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知的財産権にまつわるエトセトラ Web Designing 2020年2月号

名称の保護「京都芸術大学」紛争 ~青山ではたらく弁護士に聞く「法律」のこと~

身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。

2019年8月27日、学校法人瓜生山学園京都造形芸術大学(造形芸大)が、2020年4月1日から大学の名称を「京都芸術大学」に変更すると発表しました。これに対して、京都市立芸術大学(市立芸大)、さらには京都市長が、名称変更の中止を求める声明を発表。「京都芸大」や「京芸」という名称は市立芸大の略称として広く知られているから混乱を招くというのが、その主な理由でした。

造形芸大は、名称変更後も略称としては「瓜芸」や「KUA」を使用し「京芸」や「京都芸大」は使用しないと説明していましたが、円満解決には至らず、市立芸大は9月2日に、造形芸大に対し「京都芸術大学」の名称の使用の差止を求める訴訟を大阪地裁に提起しました。

大学の名称などはこの連載でも以前に紹介した商標権で保護されます。「京都芸術大学」という商標権を手に入れれば他人がその名称を使用することを止められるわけです。ところが、商標権は特許庁に登録されないと権利が認められません。現在のところ「京都芸術大学」という名称は登録されていませんのでまだ商標権に基づく請求はできないわけです。

ちなみに、「京都芸術大学」という名称は、2019年7月17日に造形芸大が、その翌18日に市立芸大が商標登録出願をしています。このように、同じ商標について複数の出願が行われた場合、使用実績とは関係なく先に出願をした方が優先することになっています。ですから、このままだと造形芸大が「京都芸術大学」の商標権者になってしまうかもしれません(なお、「芸大」については東京藝大が商標登録をしています)。

さて、商標権が使えないので、今回市立芸大は商標権ではなく不正競争防止法という法律に基づいて裁判を起こしました。不正競争防止法は「不正競争」を禁止するものです。不正競争の具体的な内容は多岐にわたりますが、今回の裁判に関係するのは、一定の知名度(周知性・著名性)を獲得している商品等表示(他人の業務に関する名称など)を無断で利用する行為です。

市立芸大は、「京都芸術大学」「京都芸大」という名称は市立芸大を示す名称として一定の知名度を獲得している、それだけの使用実績があるから、造形芸大がそれを使用することは許されない、と主張しました。

商標権は「使用実績は関係ないが登録が必要」、不正競争防止法は「登録は不要だが使用実績により一定の知名度の獲得が必要」になります。一長一短ではあるものの、使用実績の証明は簡単ではありません。もしビジネスで使用したい名称があったら、他人より早く出願して登録を受けて、商標権を使えるようにしておく方がいいでしょう。

今回は、京都芸術大学の名称に関する紛争を商標権と不正競争防止法の観点から論じている。市立芸大側は前者が使えないので、後者に基づいて訴訟した
Text:桑野雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2018年高樹町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など http://www.takagicho.com/
 

【お詫びと訂正】本記事の転載元である「Web Designing 2020年2月号」のP129の右段上から3行目では、誤った記載があったため、本ページでは訂正のうえ掲載しています。
訂正内容は以下の通りです。読者ならびに関係者のみなさまに深くお詫び申し上げます。
(誤)市立芸大(正)造形芸大

掲載号

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『Web Designing』2020年2月号の連載記事「知的財産権にまつわるエトセトラ」に誤りがございました。
下記の通り訂正し、読者ならびに関係者の皆様にご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。

129ページ右段上から3行目について
(誤)市立芸大
(正)造形芸大