2020.02.24
解析ツールの読み方・活かし方 Web Designing 2020年4月号
見える! データから読み解くユーザー心理
運用型広告などのWebプロモーションを行う上で、上司やクライアントから言われる「メインユーザーはこんな人たち」という情報だけで、PDCAを回した経験はないだろうか? それだけではなく、データを基に仮説を立てることで、意外な“上客”を発見することができる。そのポイントを事例とともに紹介する。
Webプロモーション現場の実状について
自社のプロモーション活動やウェブ広告代理店として広告運用に携わる中で、上司やクライアントから「この業界は最終決裁者となる夫へのアプローチが大事だから男性への配信を強めてほしい」「B2BビジネスだからPCサイトのABテストを優先する方がよい」など、現状の勝ちパターンを元に、PDCA施策を考え始める場面が多いと思う。
これら従来の勝ちパターンに加えて、自社にとって重要な新たなユーザー層を発見し、成果改善に繋げるポイントは大きく3つある。
1つ目は、今までの思い込みを疑い、新しいユーザーニーズについてデータから仮説を立てること。
2つ目は、ユーザーニーズにあわせたコンテンツ(サービス設計含め)を作成し、広告やLPなどのクリエイティブをつくってPDCAを回すこと。
3つ目は、管理画面データだけでなく、コンバージョン(以下CV)後のデータも活用することで、CVを達成しやすいユーザーと実際に事業の成果に結びつきやすいユーザーを区別すること、である。
これらのポイントを意識することにより、それまでターゲットとして注力していなかった有力なユーザーを発見することができ、ビジネスの拡大に有効な施策を考え出すことができる(図01)。
さらに、自社プロモーションであれば上司へ、代理店であれば広告主へ「このようなニーズを持ったユーザーがいる可能性があるので、今回はこのような企画が効果的」というように、情報や指示が降りるだけの一方通行のコミュニケーションではなく、プロモーションに対する建設的なディスカッションを相互に行う土壌をつくりやすくなることも大きな効用となる。
思い込みを疑い新しいユーザーを発見する
お墓の一括見積サイトを事例に挙げてみよう。霊園の見学には高齢者が多く訪れるため、メインユーザー層は60代以上と思っていた。しかし実は、CVしているユーザー属性は30~50代の男性が多い。なぜなら問い合わせ内容によると親のお墓を探しているという回答が多かったのだ(図02)。このようにデータをしっかりと見ていくことで、それまでの勝ちパターンや思い込みという枠の外に思いがけないユーザーが見つかることがある。
街コン主催企業を例にとると、新宿や表参道など東京を中心に開催されるイベントは、週末と祝日が中心で参加者層は20代後半がメインだった。クライアントのオーダーもあり、平日の出稿を抑え、金曜と土曜の広告出稿を強めた配信を行い、想定していたCVは獲得できていた。
四半期のプロモーション成果を振り返る際にさまざまな切り口でのデータを見ていく中で、いくつかの特徴的なデータを発見した。1つは曜日と時間帯についてだ。金曜や土曜のCVは全体的に多かったものの、最も多いのは水曜、次いで月曜。意外にも直前となる木曜が最も少ないという結果だった(図03)。
また、CVしている検索語句を確認していると街コンサイトのブランドネームの掛け合わせとして「当日」や「ひとり」、「30代」などの語句が目立った。これらの結果から、今までより具体的なユーザー心理が仮説として浮かんできた。(図04)
PDCAを回すのはユーザー心理毎の訴求に沿って
例えば、月曜日の午前にCVするユーザーが多いのは、「週末が充実しておらず、今週末こそは充実させたい」という思いから。水曜日にCVが多かったり、当日という検索語句が多いのは、「ノー残業デーで、早く業務が終わりそうだから参加したい」ため。「ひとり」という検索語句は、社会人になり友人と疎遠になったり、上京した人は友人が少なく「ひとりでも参加できる場所はないか」という気持ちから。
「30代」という検索語句は、実際に参加しようとした際に20代という年齢制限があったり、参加しても異性からあまり反応がよくなかったため、「30代向けの企画があれば」という願いから。
これらの仮説をもとに、各ユーザーに向けてコンテンツを提案した。
月曜日CVユーザーへは、広告のリンク先をサイトトップから、もともとあった「今週の街コンイベント」ページへ変更。
水曜日CVユーザーに向けては、試験的に水曜日開催の街コンの開催提案を行い「当日の飛び込み参加OK街コン会場はコチラ」というコンテンツを作成。
ひとりで参加するユーザーに向けては「ひとりで参加しても楽しめるテーマ別街コン特集」というコンテンツを作成。
30代ユーザーに向けては「30代歓迎・30代のみ参加大人の街コン特集」というコンテンツを用意した(図05)。
図06は、コンテンツとクリエイティブをユーザー心理ごとに訴求した前後4週間のクリック率とCV率をグラフ化したものだ。グラフを見ると、変更前に比べてクリック率は1.37倍高く、CV率も1.27倍ほど高い。仮説を立てたユーザー心理に寄り添う訴求を実現できた可能性が高い、そんな結果となった。
変更後の成果は文章量の都合もあり全体の数値をご紹介したが、実際には検索語句から見られるユーザー心理への施策は反応が良かったが、水曜日開催の施策は芳しくなかった等、仮設立てたユーザー心理に対する施策毎に数値変動に注目してPDCAを回すことが重要となる。
管理画面データだけでなくCV後のデータも活用する
WebサイトのCVが増加するだけでは、ビジネスの拡大に繋がらないこともある。刑事事件の弁護を行う法律事務所のプロモーション事例を紹介してみたい。
この事務所が扱うCVが多い犯罪領域は、盗撮や児童ポルノ所持にまつわる内容だった。そこで、キーワードなどのターゲティングや広告クリエイティブについてもCVにあわせてPDCAを回していたが、実際の受任には繋がらない状態だった。
「盗撮や児童ポルノ所持は、当人が捕まらないか心配になって相談に来るケースが大半。実際に逮捕状が出る段階ではなく、当人の自首を除いて案件化しない可能性が高い。そのため弁護契約までには至らない」というのが、現場からのフィードバックによる理由だった。
そこで、問い合せ後のデータを確認すると、受任に至りやすいのは暴行や痴漢である傾向が把握できた。つまり、現行犯で捕まりやすい犯罪である。
逮捕には「現行犯逮捕」「通常逮捕」「緊急逮捕」の3パターンがある。「通常逮捕」は逮捕状が必要であり、被疑者を疑う根拠がないと捜査されず、逮捕状は発布されない。一方、「現行犯逮捕」は、犯罪を目撃した、もしくは犯行から間もないタイミングで近くにいた人であれば逮捕ができる。そのため、暴行や痴漢など“犯行が目撃されやすい犯罪”には弁護士を必要とするケースが多い。
また、逮捕後72時間は原則的に家族であっても被疑者と面会することができないので、実際に弁護を依頼してくるのは、当人ではなく「子どもが逮捕された親」「夫が逮捕された妻」など、被疑者の家族であることが多かった(図07)。
そこで、サイト内のリンクで「子どもが逮捕された後にできること」「夫が逮捕された後にできること」といった専用ページを作成して誘導した。また、現行犯に繋がりやすい罪名をキーワードとして露出を増やすといったPDCAを回し、実際のビジネスに繋がるユーザーからのCVを増やすことができた。
オンラインやオフラインを問わず、データを基にそれまでの勝ちパターンの外にある新しいユーザー心理やユーザー像について仮説を立てること。その仮説に沿って新しく見えてきたユーザー、言い換えれば、ビジネスにおいて重要なユーザーの悩み事に合わせたプロモーションのPDCAを回すこと。これらの視点こそがビジネス拡大に繋がるポイントになる。
冒頭に掲げた3つのポイントを意識しながら、読者が携わっているWebサイトの新しいユーザー心理とユーザー像を見つけ出し、ぜひビジネスに役立てててみてほしい。