デジタル時代のユーザーサポート大改革~ 改革へのキーワード編 ~|WD ONLINE

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特別企画 [PR] Web Designing 2019年6月号

デジタル時代のユーザーサポート大改革~ 改革へのキーワード編 ~

デジタルが浸透した現代に見合うマニュアルやサポートサイトのあるべき姿を考えるべくスタートした「新生マニュアル策定委員会」。多分野の有識者たちが議論を交わす中で、新生マニュアルを形作っていくためのキーワードが見えてきている。

新時代マニュアルのためにクリアすべき6つのポイント

2019年4月の発足以降、「新生マニュアル策定委員会」は「新時代に求められる製品・サポート情報」のあり方を見定め、まずは年内に新生マニュアルの骨子を策定するために議論を重ねている。その中で前提として取り組むべき議題が見えてきた。それが上述の6点だ。

まず重要なのが大義名分だ。「例えば『AIが利用される時代に取り残されないため』や『スマホ世代の利用者に役立つ製品・サポート情報を生み出していくため』など、こうした動きが必要な理由を定めてからでないと、変革には踏み込めない」(宮坂氏)という考えによるもので、今回の場合、製品やサービスの使用情報、マニュアルを作成するテクニカルコミュニケーター(以下、TC)の本来の役割である「使い手にとって最適なものを提供する」ことが大義名分と言える。

続いて行うべきが、新時代のマニュアル策定を阻んできた要因をクリアすることだ。委員会の発足以前から、一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会を中心に「新時代のユーザーサポートやマニュアルのあり方」を定義する動きは実施されてきたが、上述の(2)~(5)が壁となり、なかなか先鋭化していかなかった。そこで多業界のエキスパートたちがこれらの議題にアプローチしていき、その上で「(6)新時代に最適なサポートコンテンツのあり方、つたえ方」を見つけ出していこうというのだ。

一方で、取り組みを進めていく上で配慮を欠かせない事項も見つかっている。例えば「暗黙知に留まっている知見を軽んじてはならない」(黒田氏)ことや、「業界の構造事態を変える取り組みであるため、決して簡単なことではないと意識すべき」(安西氏)こと、あるいは「委員会メンバーはソフトウェア側の発想なので、TC業界を構成するモノづくりの人々とハレーションを起こさないようにすべき」(宮坂氏)といったことなどだ。

改革を実現する重要キーワードとは

改革を進めていく上で鍵となり得るキーワードも見え始めている。土屋氏は「カスタマーサクセス」を挙げた。単に製品の使い方をアテンドする「カスタマーサポート」とは異なり、製品がユーザーのビジネスの成功につながるために誘導して継続利用率を高めるもので、SaaS型のビジネスが採り入れている。ユーザーとの関係性が重要な意味を持つTC業界であっても、この概念から学ぶべき点は多いと言える。同時に宮坂氏は、「ユーザーが課題解決にどれだけの労力を要したか」を測る「カスタマーエフォートスコア(CES)」という指標の計測も大切だと話す。ユーザーに不要なストレスを与えないことがロイヤルティ向上につながるからだ。

ユーザーの利便性を高めるという観点では、巣籠氏が挙げた「アトミックデザイン」も興味深い。情報を「コンポーネント(部品)」として捉え、再利用可能にするデザイン手法は、企業や製品のブランド価値を高めるとともに、ユーザーに暗黙的な理解を促す効果があるのだ。それらの前提として、ユーザーにマッチした情報提供も重要だ。そこで安西氏が紹介したのが「ハイパー・パーソナライゼーション」だ。ユーザーの属性ではなく行動をベースにコンテンツをレコメンドしていく手法であり、ペルソナなどのマーケティング手法よりも現実に即した形でユーザーに寄り添って行けるだろうと説いた。

さらに黒田氏は、「現在のMac OSは必要なタイミングで情報を提供している。そうすることでユーザーの負担は大きく減少した」と語った上で、コンテンツの提供タイミングも検討すべきだと提唱した。

そして、これらのキーワードをTC業界に広めていく上で必要なのは「成功事例」だ。ひとつの成功事例が生まれると、多くの企業が追従する。先駆者となるのは誰か、そこに本委員会はどう関わるのか。多くの関係者が注目していくだろう。

 

 

UXデザインの視点 /SaaS型ビジネスの隆盛でカスタマーサクセスの価値が向上

デジタルトランスフォーメーションでユーザーを成功に導く

UX Design/Naofumi Tsuchiya

カスタマーサポートは「受け身」の仕事ではなくなる

今、世界中にデジタルトランスフォーメーションの波が訪れ、レガシーな企業もデジタルを活用してユーザーとのタッチポイントをつくらざるを得なくなっています。中でも代表的なのがSaaS型のビジネスでしょう。

SaaS型ビジネスは完成品をユーザーに届けたら終わりではなく、機能追加や改善がされ続けるものです。現在はクラウドを介してソフトウェアを利用させる形が主ですが、今後はメーカーもハードを出したら終わりではなく、定期的に機能追加や改善を行ってサブスクリプションで利益を得るビジネスに舵を切っていくことになると思います。それらの実現には、ユーザーの声を上手に収集して開発現場にフィードバックすることがポイントです。

そこで重視すべきが、これまでカスタマーサポートと呼ばれていた職種の存在です。従来は受け身の仕事でしたが、SNSやチャットなどを活用して企業側からユーザーに先にアプローチをする「攻めのサポート」を展開し、ユーザーの課題をその場で改善・提案をしたり、不満の声を集めて最終的にユーザーを成功に導いていくようになります。それはもはやサポートというレベルではないので、彼らは「カスタマーサクセス」と呼ばれるようになるでしょう。実際、海外ではカスタマーサクセスの観点で急成長を遂げている企業がありますし、日本国内でもカスタマーサクセスの専門家を企業の重役に配置する企業も出てきています。以前はサポートセンターを設置するには多大な費用が必要でしたが、今はカスタマーサクセスを実現するためのツールも多く存在するので、月額数万円程度の費用でスタートすることも可能です。

カスタマーサクセスの価値が向上すると、次はそのナレッジをチーム内で共有し、無駄なものは自動化していくステップへと進み、組織構造自体も変化していくのではないでしょうか。

そこで重要なのは、日本企業の中で成功事例を生み出すことです。日本は良くも悪くも右に倣えの風潮がありますので、どこかひとつ、カスタマーサクセスで突き抜けた成功を掴む企業が出てくると、他社もそれに追随し、結果的に日本全体に広がっていくでしょう。

カスタマーサポートは一般的に受け身の仕事と言われがちですが、カスタマーサクセスは能動的に「顧客の成功体験」をゴールとして、売上や解約率などを指標とする「攻め」の支援体制になります
土屋氏の会社・グッドパッチで実際に導入されているインターコム社のチャットシステム。顧客からの問い合わせを数時間(数分)以内に応える体制を、少額投資で実現しています

 

コンサルタントの視点/マニュアル起点ではなく、ユーザー起点で何をすべきか

CESの概念を導入し、バランスの良いところから着手する

CONSULTANT/Yu Miyasaka

ユーザーの課題解決がどれだけスマートにできるか

我々の調査では、過半数以上のユーザーはコールセンターに電話をする前にWebサイトを見ています。ユーザーも自分で解決したいと思っているが、Webを見てもわからないから電話をしているのです。ではFAQサイトを改善すればいいかと言うと、ユーザーごとに課題に直面している状況が異なっているため、それだけでは自力解決率は上がりません。

FAQサイトの改善で自力解決ができる人もいますが、ちょっとした導線の改修で解決できる人もいますし、他方では紙のマニュアルの改善によって解決できる人もいます。つまり「紙の情報をWeb化する」「デジタルを強化する」という発想ではなく、「ユーザーの課題解決のためには何をすればいいか」という考えを本質に据えるべきなのです。

そこで参考となるのが、「ユーザーが自らの課題解決のためにどれだけの労力を要したか」を測る「カスタマーエフォートスコア(CES)」という指標です。近年「感動体験」が重視されるようになっていますが、その提供は簡単ではありません。しかし質の低い製品・サービスは人の記憶に残りやすいものなので、CESを下げることが結果的に顧客ロイヤルティの向上につながります。

例えばコールセンターの対応において、ひとつの課題を解決しても続けて課題が表面化することがありますが、そこでユーザーに何度も電話を強いるとCESを上げてしまいます。その逆に、初回の電話で先回りの対応をすると余計なストレスを与えずに済み、CESを下げることになります。マニュアル作成やユーザーサポートにおいても、このような概念を上手く取り込むことが重要でしょうし、それが実現すると、マニュアルやユーザーサポートはサービスの利用促進などにもつながっていくのではないでしょうか。

CESの概念の導入には、カスタマージャーニーをつくって顧客の動きを見える化した上で、課題を解決したときにどれだけのビジネスインパクトを得られるかを見極めることが重要です。「解決した時のビジネスインパクト」「解決にかかるコスト」を鑑みた上でマトリクスに分け、インパクトとコストのバランスがいいところから着手していくと、いい結果を導き出していけるでしょう。

CES(顧客努力指標)は、上図のように顧客に質問をし、数段階の数字を選んでもらいます。その上位と下位の数をピックアップして、実際の顧客の満足度を図ります
「仕事上でどれだけの衝撃があるか」を縦軸に、「かかるコスト」を横軸にして、課題解決策として考えられる施策はどの位置に置けるか考えましょう。当然、「衝撃がより大きく」「コストがかからない」施策が重要視されてくると思います

 

企画協力:一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会

掲載号

Web Designing 2019年6月号

Web Designing 2019年6月号

2019年4月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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「自信に満ちた企画であってもなぜだか通らなかった」「用意周到に進めたつもりでもコンセンサスが得られなかった」。企画に関しては、そういった類のことが社内外を問わずに起こりうるものです。考えが浅いのか、企画が甘いのか、それともコミュニケーションが足りないのか。いろいろと頭の中で考えを巡らせてみるもののその答えはよくわからないまま、なんてことも多いと思います。
とは言っても、「誰も思いつかないエッジのたった企画を!」「すごい発想力が必要!」と意気込む必要はありません。

企画(力)は、①発見(インプット) ②立案 ③提案(アウトプット)の3段階でそれぞれの手順を踏めば見違えるほどレベルアップするのです。

本特集では、大きく3つの段階で考えるべきこと、やるべきことをステップ化し、Webビジネスの現場で「仕事につながる=お金になる」企画力の鍛え方を、順を追ってチェックできるように構成しました。
スピード感がもっとも重要な特徴の1つであるWebビジネスで「より速く」「より確度高く」「より効果の出る」企画を実現させるノウハウを凝縮しています。

【イントロダクション】
なぜ、あいつの企画書は通るのか?
クライアントの心を鷲掴みにする、勝つための「企画術」


【インプット】
●クライアントは頼りたくなる本当の「インプット」とは?
●課題明確化のためのヒアリング術
●意見を引き出すためのブレストノウハウ術


【企画立案】
●やるべきことを見誤らないために、正しく課題を洗い出す
●速く繰り返すアジャイル開発で答えを探ろう
●クライアントの反応からわかる企画提案の落とし穴
●デザイナーが主導する、企画のあり方


【アウトプット】
●読み手目線で伝える企画書づくり
●「聞かせる」「見られる」を意識したプレゼン術
●佐藤ねじ式・「企画」の流儀


●戦国武将から学ぶ、ビジネスに活きる“11”の企画
●チームで企画を生み出すためのTips「12」

など


※記事内容は変更になる場合があります。


【こんな方にオススメ!】
■競合他社に先んじて有力な企画を打ち出していきたい企業担当者、プランナー
■Webのスピード感に乗って数々の課題解決を提案する制作会社ディレクター、アカウント、クリエイター
■上司やクライアントに「費用対効果に見合う」と判断(納得)させ予算を引き出すノウハウを知りたい
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■企画を提案しても、クライアントに即決してもらえない&値引きなどの注文をつけられてしまう