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Topics! Web Designing 2020年4月号

Google「閲覧データ」提供停止へ Webとユーザーの関係はどう変わるか?

2020年1月14日にGoogleの開発者ブログで公開された1本の記事が大きな波紋を呼んでいます。「Cookie廃止」によって、ユーザー行動解析の基本が崩されるのではないかという疑念を呼んだからです。しかし、果たして本当にそうなのか。関係各所への取材をもとに問題の核心に迫ります。

1本のブログ記事が業界を揺るがす事態に

「ネット利用者の閲覧データ、グーグル提供取りやめ」と題した記事が、2020年1月16日の日本経済新聞1面トップで報じられました。

発端は「Google Chrome」のテクニカルディレクターJustin Schuh氏が開発ブログで公開した投稿でしたが、全国紙で大きく扱われたこともあってWeb広告やWebマーケティング関係者以外にも「Cookie廃止」という話題が広く知れ渡ることになりました。

新聞記事に書かれていた内容自体は事実に基づく正確なもので、要点も整理されていました。しかし、記事内にもあるように、約11兆円以上の市場規模があるとされる「ターゲティング広告」の存立が脅かされるであろうという事態は思わぬ波紋を呼んでいます。中には「Cookieベースの情報が正しく取得されなくなって、アクセス解析に関わる業務が成立しなくなるのではないか」「ECサイトの売り上げが大きく減少するのではないか」といった不安の声があがるなど、過剰反応にも感じられる「騒動」へと発展しつつあります。

そこで、こうした誤解を取り除くためにも、今回のGoogleの発表の内容を整理し、大きな方針転換へと至った理由について改めて考えていきたいと思います。

Cookieとユーザー解析の仕組み
従業員エンゲージメントが高くなるにつれて、お礼を言われる頻度も多くなるという結果に。当然とも捉えられるが、「多い」と回答した割合は、「高」と「低」で32.3%の差がある
「騒動」の起点となったJustin Schuh氏のブログ
Google ChromeのテクニカルディレクターJustin Schuh氏の投稿内容自体は、2019年8月に発表されたPrivacy Sandbox構築に向けて2年間で移行するビジョンなど比較的穏当なものと言えます https://blog.chromium.org/2020/01/building-more-private-web-path-towards.html

 

Cookie「廃止」ではなく緩やかな「移行」を目指す

まず、センセーショナルに報じられた今回の発表ですが、Googleが突然Cookieを「廃止」してユーザー情報の囲い込みを行っているかのようなイメージは誤りです。すでに2019年8月にGoogleは「Privacy Sandbox(プライバシーサンドボックス)」というユーザーの個人情報保護の取り組みについて予告を行い、“時代遅れ”となったサードパーティCookieに代わる仕組みを業界全体で推進し、新しい「Web標準」として構築しようと呼びかけていました。

その背景にはEUの一般データ保護規則(GDPR)や米カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)など、各国の個人情報保護についての規制強化の動きがあり、すでにAppleの「Safari」やMozillaの「Firefox」などのWebブラウザでは先行してサードパーティCookieを外部に提供しない仕組みを導入しています。また、日本国内での利用者が多い「Microsoft Edge」も同様の動きを見せています。

Googleの発表もこうした流れの中で必然的に起きた話と言えます。むしろ、GoogleはCookieのブロックに対しては比較的慎重な姿勢を見せていて、急に実施することは所有デバイスなど複数の断片的な情報から個人を特定する「フィンガープリンティング」のような不透明な技術を蔓延させかねないと述べています。

Google Chromeは世界シェアの約6割
アクセス解析ソフトStat Counterによると、Webブラウザの世界シェア6割近くをGoogle Chromeが占めています。また、Microsoft Edgeの最新版もChromiumベースで開発されています。2019年12月現在のデータより作成 https://gs.statcounter.com
Appleの「Safari」では2017年にITP(Intelligent Tracking Prevention)を導入し、Cookieの規制を実施しています。Mozillaの「Firefox」も追跡Cookieを初期設定で無効化しています

 

猶予期間は2年間新しい時代に備えよう

市場シェアの高いGoogle Chromeの仕様変更によって、Googleから提供されるサードパーティCookieに依存したDSP(Demand-Side Platform)広告への影響は少なからず生じるでしょう。

しかしながら、GoogleはサードパーティCookieを2022年までサポートし、規制は段階的に実施していくことを表明しているので、短期的にはWeb広告主やパブリッシャーなどには影響が出にくいと考えられます。また、規制の対象とはなっていないファーストパーティCookieを利用するGoogleの広告メニューや、Googleアナリティクスを利用した解析業務についても同様に影響はなく、今すぐリターゲティングができなくなったり、コンバージョンの測定ができなくなるといった事態にもならないと考えられます。

Googleが提唱するPrivacy Sandboxの詳細について現状では不明な点もあります。しかし、サードパーティCookieを用いずユーザー情報を安全に取り扱うための仕組みが構築できる目処が立ったことで今回の発表が行われたのではないかと予想されます。

ChromeのCookie設定に変化
デスクトップ向けGoogle Chromeの最新版v80では「SameSite Cookie」の扱いが変更されています。具体的には属性の初期値が“None”から“Lax”となりCookieを送る条件が制約されます
Privacy Sandboxの構想
Privacy Sandboxは、ユーザーのプライバシーを保護しつつ効果的に関心にあわせた広告などを打つ、新たな仕組みの構築を2年後を目処に目指すとしています

 

ユーザー本位の豊かなインターネットへ

結果的に今回のGoogleの発表でWeb広告やECの仕組みが今すぐ大きく変わるという可能性はあまり高くありません。しかし、なぜこのように消費者のプライバシー保護の流れが世界的に生じ始めているのかという根本的なところは、それぞれの立場と視点から考え直す時期に来ているのは確かなことでしょう。

インターネットでプライバシーを守りつつ優れたユーザー体験を提供し、広告主やプラットフォーマーもそれぞれ適切な収益と効果を得るには、これからの2年間で何ができるか、それぞれの知恵と覚悟が求められています。

すでに動き出した新しい取り組み
Privacy Sandboxに関する情報は「The Chromium Projects」で公開され、新しい広告体験を生み出す取り組みはすでに始まっています https://www.chromium.org/Home/chromium-privacy/privacy-sandbox
最新の動向をキャッチアップする
Googleでは重要な情報について日本語でも提供しています。今後どのような仕組みが構築されるのかなど、注視する必要があるでしょう

掲載号

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など