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ECサイト業界研究 Web Designing 2019年10月号

ECのリモートワーク 実践者による生の声

基本的にサイト上での業務が多いECは、「リモートワーク」がしやすい業態でしょう。とはいえ、実際に実行しようとすると不安もあると思います。そこで今回は、リモートワークを取り入れている3つのショップに話を聞き、現場の生の声からリモートワークのメリットとデメリット、今後の展望まで考えてみることにしましょう。

成功企業の現場の声

企業に属した形をとりつつ、自宅をはじめ自由な場所で仕事ができる働き方「リモートワーク」。EC業界でなくてもさまざまな企業がすでに実践しています。すでにそのメリットやデメリットなどは指摘されていますが、こと「EC業界」でのリモートワークでも、実際は同様のメリット・デメリットが挙げられます。

まずは、大阪で文房具を主にネット通販で販売している和気文具(01)。同社でアートディレクターをしている今田里美さん(03)は、自社メディアの更新・新規コンテンツ作成・商品ページの作成(ラフ~撮影~ライティング~コーディング~アップロード)、サイトデザイン、サイトメンテナンス、メールマガジン作成、プライベートブランドのデザインやイラスト作成・他社メディア対応、そしてInstagram用の撮影やアップなどを含むSNS更新など、幅広い業務をリモートワークで行っています。リモートワークを採用しようとしたきっかけを代表取締役社長の岸井祥司さん(02)はこう話します。

「結婚、出産など、人生のイベントに大きく生活スタイルを左右される中で、そのまま自宅に優秀なスタッフを置いておくのはもったいない気持ちからでした。職種にもよりますけど、たまたま出産を機に会社から離れた場所に引っ越すスタッフ(今田さん)がいたので、いいタイミングだと思って導入しました」

次に、福井のカニ・干物専門店である越前宝や(04)です。リモートワークスタッフの業務は、主に商品ページの作成とメルマガ作成。リモートワークを採用しようとしたきっかけを女将の宝山友紀さん(05)にお聞きすると、「もともと事務所で作業をしていただいていたのですが、県外に行くことが決まり、パソコンがあれば在宅でもできる作業でしたので、引き続きお願いをしました」とのことでした。

最後は、これまた福井や金沢で展開しているインテリアショップの水野商品館/Handle(06)。ショップマネージャーである空間スタイリストの水野友紀子さん(07)によると、リモートワークスタッフは商品の登録作業、コンテンツづくりを行っているとのことで、リモートワークを導入しようとしたきっかけは、「今まで一緒に働いていたので、ノウハウもあり、お客様対応もできるのに、お店に出勤できないという理由だけで辞めなければいけないというのはもったいなさすぎると思ったからです。有り難いことに、本人たちも、うちのお店で働きたいという希望が大きかったので自宅で働いてもらうようにしました」と言います。

3ショップともリモートワークを実施したきっかけは、ライフサイクルや生活環境の変化が要因になっています。会社とスタッフ、お互いがその存在を必要としているけれど、やむを得ず遠隔地に離れてしまう、または人生の大きな節目によりいつもどおりの仕事が難しくなる。それを解決する手段として採用した背景には、お互いの納得があったことでしょう。会社側の一方的な押しつけだったり、スタッフ側の一方的な要望だけでは成立しない前提があります。

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01 和気文具
大阪で手帳・紙製品類をメイン商品とした文房具を主にネット通販で販売しています。手帳本体はもちろん、関連グッズも人気のショップです
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02 和気文具代表取締役社長 岸井祥司さん
僕は数年以内には全員出社するのをやめさせるつもりにしています。全員在宅勤務でいいと思っています。もちろん隣にいてすぐ顔を見て会話できるメリットは大きいですが、逆に言えばそれだけです。コミュニケーションも工夫次第で維持できると見ています。これからインフラも5Gになって、通信環境が今よりさらによくなればもっと便利なツールも出てくるでしょうし。明るい未来に期待しています
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03 自宅を作業場にし、和気文具でアートディレクターして幅広い業務をこなしている今田里美さん
リモートワークは、単に社外で仕事ができるだけにとどまらず枠を超えたモノゴトを生み出せると感じています。屋上で、庭で、公園で、カフェで、実家で、病院で、どこでも仕事ができるのは面白いことです。社内にいては気付くことのなかったものがそこにはあります。その場にいる人々とのふれあいもあります。そういったところから、型にはまらない仕事ができる人が増えていくのではないでしょうか
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04 越前宝や
福井で干物、カニを中心にネット通販で販売。父の日やお歳暮など干物のギフトセットがメインの商材になっています
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05 女将 宝山友紀さん
子育て中の主婦や通勤が難しい方、人とのコミュニケーションが苦手な方などにニーズは増えてくるのではないかと思います。当店の場合は、信用ある方なので時給でも成り立っています
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06 水野商品館/Handle
イギリスやフランスから買い付けてきたアンティーク家具や雑貨を販売しています
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07 ショップマネージャー/空間スタイリスト 水野友紀子さん
オンラインビジネスの時代がもっと進めば、この働き方ももっと浸透していくと思います。スキルがある女性が働ける場所があるということが大切かなと思います

 

「利害の一致」が条件

その点について、和気文具社長の岸井さんも「どちらの利害も一致していること」をキーワードに掲げています。和気文具で言えば、企業側としては「会社としてはなくてはならない戦力なので少しでも働いてほしい」という要望、スタッフ(今田さん)としては「育児の合間でも場所にとらわれず働いて収入になる」という利害が一致したということになります。

「時間や場所を生活のスタイルにあわせてあげられることは、忙しい子育ての中、通勤というストレスからの解放にもなります。子どもの発熱を心配しながら出勤して、結局呼び出されて帰るなど無駄な動きが多いですからね」(岸井さん)

その点において今田さんも賛同しています。

「一番大きいメリットは通勤時間がなくなったことです。自宅から職場まで約1時間かかるところに住んでいるため、その通勤時間を、家事や自分の時間にあてることができて非常に助かっています。また、小学生の母親ですが、学童に通わせることなく子どもの帰宅を受け入れることもできます。仕事をしている姿を見せられることもよいことだと思っています」

他2ショップも「納期までに自分の時間にあわせて作業ができる」「集中して作業ができる」「仕事を続けられる」「子どもがいても働ける」「自由な時間で仕事ができる」と、ほぼ同様のメリットにより、利害が一致しているようです。それにより、水野商品館/Handleの水野さん曰く、「彼女達のスキルを最大限に使えること」が企業側の最大のメリットだというわけです。

ちなみに、越前宝やの宝山さんは、企業側ならではのメリットも挙げていました。「駐車場・交通費のコストカット」「デスクの確保をしなくてよいこと」。会社の維持費や設備費も無視できないコストですので、確かにそういった側面でのメリットは納得できます。

 

最大の課題はコミュニケーション

とはいえ、リモートワークがメリットだけかというとそうではありません。3ショップとも他業界の企業と同じく「目が届かないこと」をデメリットとして挙げています。「正直さぼっていてもわからない」「何をしているのかわからない」というのは拭いがたい不安です。たしかに最近では、和気文具社長の岸井さんもおっしゃるとおり「着席退席状況がわかるシステムもいろいろある」のですが、これだと結局は企業側がスタッフ側に課すことになってしまい、下手をすると前述の「自由な時間で仕事ができる」というメリットを失くしてしまいかねない可能性が出てきてしまいます。しかし、企業側としては給料を払う以上はある程度の把握ができないと困ります。

それに対し3ショップでは現状、同じような考え方を持って実行しています。それは、「信頼関係を構築する」ことです。逆にいうと、信頼できる人しかできない、ということです。

さらに水野商品館/Handleの水野さんは「出勤して働いているスタッフから不満がないようにすること」を挙げています。会社に出勤しているスタッフの気持ちになってみれば、リモートスタッフの事情は頭ではわかっていても、「私は夜遅くまで会社に残っているのに…」など、どうしても不公平感が出てきてしまうのは致し方ないことだと思います。そのあたりのケアも、リモートスタッフ本人以上に気を遣わなければいけません。

一方、リモートスタッフ側ではこんな意見が出ています。

「現場が忙しいとすぐに返信対応できないときがある」(越前宝や)

「思っていることが上手く伝わらない。他のスタッフがどんな状況なのかが見えない」(水野商品館/Handle)

双方の意見をまとめると、「コミュニケーション不足」になりがちなのが、リモートワークの最大の課題になるでしょう。

「ついコミュニケーション不足になりがちです。人に何かを伝えたい時、教えたい時、『電話をかける』『チャットで文字を打つ』という手間があります。物理的に隣にいて話たほうが早いですし、伝わりやすいです。そのあたりの工夫が必要ですね」(和気文具・今田さん)

私もスカイプをはじめ、350万円もするテレビ会議の導入や各種Web会議システム、チャットの各種、プロジェクトツールもさまざまに使ってコミュニケーションを何とかできないかと実際にやってみたのですがなかなかうまく行かず、時にはパジャマ姿の社員を見てがっかりしたこともあります。

現在では無料で使えるツールも多く、業種によって使いやすい、使いにくいということはありますが、以前よりはコミュニケーションが取りやすくなったと感じています。もちろん、社会の流れもそうしているのだと思います。ただ、ツールが増えるとチェックする箇所も増えますのでできる限りひとつか、シンプルな使い方にしたほうがよいでしょう。ちなみにHandleのリモートワークスタッフは、直接会議に参加し、固定電話を通してあるため内線で会話ができたり、携帯電話を直通電話とし、Zoomを利用するなどでコミュニケーション不足という課題に試行錯誤しているそうです。

 

育成・指導・管理スキル

課題はあるものの、現在こうしてリモートワークを成立させている3ショップでは、経営者もスタッフも明るい展望を持っているのが特徴的です。和気文具の今田さんは言います。

「今は与えられた業務をこなすだけでは厳しく、成り立たないことが多く、リモートワーカー側にある程度のスキルが必要です。技術の進歩でその障壁も低くなるとは思いますが、今後は企業側がリモートワーカーを育成・指導・管理できるスキルが求められるのではないでしょうか」

世の中が、ギグ・エコノミー(インターネットを通じて単発の仕事を受注する働き方や、それによって成り立つ経済形態)の成長やツールの改善やテクノロジーの進化によって、ますますリモートワークは、特にECでは盛んになると思われます。会社のブラック化や働き方改革も課題になっていますが、リモートワークを積極的に行っている方々の様子を見ると業務を一生懸命やっていることがすごくわかります。

現状、ECで人材を確保しようとするとかなり難しくなってきています。企業側がリモートワークを推奨せざるを得ない状況もあります。そういう意味でも今田さんが最後に仰った「リモートワーカーを育成・指導・管理できるスキルを企業側が持つ」ということは非常に重要なことです。

 

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Text:川連一豊
JECCICA(社)ジャパンE コマースコンサルタント協会代表理事。フォースター(株)代表取締役。楽天市場での店長時代、楽天より「低反発枕の神様」と称されるほどの実績を残し、2003 年に楽天SOY受賞。2004年にSAVAWAYを設立、ECコンサルティングを開始する。現在はリテールE コマース、オムニチャネルコンサルタントとして活躍。 http://jeccica.jp/

掲載号

Web Designing 2019年10月号

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2019年8月17日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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高齢化や人口減少など、地方が抱える課題は山ほどあります。
一方で、インバウンドによる地域資源の再発見やITインフラの整備など、
ポジティブに捉えられる話題もあります。
もちろん地方の自治体・民間企業は今、大きな課題に対し真摯に取り組んでいますが、
WebをはじめとするITスキルのプロフェッショナルの力を必要としているのです!

WebやIT業界で活躍する制作会社をはじめとしたプロフェッショナルのみなさんは、
今そこにある地方の課題解決に多少なりとも貢献できるスキルを持っていると言えるでしょう。
また、ネットワーク技術の進化は働く場所の自由度を大きく広げました。
自分の理想とするライフスタイルに合わせて、住む場所をはじめ関わりを持つ地域の選択肢も増えています。
そこで、企業や制作会社の地方も視野に入れた働き方の可能性も追求していきます。


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●地方が抱える課題とは
・制作会社の力が活きる地方のニーズ

●地方におけるWebビジネスのヒント
・制作会社の強みを活かす 考え方と実践
・今行われている地方でのビジネスとは?

●自治体側の受け入れ態勢や協業、助成金

●地方との繋がり方
・「移住」は手段の一つ。「住まなくても繋がる」関係性

●企業で考えるべき「働き方」
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・サテライトオフィス、在宅リモートなど事例

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