2020.06.18
人間中心設計なくしてCX改善の成功なし サービスのリニューアルを成果につなげるために
『もてなしを科学する「商庵」』では、毎回寄せられるWebビジネスに関するお悩みに、マーケティング会社・mtc.(エムティーシー)の代表である岡崎徹氏が独自のメソッドを紹介しながら答えていきます。
今回のお悩み>>CXの改善を目指し、ECサイトをリニューアルすることになりました。どのように取り組んでいくべきでしょうか
主語は「自社」ではなく「顧客」
通常CX(Customer Experience)は”顧客体験”とも訳されますが、それを改善するとはどのようなことでしょうか? まずは「CXの改善とは何か」を明確にしないとリニューアルの要件を正しく決定できません。お話をいただくことが多い部分でもあるのですが、私が話を聞く限り、UIとUXの話ばかりでCXが置き去りになりがちです。CXとは何か、リニューアルをどう進めるべきか、を考えていきましょう。
弊社では、「CX改善」という言葉はあまり使わず、普段は「サービスデザイン」という言葉を用います。これは、人間中心設計を主軸に置き、人間の深層心理に着目しサービスをデザインしていく発想です。リニューアルの目的が「人間中心設計」で考えられていない場合、CX改善の成功はほとんどないと断言します。
と言いつつですが、実は私のところにお話をいただくものの8割がこのアンチパターンになっているという事実もあります…。とても悲しいことですね。よく聞くものを紹介すると、「今のサービスの課題を改善することでCX改善をしたい」「会員登録とカートと検索などを改善することでCVRを改善したい」「私たちのサービス自体はとても良くできていると思っているが、改善の余地があるならもっとよくしていきたい」といったものです。
ここまで話を聞いて、いつもはてなマークで頭がいっぱいになります。確かに今までやってきたことがとても優秀なサービス設計だったから事業が成長してきたのだと思います。でも、現在のサービス成長に陰りが見えているから、リニューアルという大規模な案件が必要になっているはずです。うまくいかなくなっているビジネスモデルのサービス拡張によって、CX改善を図るというのは何か違和感がありませんか?
深い顧客理解から、あるべきサービスを創造
サービスデザインを用いたリニューアルの工程は、基本的には「1.リニューアルの目的の整理」「2.デザインリサーチ」「3.アイディエーション」「4.プロトタイピング」という流れになるかと思います。ここで最初から最後まで一貫して大事にしたいのは「人間中心設計」の意識です。これを忘れてしまうと、サービス提供側の自己満足になってしまうかもしれません。内輪受けではなく、常にユーザーのことを考えましょう。
ユーザーを意識しながら「1.リニューアルの目的の整理」を行った後、まず最初にやるべきは「2.デザインリサーチ」です。ここでは、お客様を深く知り、潜在的ニーズを把握することで、自分たちがつくろうとしているサービスとのギャップを知りましょう(As-Isの把握)。このステップでおすすめしたいのが、弊社が用いる2つのメソッド「多次元ペルソナ(※)」と「Gap Discover Map(※)」の作成です。
※多次元ペルソナ・Gap Discover Mapはmtc.の登録商標です。
ユーザーを深く把握した後は、サービスの理想型を作成する「3.アイディエーション」です。自社サービスのAs-Is、潜在的ニーズとのギャップを知ったうえで、To-Beを創造しましょう。ここでポイントになるのは、アイデアをとにかくたくさん出すことで、サービスの種をつくっていくことです。
サービスの種ができたら、「4.プロトタイピング」。小さく試すことで、アイデアをブラッシュアップしていきましょう。そして、ローンチできる確度が上がったタイミングで、きちんと要件定義をして、サービス化に動き出します。定量と定性の両面からUXとUIの改善に取り組み、PDCAを高速で回すことで売上につなげたいところです。
「リニューアルをしたけど売上が下がってしまった」みたいなことを避けるためには、ユーザーが潜在的に持っているペインポイントを把握し、本当の意味でCX改善を実践する必要があります。やはり売上が確実に上がることが結局は大事ですよね。
本連載の次回の公開予定は2020/8/20(木)。第2回目もお楽しみに!