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河口先生の新刊「羽生と渡辺 ―新・対局日誌傑作選―」 ~控室の戦い~

2015.03.06 | 島田修二

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みなさんこんにちは。
A級プレーオフから目が離せない編集部の島田です。

今日は河口先生の新刊
羽生と渡辺 ―新・対局日誌傑作選―」を紹介したいと思います。


羽生と渡辺 -新・対局日誌傑作選-
著作者名:河口俊彦
価格:1,540円+税
四六判:240ページ
発売日:2015年03月24日

将棋世界の人気連載「新・対局日誌」はみなさんご存知かと思いますが、本書は連載開始、つまり羽生先生の七冠達成前夜から渡辺先生のデビュー戦までの期間の記事から面白いものを厳選した、傑作選となっています。

河口先生は1月30日に亡くなってしまいました。
本書は1月20日に打ち合わせをして、収録する記事を決定したものです。

目次はこのような感じになってます。




すべてが面白いのですが、今日はその中から一つ、私が好きな「控室の戦い」という記事を紹介したいと思います(自分本位)。

この記事で扱われている対局は、第54期C級1組順位戦▲中田功五段─△屋敷伸之六段と▲伊藤果六段─△阿部隆六段なのですが、河口先生がフォーカスしているのは対局者ではありません。
「控室」です。
この日の控室には羽生、郷田、村山、行方、先崎、北浜という精鋭が集まったのでございます。


本文ではこんな風に状況が説明されています。


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(C級1組はベテランも若手も頑張っている、という話から)
 小生も見習って、せめて時間一杯までは、と思ったのだが、端に集中攻撃を食らい、粘りようがない。投げようと思ったが、夕食を頼んだので、もうすこし坐っていることにした。他はどこを見ても中盤なのに、自分だけ早く終るのは、落ちこぼれのような気がしてくる。だから夕食休みのときに帰ろうと思った。

 そうして控室にいると、先崎六段と北浜四段が継ぎ盤を作りはじめた。いつの間にか、村山八段がテーブルにひじをついてぶすっと眺めている。道場の用心棒といった感じだ。
 盤上で素早く駒が動きはじめると、つい目を止めてしまう。そのうち、半袖姿の羽生六冠王が現れ、対局を終えた郷田五段も入って来た。それに行方四段も。
 どうだろう。これだけ粒よりのメンバーが集ったなんて、信じられない幸運ではないか。(中略)
 検討を見ていると、私も元気が出てきた。今日は、継ぎ盤の観戦記としよう。

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さぁ、始まりました。前代未聞の「継ぎ盤の観戦記」。

盤面はこうです。

ここで、中田先生は▲6九銀!!

へぇー!驚きの一手!
・・・と見せかけて控室はなんと指す前から全員一致!

美濃囲いで相手の攻めを遅らせる手筋なんですね。ふんふん。

対して△6九同とは相手の言い分を通すことになるため、屋敷六段は△1五歩!と裏口から手をつけます。

ははぁ。そっちですかー。
・・・しかし、この手も控室では予想済み!

あぁ恐ろしい。

本文ではこう書かれています。

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 控室はこれも予想していた。中田対屋敷戦にかぎらず、佐藤(大)対日浦戦、宮坂対所司戦その他全部調べているのだが、全部当る。控室の天才達の読みの量たるや、真に恐るべきものがある。
 継ぎ盤の周囲の声を盤上に再現するのは、もっぱら先崎君の役目である。これが、オーケストラの指揮者のごとく難しく、気を遣わなければならない。

※図は▲6九銀まで


 たとえば、▲6九銀と引いた局面で、六冠王が「歩をタラして、そうかちょっと寄らないか」と呟く。すぐ横から郷田君が「いや、角を捨てて必至じゃないかな」向い側の村山用心棒が「うん、あるな」とうなずく。

 すると先崎君は「じゃやってみましょうか」とか言って、実戦と同じの、△6九と、までの局面(▲6九銀以下、△1五歩▲同歩△1六歩▲同香△6九との局面)を進め、▲5三と寄と銀を取る。それから、△2六角▲2七金△1七銀と打ち込む。これから先の変化をみんなは言い合っているわけだ。


※図は△1七銀まで
 
断っておくが、実戦の手順が指される前の話なのである。

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面白いですね。まさに河口先生でなければ書けない文章です。

話はこの後も終局まで続きます。
そちらの模様は書籍で。

この本には、この他にも将棋界のいろいろな場面が描かれています。

羽生七冠達成当時の将棋会館の様子
森内、佐藤、丸山ら、羽生を追う若手
衰えを見せない中原の妙手、米長の会心譜
村山との別れ
順位戦で奮闘するベテランたち
変貌する森下将棋
郷田、一手トン死のドラマ
渡辺がデビュー戦で見せた才気

などなど。

これらの名場面を、その現場に立ち会い明瞭な筆致で伝えた河口先生の文章で、ぜひ追体験してください。

 

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