ビジネスマンの企画立案能力 人を動かし作業を円滑に進める交渉術|WD ONLINE

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一億総編集者計画 Web Designing 2019年6月号

ビジネスマンの企画立案能力 人を動かし作業を円滑に進める交渉術

【今回のお悩み】「クライアントとWeb クリエイターの間に挟まれて、自分は伝書鳩のような状況なのですが、これって私がいる必要はあるんでしょうか? もっと能動的に動きたいのですが…」

Illustration: 浦野周平

「どう伝えるか?」よりも「どう伝わるか?」

計画(1)相手の立場、心境を考えるクセをつけよう

編集業務では、インタビュー依頼や撮影場所の許可など、社内の人や知人ではない、こちらの状況や都合を把握していない方へ連絡することが非常に多く、そういった方たちに了解を取り付けるために交渉するスキルも必要になってきます。これは、ビジネスシーンでもよく見られる状況ではないでしょうか。取引先への営業やニーズの聞き出し作業などもそうでしょう。

世界的大規模カンファレンス「TED Conference」でのプレゼンで有名なマーケティングコンサルタント、サイモン・シネック氏は、「何をするのか」から先に説明されるより、「なぜそうするのか」→「どうやってするのか」→「何をするのか」の順番で説明される方が、人は心が動かされやすいという「ゴールデンサークル理論」を提唱しています。編集作業では、まさしく、これと同じアプローチが重要視されています。なぜ、インタビューをしたいのか、なぜそこで撮影をしたいのか。まずは、「なぜ」の部分を明確にし言語化して対象者とコミュニケーションをとり始めます。

 

計画(2)伝達方法の“適材適所”を考えよう

クライアントとWebクリエイターに挟まれた立場の今回のお悩みも、「なぜ?」を自分自身で咀嚼し相手へ伝えることが解決の鍵となります。行動(指示)する理由(なぜ)を理解してもらうことによって行動を促すのです。

そしてもう一つ、現代ならではの重要なポイントがあります。それは、コミュニケーションツールの選択です。編集業務では、「何を伝えるか?」よりも「どう伝わるか?」ということが大事だという伝達についてのセオリーがあります。

わかりやすい例では、同じ内容でも手書きの手紙のほうが、メールで伝えるよりも思いが伝わります。これは手間暇かけた方がよいという話ではなく、相手にとってどんな手段で伝えると、より効果的かを考えるということです。

すなわち、相手の状況や立場を考え、最適な方法で伝えられているかということに尽きます。「テクニックを伴う効率的な話」に思えますが、実は「相手を思いやる」とても基本的な内容なのです。LINEでフランクな会話調の方が話を進めやすい人なのか、日頃のプロジェクトで使っているSlackの方が作業を進めやすいクリエイターなのか、など、自分のやりやすさではなく、プロジェクトメンバーがストレスなくコミュニケーションを取れる状況かを考えるのも大事です。

クライアントとWebクリエイターの考え、立場や役割など、二者は相容れない部分が多い場合、間に入るあなたが「なぜ? という動機となる部分を丁寧に話し、相手が一番フィットする伝達手段」を見極める力が必要なのです。

往々にしてビジネスでは結論や端的な内容を求められがちですが、言い方や伝え方一つで、人の行動や情報の性質が変わることは認識しておきましょう。動機となる感情面と業務効率となる指示内容を切り分け、効果的な伝達方法を考えることが大事なのです。

 

 

 

コミュニケーションのハブ的な役割になろう

計画(3)情報が集まる仕組みをつくろう

ここからは、自分自身に情報が集まるような「仕組み」の重要性に焦点を当てたいと思います。

編集作業において、特ダネやトレンド情報は自分自身で探しますが、ライターさんやブレーンとなるスタッフから情報が入ることが多々あります。そして、それらの裏付けとして取材を行うのですが、取材の前にまずその情報源に対して丁寧な「傾聴力」が必要となります。

「この話(情報)の本題はどこにあるのか。この人(情報提供者)は、なぜそんな情報を仕入れることができたのか」などです。決して疑いの目ではなく、その人が何を伝えたくて何を大事にしているか、などの真意を掴むスキルです。「情報の受け渡しと指示出し」に振り回されないためには、まずクライアントやクリエイターの真意を引き出し、アクションプランのプライオリティを見出す編集作業が必要なのです。

そして、ここでポイントとなるのが、単なる「聞き上手」ではなく、聞いた情報を自分自身の中で再構築する必要があるということです。いくら外部からよい情報が入ったとしても、それをそのまま伝えるだけでは価値はありません。情報を再構築にするには、前ページで述べた相手の状況や役割、業務内容(共通言語)を把握することが大切です。

例えば、クライアントが広報担当者であれば、彼らの仕事の進め方や決済がどこで降りるのか、Webクリエイターであればクリエイティブの作業時間がおおよそどれくらいかかるかといった具合です。そのため、周りにいるWebクリエイターや広報で働く知人や友人から、仕事内容などを事前に聞いたりし、情報を集めやすい環境をつくっておくという手段もとても有効と言えます。後手に回らず、相手の痒いところに手が届くマネジメントされた伝達手段の確立が重要なのです。

 

 

計画(4)条件付きのYESを取り付けよう

円滑なコミュニケーションを実現するには、「相手の立場や役割」を踏まえるエモーショナルな部分と「相手の業務内容」を把握するファクトの部分が必要だと述べてきました。しかし、これだけではまだまだ後手に回ってしまい伝書鳩状態になる可能性があります。では、他に何が必要なのでしょうか。

それは、交渉テクニックです。具体的には、「条件付きのYESを取り付ける」ということです。ただ駆け引きの上で成り立たせるといったことではなく、情報の整理をして「どの段階までならできるか」のグラデーションをつくる交渉です。

例えば編集作業では、インタビュー出演などこちらが提示する内容で実現できそうになければ、「どういった条件であればインタビュー出演をしていただけるか?」という実現可能な部分に目を向けた進め方をします。当初の予定とは変わってもコアコンセプト(ここではその人がインタビュー出演すること)がブレないような着地点を見つけるようにしているのです。すなわち、訴求したいメッセージは変わらないが表現方法が変わっただけという認識です。

もちろん、当初の予定とは変わってくることも往々にしてあります。その時、「どういったカタチなら対応できるか」といった視点を持っておかないと、なかなか前に進まないということが起こりうるのです。「あれもできない!これもできない!じゃあどうする?」といった負のスパイラルです。

もちろん、だからといって手を抜く、妥協をするということではなく、予算、期日を守った上でクリエイティブが成り立つというビジネスの仕組みを念頭において考えます。言われたことをそのまま伝える伝書鳩になることなく能動的に動くには、モチベーションだけではなく、伝達、傾聴、交渉といった編集力を活かすというロジックが重要です。

教えてくれたのは…酒井新悟
RIDE MEDIA&DESIGN株式会社 代表取締役社長 https://www.rmd.co.jp/ Facebook ID Shingo Sakai 大学卒業後、祥伝社へ入社。編集者としてファッション誌「Boon」に携わった後、BoonのWeb版「boon.web」でWebディレクターとして活躍。2006年にWeb、メディア、デザインを総合的に制作及びディレクションをするRIDE MEDIA&DESIGN株式会社を設立。現在は、従来の職域にとらわれない新しい時代の「編集力」を活かして、様々なソリューションビジネスに携わっている。

掲載号

Web Designing 2019年6月号

Web Designing 2019年6月号

2019年4月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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「自信に満ちた企画であってもなぜだか通らなかった」「用意周到に進めたつもりでもコンセンサスが得られなかった」。企画に関しては、そういった類のことが社内外を問わずに起こりうるものです。考えが浅いのか、企画が甘いのか、それともコミュニケーションが足りないのか。いろいろと頭の中で考えを巡らせてみるもののその答えはよくわからないまま、なんてことも多いと思います。
とは言っても、「誰も思いつかないエッジのたった企画を!」「すごい発想力が必要!」と意気込む必要はありません。

企画(力)は、①発見(インプット) ②立案 ③提案(アウトプット)の3段階でそれぞれの手順を踏めば見違えるほどレベルアップするのです。

本特集では、大きく3つの段階で考えるべきこと、やるべきことをステップ化し、Webビジネスの現場で「仕事につながる=お金になる」企画力の鍛え方を、順を追ってチェックできるように構成しました。
スピード感がもっとも重要な特徴の1つであるWebビジネスで「より速く」「より確度高く」「より効果の出る」企画を実現させるノウハウを凝縮しています。

【イントロダクション】
なぜ、あいつの企画書は通るのか?
クライアントの心を鷲掴みにする、勝つための「企画術」


【インプット】
●クライアントは頼りたくなる本当の「インプット」とは?
●課題明確化のためのヒアリング術
●意見を引き出すためのブレストノウハウ術


【企画立案】
●やるべきことを見誤らないために、正しく課題を洗い出す
●速く繰り返すアジャイル開発で答えを探ろう
●クライアントの反応からわかる企画提案の落とし穴
●デザイナーが主導する、企画のあり方


【アウトプット】
●読み手目線で伝える企画書づくり
●「聞かせる」「見られる」を意識したプレゼン術
●佐藤ねじ式・「企画」の流儀


●戦国武将から学ぶ、ビジネスに活きる“11”の企画
●チームで企画を生み出すためのTips「12」

など


※記事内容は変更になる場合があります。


【こんな方にオススメ!】
■競合他社に先んじて有力な企画を打ち出していきたい企業担当者、プランナー
■Webのスピード感に乗って数々の課題解決を提案する制作会社ディレクター、アカウント、クリエイター
■上司やクライアントに「費用対効果に見合う」と判断(納得)させ予算を引き出すノウハウを知りたい
■面白い企画なのにうまく実現できない、企画はバッチリのはずだけど承認されない・・・
■企画を提案しても、クライアントに即決してもらえない&値引きなどの注文をつけられてしまう