2019.09.13
一億総編集者計画 Web Designing 2019年10月号
ビジネスマンの文章力 文章の校正を含めた伝達方法の応用
【今回のお悩み】「広報担当なので自社の会社概要テキストなどの作成はできますが、社員ブログまでも管理することになりました。文章力にも自信がなく、どのように運営すればいいかわかりません…」
Illustration: 浦野周平・児玉潤一
良い文章とは何かを明確にする
計画(1)文章と文体の違いを把握しよう
ビジネスマンにとって文章力向上の必要性は、さまざまな場面で説かれています。特に、ここ十数年で、メールやブログ、SNSと文章をアウトプットできる場が増えたことも大きく関係していることでしょう。
そこで今回は、編集作業の基礎体力となる「文章力」がビジネスにおいていかに重要で、どのように活用できるかを解説していきたいと思います。
まず押さえておきたいところとして、複数の文章で成り立つ「文体」までを考えることが重要だということです。文体とは、いわゆる「スタイル」や「らしさ」で、「トーン&マナー(トンマナ)」ともいわれます。
文体にも時流があります。昨今ではSNSの普及により、「口語調の短い文章で構成される文体」に親しみを持ち、心地よく感じるそうです。もちろん、「てにをは」「接続詞」「ら抜き言葉」といった基本的な文章知識も大事ですが、一文としての正確さだけでなく、文体を俯瞰的に見ることも大切。こうした意識が、文章力向上を目指すうえでは欠かせません。
計画(2)読み手への伝わり方を意識しよう
なぜ、文体は大事なのでしょうか? それは、文体が書き手のアイデンティティとなるからです。どんな性格で、どんな思いで、どんな立場で、伝えたい内容を書いているのか? それらは、文体によって伝わります。誠実さ、堅実さといった硬めの印象、親近感、自由さといった柔らかい印象と、文体次第で書き手の人格が浮き彫りとなるのです。
もちろん正しい文章で正確な情報を伝えることは重要ですが、それだけでは、読み手に伝えたい内容を理解してもらえません。読み手に感動や納得、共感といった感情の変化を生み出させることが必須となってくるのです。
今回のお悩みでポイントになるのは、同じ文章作成であっても、「会社概要」と「社員ブログ」では特性が異なるという点ではないでしょうか。会社概要は、正確性が重要となり、丁寧な言葉選びが必要です。一方、社員ブログの場合は、社員がメッセージを発信することの意味を考えて明文化した上で、どのような文体が適しているかを判断する必要があります。
社員の個性を打ち出すことが大事な場合は、あえて口語調のスタイルでまとめてみたり、複数の社員が同じ構成で執筆することで、個人の考えを比較してみるのも有効でしょう。
読み手の感情を掴むには、ターゲットを明確にしたうえで、そのターゲットのメリットを考える必要があります。ビジネス文章は、小説や詩とは違い、相手にとって必要な情報を届けることを前提としてある場合が多いからです。
また、「いかに共通認識を持ってもらえるか?」という部分も大事になってきます。読み手が「自分に必要な情報だ」と認識してもらえるような感情を抱かせるために、時には注意を喚起するような厳しい内容や、事実を集める努力も必要です。
運営者に求められる文章を読む力
計画(3)3つの「コウセイ」を活かそう
次は、文章を書くというテクニック的な視点だけではなく、文章を確認するという運営スキル(編集力)について解説します。
今回のお悩みは、社員ブログの管理ですので、仕上がってきた文章を確認する作業が発生します。企画書やレポートでも同様の作業をすることがあるとは思いますが、ブログの場合は、形式や内容もさまざまなバリエーションが考えられます。
そんな時に意識してほしいのは、3つの「コウセイ」です。
1つ目は、正しい裏付けを持っているかという「公正」の視点。事実だと証明できないもの(憶測)は避け、言質を取ることができたかの見極めです。自身の意見や感想であれば問題ありませんが、引用した場合、情報の出所を明記する必要があります。このステップにより、説得力のある文章にもつながります。
2つ目は、「構成」の視点です。文体をつくる際にとても重要な視点となり、長文であればあるほど必要となってきます。「結論を先に述べるべきか」「論理的な文章構成で理解度を深めてもらいたいのか」「あえて非論理的にして情緒を煽る構成なのか」など、読み手に何を伝えたいかを明確化して考える必要があります。
3つ目は、正しい日本語を使えているかという確認作業の「校正」です。雑誌や書籍の編集作業では、第三者にお願いすることもありますが、俯瞰的に文章を読み取る力が必要となってきます。書き手目線ではなく、読み手目線が必要です。言い換えれば、一番最初の読者としてのチェック。そのため、自身で行わず、あえて誰かに頼むことも効果的でしょう。
常に、この3つの視点を持っていることで、独り善がりにならず正確に伝わる文章を発信できます。
計画(4)レギュレーションからブランディングに
ここまで読めば、文章力は、「書く」と「読む」という2つの能力がセットであるとわかっていただけたと思います。今回のお悩みのように、自身で文章を書くだけでなく、編集者さながらの働きをしなければならない運営者役割を担う場合は、「読む」力は必須能力となってきます。
運営者の目線でもう少し踏み込んで考えてみると、書き手を管理する側面があるので、ルールづくりも行う必要がありそうです。文章を書くうえでのレギュレーションとなるルールを設けることは、冒頭で述べたトーン&マナーを維持するためにも有効です。
例えば、「自分が体験したことしか書いてはいけない」「誰かに取材した内容しか書いてはいけない」といった具合に、決めごとを設け、校正用には、単語の表記ルールを策定するのです。これらを細かく設定することで、確認作業の工数を減らすことができ、書き手も迷うことなく原稿を執筆できます。
あくまでも禁則的な発想ではなく、アウトプットの質を高める、フォーカスポイントの解像度を上げるための一貫性のある方法です。
これらのレギュレーションを徹底することで、社員ブログがコンセプチュアルな読み物となります。最終的には確固たるイメージが構築され、企業のブランディングにつながります。
ビジネスシーンでは、文章だけで物事を判断されることが多々あります。思いつくままに伝えたいことをまとめた文章、統一性がない文体で構成された文章で、あなたの人柄や仕事内容(会社)を判断される場合もあるのです。
そうならないためにも、編集力(読む力と書く力)を伴った文章力を極めて、さまざまな場面において主導権を持って仕事に取り組めるようにしたいものです。