女性向けファイナンシャルロボアドバイザーサービス「Ellevest」|WD ONLINE

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Bay Area Startup News Web Designing 2020年8月号

女性向けファイナンシャルロボアドバイザーサービス「Ellevest」 男女の「お金の格差」を埋める

海外で起こっている、あるいは起こりつつある新しいビジネスの潮流、近い将来に日本にやってくるであろうビジネストレンドなどを紹介・考察します。米国サンフランシスコ在住の筆者が、サンフランシスコおよびシリコンバレーの「ベイエリア」を中心に、イケてるスタートアップを中心とした会社、サービスを毎月1つ取り上げながら、その背景や目的、今後日本で起こりうるトレンドについて追究します。

女性のためのファイナンシャルロボアドバイザー

いくつかあるフィンテックサービスの中でも、アメリカでは複数の投資口座を管理し、資産運用をサポートするサービスが充実しています。特に最近では、人間のアドバイザーに加えて、AIによるロボアドバイザーの活用が進んでいます。

ロボアドバイザーとは、コンピュータのアルゴリズムを使用して投資のポートフォリオを構築し、投資家の目標とリスクに対する許容度に基づいて資産を管理することで、投資運用を自動化する仕組み。ポートフォリオ管理は人間のファイナンシャルアドバイザーではなく、専用のソフトウェアによって行われるため、既存のサービスと比べても手数料を低く抑えることができ、同時に投資家にとっては、長期的に高いリターンを得ることが可能になっているため、高い人気を集めています。

そんなロボアドバイザーサービスはすでにいくつかありますが、その中から今回紹介するのは、女性ユーザーをメインターゲットとしているEllevest。2019年にビル・ゲイツの妻でありビル&メリンダゲイツ財団共同会長でもあるメリンダ・ゲイツ氏から投資を受けたこともでその知名度が上がっている、今最も注目されているロボアドバイザーの一つです。

Ellevestは、「男女間のお金の格差を解消する」ことを目的として掲げています。一般的に女性は男性より寿命が長いにもかかわらず収入は比較的低く、収入を投資に回すことも少ないのが現状ですが、「女性のよりよい生活の実現を助ける」ことをミッションに退職後の貯蓄のギャップを埋める手段として立ち上げられたと言います。同時に、ダイバーシティを重視し、あらゆる性別のアイデンティティや表現を持つユーザーも対象としています。 

Ellevest
男性主体のサービスがほとんどの中で、賃金格差をうけている女性のために提供するフィンテックサービス
共同創設者の1人でありCEOのSallie Krawcheck氏。メリルリンチ、スミスバーニー、バンク・オブ・アメリカなどで辣腕をふるい。雑誌『Fast Company』の「ビジネスで最も創造的な人々」の1人に選ばれました

 

低料金から利用でき年収・口座情報などを入力するだけ

Ellevestは、他の同様のサービスと違い最低入金額の設定がなく、低料金で利用できるのも特徴です。そして、基本的には性別ごとの給与カーブと長寿データを使用して、目標計画のための予測を行います。会社を退職した後の生活のための資産運用を計画する際など、女性ユーザーのために、より長い寿命が表示され、その人生をまかなえるだけの十分なお金を持てるように女性を奨励する仕組みになっています。

具体的には、アカウント開設時にまず世帯年収を入力、そして口座情報を入力することで、ユーザーの資産状況を把握します。その後、各種信託口座、課税投資口座、当座預金、預貯金などの口座残高を入力すると、アルゴリズムにより、特定した目標に対する財務状況をモデル化していきます。

そしてユーザーは、Ellevestが提案する目標リストに目を通し、望む目標を選択します。目標設定のプロセスは簡単で、計画を立てたい目標をクリックして優先順位を決めるだけでよく、専門的な知識が必要ないので実際に運用を始める心的ハードルは低くなっています。 

Ellevestはユーザーのプロフィール、目標、タイムラインを確認した上で、目標に応じたポートフォリオ、目標金額、手元資産などを提案し、カスタマイズされた投資プランが作成されます。ちなみに、例えば「リタイアメント」「住宅の頭金」「起業」など、一度に複数の目標に投資することもできます。

 

現在の女性の社会的状況に寄り添いサービスを提供

2014年に同社を設立したCEOのSallie Krawcheck氏は、ほとんどの投資会社が男性の給与額、キャリア、寿命をベースにポートフォリオを設計しており、女性特有のニーズを無視していると感じ、起業したと言います。過去のインタビューで同氏はこう語っています。

「多くの女性は男性と同じ程度に投資をしてはおらず、男性よりも退職のために貯蓄を開始している比率も少ない。そして、投資をしている率も低く、65%の人が現金を単純に寝かせているだけです」

Ellevestによると、アメリカで大卒30歳、給与は8万5,000ドルの男女がいた場合、性別賃金格差があると67歳で退職すると、所得額は女性が約32万ドルも少なくなる計算になるそうです。平均的に男性よりも長く人生をおくらなければならないのにです。そこで彼女は、女性に昇給を求めたり、複利を活用するためにできるだけ早く投資を始めるよう勧めています。

Ellevestでの彼女のビジョンは、男性のような投資家にするために女性を変えることではありません。基礎となる投資商品を女性のニーズに合わせて変えることで女性の投資・資産運用の機会を創出し、女性の経済的解放、積極的なライフプランを考えるよう意識を変える手助けをしているのです。

始めるのはとても簡単。まずは自分の情報、世帯年収や口座情報を入力するだけです
ユーザーの資産状況が表示されるので、預金額などを入力すると、さまざまな状況を想定した目標を提案してくれます
自分の経済状況に合わせて始める金額を設定でき、預金額などをその時の状態により調整することができます
30歳から65歳までに広がる男女の総貯蓄額。30歳時点で年収が女性で5万ドル(約550万円)、男性で6万5,000ドル(約700万円)としても、アメリカでは性別の給与格差により、65歳では実に3,000万円程度の差がついています
Text:ブランドン・片山・ヒル
米国サンフランシスコに本社のある日・米市場向けブランディング/マーケティング会社Btrax社CEO。主要クライアントは、カルビー、TOTO、JETRO、伊藤忠商事、Expedia、TripAdvisor等。2010年よりほぼ毎週日本から米国進出を希望する企業からの相談を受け、地元投資関係者やメディアとのやりとりも頻繁。 http://btrax.com/jp/

掲載号

Web Designing 2020年8月号

Web Designing 2020年8月号

2020年6月18日発売 本誌:1,560円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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●今まで培ってきたデザインのスキルを広く活躍させたい制作会社のデザイナー、ディレクター
●ビジネスにおいて苦しい状況だが、乗り越えようとしている全てのビジネスマン