留保しつつ、一定の条件を守った場合にはその権利を放棄するという手法は、今後も広がりを見せてくるかもしれません。